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第三十二話 白石律を、回収する

回収機は、人間より規則に忠実だった。


十二人分の予定が失敗しても停止しない。


確認者候補を森下へ移し、白石律を回収対象として残したまま、K―4の全扉を閉じた。


久我が扉へ槍を打ち込む。


「硬い」


「保全区画です。外から遺体を守る構造になっています」


「今は中から俺たちを出さねえ構造だ」


天井が開いた。


黒い回収袋が一枚、降りてくる。


人間一人を包める大きさ。


律の名札が付いている。


固定帯が四方から伸びた。


久我が二本を弾く。


森下が一本を避ける。


最後の一本が律の右腕の固定具へ絡んだ。


傷んだ肩が引かれ、視界が白くなる。


久我が帯を切ろうとした。


「待ってください」


「またか」


「今度は私を載せます」


久我の目が細くなる。


「説明しろ」


「回収先へ行きます」


「死体袋で?」


「C―0の中心が別にあるなら、回収物はそこへ送られます」


森下が即座に否定した。


「駄目です」


律は彼女を見る。


「理由は」


「今の白石さんは正式な回収署名が使えません。中で何かあっても、自分の手順で止められない」


「だから行きます」


「意味分かりません」


「今まで止められない時も、止められる前提で処理していました」


三田村の右手。


高瀬の記憶。


城戸が壊した記録核。


律は一つずつ口にしなかった。


森下には伝わったらしい。


「責任取るつもりですか」


「違います」


律は帯を自分の胴へ巻いた。


「原因を見つけます」


「それを責任って言うんです」


久我がため息をつく。


「森下。こいつ一人で行かせると死ぬ」


「だから止めてください」


「違う。俺も行く」


「肩、外れかけてるでしょう」


「知ってる」


森下が二人を見て、額を押さえた。


「じゃあ私も行きます」


「あなたは確認者候補です。残ってください」


「だから行くんです。勝手に次の確認者にされたまま残る方が危ない」


三人とも、相手の許可を取らなかった。


律が回収台へ横になる。


久我は台の下部へしがみつき、森下は保守用の側面足場へ乗る。


自動搬送が始まる。


暗い管路を、異常な速度で落ちていく。


何層下りたか分からない。


途中で一度、方向が水平へ変わった。


約三分後。


回収台が止まる。


扉が開く。


そこはダンジョンの中とは思えないほど古い人工施設だった。


壁には初期探索者協会の旧紋章。


東都ダンジョンサービスが設立される前のものだ。


中央に大きな機械がある。


C―0中枢。


だが人影はない。


画面には十五年前からの回収記録が並んでいた。


成功。

成功。

成功。


救助不能判定から回収へ切り替えられた人数、三百十四。


そのうち実際に死亡した人数、二百八十九。


残る二十五人。


生存。


「二十五人も、生きてた」


森下が呟く。


C―0はその二十五人をどう処理したか。


記録上は全員、《回収済》。


制度上、死者にされた。


律は妹の事故日を探す。


五年前。


対象者欄に妹の名がある。


救助成功率、基準以下。


回収困難度、高。


C―0切替、実行。


その直後。


別の記録。


外部照明装置、予測外稼働。


二名の探索者、生存経路へ復帰。


妹自身の判定は変わっていない。


彼女は死んだ。


だがC―0が切り捨てた後も、ライトを使って二人を救っている。


だから五年前の事故記録は、C―0にとって異常値として保存された。


律の古い署名が使われた理由も見つかる。


妹の遺品を受領した遺族。


さらに、その後遺品回収員となり、救助不能判定を何度も反転させた人物。


白石律。


C―0は律を学習対象として使っていた。


「妹さんを真似したんですね」


森下が言う。


「違います」


律は画面を見る。


「妹は、人を救うために予測を外しました。これは予測を当てるために人を回収しています」


機械が音声を出す。


『回収精度を維持します』


律の回収袋が開く。


固定帯が胸と脚を締める。


『白石律を回収し、異常値を除去します』


久我が槍を構えた。


「壊していいか」


律は十五年間の記録を見る。


作成者名は暗号化されている。


現在の操作者も分からない。


ここを壊せば、三百十四人分の記録と、妹の事故につながる情報を失う。


残せば、C―0はまた誰かを回収対象へする。


律は久我を見る。


「壊してください」


返事は早かった。


槍が中央核を貫いた。


今度は、律が止めなかった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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