第92話 継承される理
光が、世界を包み込んでいた。
それは破壊ではない。
創造でもない。
“再定義”。
理そのものが、書き換えられている。
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ひかりは、目を細めた。
「……すごい……」
空が、繋ぎ直されていく。
歪んでいた魔力の流れが、滑らかに整っていく。
壊れかけていた世界が——
“呼吸”を取り戻していた。
再構築は始まった。
だが、それは“完全”ではない。
どこか——揺らいでいる。
ひよりが、不安そうに呟く。
「……つむぎちゃん……大丈夫かな……」
答えは、返らない。
光の中心。
そこにはもう、姿は見えない。
その時、ひかり達の目の前の空間が揺らいだ。
——ギィン。
異質な音が、空間を裂いた。
その場の全員が警戒した。
そこに現れたのは——
無機質な面頬。
黒き甲冑。
夜を纏う騎士。
黒騎士アークレイン。
ひかりが目を丸くする。
「……黒崎本部長……」
「その名で呼ぶな」
そして——
その背後。
ふわりと、光が揺れる。
次の瞬間。
一人の青年が、姿を現した。
白いローブ。
長い杖。
鋭い瞳。
ひかりがその名を、震える声で呼んだ。
「グラン……?」
青年は、わずかに笑った。
至高位大魔導師グラン。
若き日の分霊体。
ヴァルドが、眉をひそめる。
「……何しに来た」
青年は、肩をすくめた。
「さあね」
ひかりが、呟く。
「邪魔はしないでよ?」
グランは、さらりと答えた。
「邪魔はしないさ……今回はね」
空気が、わずかに緩む。
だが——
その目は、すぐに鋭さを取り戻した。
「……状況は把握している」
視線が、光の中心へ向く。
「つむぎと、リリアスが接続したか」
ひよりが、食い入るように聞く。
「大丈夫なの!?」
若いグランは、わずかに沈黙した。
そして——答える。
「五分だな」
空気が、凍る。
「成功すれば、世界は安定する」
「失敗すれば—— 両者とも、消える」
ひよりの顔が、青ざめる。
「……そんな……」
グランの目が、細くなる。
「いずれにしろ、今、この世界で最も重要な儀式が行われている」
光の中心。
つむぎとリリアス。
ひかりが、拳を握る。
「……大丈夫だよね……」
ぽにゃが、小さく鳴く。
「ワン……」
ひよりが、涙を拭う。
「……絶対、大丈夫」
自分に言い聞かせるように。
「つむぎちゃんは……戻ってくる」
その時。
光が——変わった。
揺らぎが、収束していく。
暴れていた魔力が、静かに整っていく。
分霊体のグランが、目を見開く。
「……来るぞ」
次の瞬間——
光の中から、“二つの影”が浮かび上がった。
一つは——紅。
一つは——蒼。
ゆっくりと。
ゆっくりと——
その輪郭が、戻ってくる。
世界が、息を呑んだ再構築の結末が——
今、明らかになろうとしていた。




