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『億り人だった私、老後資金が底をつく前に異世界を救います』 〜今日も散財して召喚しまくってます〜  作者: talina
第九章

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第91話 再構築の鍵

 静寂が、戦場を包んでいた。


 崩れかけた空。


 歪んだ魔力の流れ。


 世界は——まだ、壊れ続けている。


 終わってなど、いない。


 ひかりは、はっきりと理解していた。


「……ここからだね」


 小さく、呟く。


 つむぎは、ひよりに支えられながら立っていた。


 呼吸はある。


 温もりもある。


 だが——


 どこか、違う。


「……つむぎちゃん」


 ひよりが、そっと呼ぶ。


 つむぎは、ゆっくりと顔を上げた。


 その瞳。


 優しい光の奥に——


 微かに、蒼い輝きが残っている。


「……大丈夫」


 微笑む。


 だがその声は、以前よりも“静かすぎた”。


 ひかりが、息を呑む。


(……まだ、残ってる)


 Λ—Ωの“何か”が。


 完全には、消えていない。


 人の温もりと——機械の蒼が、共存している。


「……大丈夫」


 微笑む。


 だが、その奥には明らかな“負荷”があった。


 ひかりが気づく。


(……無理してる)


 限界は、近い。


 セレナが、静かに口を開いた。


 「……話すわ」


 全員の視線が、彼女に向く。


 氷の中の神谷に手を添えたまま。


「魔物を……元に戻す方法」


 リリアスが、腕を組む。


「聞こう」


 セレナは、ゆっくりと語り始めた。


「……ここ数年で誕生した全ての魔物は、Λ—Ω(ラムダ・オメガ)の監督下にあるの」


 ひかりが、眉をひそめる。


「……どういうこと?」


「Λ—Ωが……意図的に生み出した存在よ」


 場の空気が、凍る。


「環境維持のための調整因子として、増えすぎた生命を削るために生み出されたの」


「世界のバランスを取るための……装置としてね」


 ひよりの拳が震える。


「……そんなの……」


「じゃあ、今までの戦いって……」


 セレナは、目を伏せた。


「イグナート様は、その手伝いをしていただけなの。そして、それは“必要な戦争”だったの」


 残酷な真実。


 ひかりが、歯を食いしばる。


「……ふざけないで」


「命を……そんな風に扱っていいわけないでしょ」


 セレナは、何も言い返さない。


 ただ——続ける。


「魔物を元に戻すには」


「Λ—Ωの管理権限を書き換えるしかない」


 視線が、つむぎへ向く。


「今、それができるのは——あなただけ」


 つむぎが、ゆっくりと瞬きをする。


「……書き換える……?」


 その言葉を、なぞるように。


 セレナは頷く。


「あなたは今、完全ではないけど……」


「“管理権限”に触れている状態」


「つまり、命令できる」


 リリアスが、目を細める。


「なるほどな……」


「王が変わった、というわけか」


 ひよりが、不安そうに言う。


「でも……それって……」


「つむぎちゃんに……全部背負わせるってことじゃ……」


 つむぎは、静かに首を振った。


「……違うよ」


 その声は、優しく強かった。


「これは……“戻す”だけ」


 空を見上げる。


 その時、つむぎの視界に無数の情報が流れ込む。


 魔力の流れ。


 生態系。


 気候。


 命の循環。


 すべてが、“見えている”。


「……すごい……」


 思わず、呟く。


 そして同時に——理解する。


「……でも……これ……」


 顔が、曇る。


「一人じゃ……無理……」


 リリアスが言う。


「ならば、分ければよい」


 全員が振り向く。


「役割を、な」


 つむぎが、目を見開く。


「……分ける……?」


 リリアスは頷く。


「魔力制御は、わらわが担う」


 ヴァルドが続く。


「物理的な均衡なら、俺が補助できる」


 ぽにゃが、ひと鳴きする。


「ワン!」


 ひかりが、笑う。


「情報整理なら……私、得意だよ」


 銀行員として、膨大な情報を捌いてきた経験。


「一人じゃ無理でも——」


 ひよりが、つむぎの手を握る。


「みんなでやればいい」


 つむぎの目に、涙が浮かぶ。


「……ありがとう……」


 ひよりは、笑った。


「決まってるでしょ」


「仲間だから」


 静かにつむぎは頷いた。


「……うん」


 その瞳の奥で。


 蒼い光が、優しく揺れる。


 支配ではない。


 共存。


 セレナが、呟く。


「……一つ、訂正があるわ」


 全員の視線が集まる。


 氷の中の神谷に触れたまま。


「さっき、“書き換えればいい”って言ったけど——」


 一拍。


「それだけじゃ、足りない」


 空気が張り詰める。


「このシステムは、“二重鍵”なの」


 ひかりが眉をひそめる。


「……二重?」


 セレナは頷く。


「一つは、“制御権限”」


 つむぎを見る。


「これは、今あなたが持ってる」


「でも——もう一つ」


 ゆっくりと、リリアスへ視線を向けた。


「“起動鍵”が必要」


 リリアスの瞳が、わずかに細まる。


「……ほう」


 セレナは、はっきりと言った。


「魔王の血よ」


 ひよりが息を呑む。


「……それって……」


 リリアスは、軽く笑った。


「なるほどな」


「よく出来ておる」


 その声音には、わずかな感心があった。


「“王の承認なしには世界を動かせぬ”仕組みか」


 セレナは頷く。


「暴走防止」


「そして、支配の固定」


 ひかりが言う。


「つまり……」


「つむぎ一人じゃダメで——」


 リリアスを見る。


「あなたが必要ってこと?」


 リリアスは、あっさり答えた。


「そういうことじゃな」


 つむぎが、ゆっくりと口を開く。


「……じゃあ……一緒にやれば……」


 その言葉に。


 リリアスは、少しだけ間を置いた。


 そして——


 笑った。


「面白い」


「世界の再構築を——“共同でやる”か」


 かつて世界を滅ぼしかけた魔王と。


 戦わなかった少女。


 その組み合わせ。


 あり得ないはずの選択。


 ヴァルドが、低く呟く。


「……前代未聞だな」


 ひかりが苦笑する。


「いつもそうでしょ、私たち」


 セレナが続ける。


「ただし、条件がある」


 視線が、つむぎとリリアスへ。


「同期が必要」


「魔王の血と、管理権限を“同時に接続”しないといけない」


 ひかりが顔を強張らせる。


「……それって……危なくない?」


 セレナは、はっきり言った。


「危険よ」


「失敗すれば——おそらく二人とも、消える」


 空気が、凍る。


 ひかりが、息を呑む。


「……そんなの……」


 言葉が、続かない。


 つむぎが、静かに笑った。


「……大丈夫」


 その笑顔は——優しかった。


 そして、覚悟していた。


 リリアスが、横目で見る。


「怖くはないのか?」


 つむぎは、少しだけ考えて答えた。


「……怖いよ」


 正直に。


 だが、続ける。


「でも——」


 ひよりを見る。


 ひかりを見る。


「みんながいるから」


 その言葉に。


 リリアスは、ふっと笑った。


「そうか」


 そして、一歩前へ出る。


 つむぎの隣へ。


「ならば——やるしかあるまい」


 魔力が、集まる。


 リリアスの血。


 “世界を書き換える権限”。


 つむぎの意識。


 “世界を理解する知性”。


 二つが、交わる。


 ひかりが叫ぶ。


「待って!!」


 二人が止まる。


「絶対……戻ってきてよ」


 震える声。


「どっちも、いなくなるのは……ダメだから」


 リリアスが、軽く肩をすくめる。


「無茶を言う」


 だが——


 その口元は、笑っていた。


「善処しよう」


 つむぎも、微笑む。


「……約束」


 そして。


 二人は、手を重ねた。


 瞬間——


 世界が、光に包まれる。


『——権限認証』


『——起動鍵、確認』


『——再構築プロセス、開始』


 空が、崩れる。


 大地が、震える。


 魔力が、流れを変える。


 世界が——


 “書き換えられていく”。


 その中心で。


 二人の存在が、光に溶けていった。


 ひよりが、叫ぶ。


「つむぎちゃん!!」


 ひかりも、手を伸ばす。


「リリアス!!」


 届かない。


 だが——


 確かに、繋がっている。


 再構築が、始まった。


 世界の命運を賭けた、最後の選択が。

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