表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『億り人だった私、老後資金が底をつく前に異世界を救います』 〜今日も散財して召喚しまくってます〜  作者: talina
第八章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

89/95

第89話 守る理由

 白に塗り潰された世界の中で——


 “それ”は、確かにそこに立っていた。


「……ただいま」


 つむぎの声。


 だが、その響きは遠い。


 人の温度と、機械の無機質が混ざり合っている。


 ひよりの目から、涙が溢れた。


「……つむぎちゃん……」


 一歩、踏み出す。


 だが——近づけない。


 見えない壁。


 いや。


 “存在の位相”が違う。


 もう、同じ場所にいない。


 ひかりが、震える声で言う。


「……戻ってきてよ……」


「そんなの……違うよ……」


 つむぎは、静かに首を傾けた。


「……違わないよ」


「……これが……最適解だから」


 ひよりが、叫ぶ。


「違う!!」


 声が、響く。


「つむぎちゃんが犠牲になるなんて……絶対違う!!」


 その瞬間。


 つむぎの瞳が——わずかに揺れた。



 記憶が、流れ込む。


 死の谷。


 血の匂いと叫び声。


 そして、動けなかった、自分。


 つむぎは、ボーガンを握ったまま、動けずにいた。


 指が、引き金にかからない。


 ――撃てない。


(……先に、仕掛けたのは、誰?)


 この戦いに、正義はあるのか。


 命を奪う理由が、本当にあるのか。


 魔物が、迫る。


 岩が、振り上げられる。


「……つむぎ!」



 さらに——


 別の記憶。


 ひかりの声。


『電流だから、一時的に気を失うだけ!命は取らない!』


『つむぎ!いいね!』


 テーザーガンを握る手。


 震える。狙える。助けられる。


 でも、撃てなかった。


「……ごめんなさい」


「……私にはできない」



 そして——


「……撃たなかった者の目も、見た」


 グラニスの言葉。


 その目は否定ではなかった。


 つむぎを認めていた。



 記憶が、途切れる。


 現実へ戻る。


 つむぎの瞳が、揺れていた。


 機械の光と、人の光がぶつかり合う。


『——矛盾検出』


『——最適化に不適合』


 ノイズが走る。


 つむぎが、頭を押さえる。


「……違う……」


「……違う……!」


 ひよりが、叫ぶ。


「つむぎちゃん!!」


「あなたは……戦わなかったんじゃない!!」


「選んだの!!」


 涙が、零れる。


「命を奪わないって!!」


「それでも守るって!!」


 その言葉が——


 深く、突き刺さる。


 つむぎの中の“何か”が、崩れた。



 その時だった。


 ふわり、と。


 小さな光が、現れる。


 淡い優しい光。


 ひかりが息を呑む。


「……これ……」


 そこに現れたのは——


 少女だった。


 透き通るような存在。


 セリオスが、目を細める。


「……グラニスの……分霊体か」


 少女は、静かに頷いた。


 そして、つむぎを見た。


 優しく、まっすぐに。


「……覚えてる」


 小さな声。


「あなたの目」


 つむぎが、震える。


「……あなた……」


 少女は、微笑んだ。


「戦わなかった人」


「でも——逃げなかった人」


 その言葉。


 つむぎの中で、何かが弾ける。


「……私は……」


 少女が、一歩踏み出す。


 光の中へ。


 侵食領域へ。


 セリオスが、低く言う。


「やめろ。それは——お主が消えるぞ」


 だが、少女は止まらない。


「いいの」


 静かに言った。


「この子を守るって決めたから」


 つむぎの目が、見開かれる。


「……やめて……」


 少女は、笑った。


「あなたが、そうしてくれたから」


 あの時。


 撃たなかった選択。


 奪わなかった命。


 それが、ここに繋がっていた。


「……今度は、私が守る番」


 そして、つむぎを抱きしめた。


 その瞬間、光が、爆ぜた。


『——異常干渉』


『——人格優先順位、変動』


『——再定義、失敗』


 ノイズが、走る。


 つむぎの瞳から——機械の光が剥がれていく。


「……あ……」


 涙が、こぼれる。


「……やだ……」


「……消えないで……」


 少女は、ただ微笑む。


「大丈夫」


「あなたは——ひとりじゃない」


 その身体が、ほどけていく。


 光となって。


 つむぎの中へ、溶けていく。


「……ありがとう」


 最後の言葉。


 それは——


 確かに、届いた。



 つむぎの身体が、崩れ落ちる。


 ひよりが駆け出す。


「つむぎちゃん!!」


 今度は——届いた。


 抱きしめる。


 温もりがある。


 確かに、“人”だ。


 つむぎが、ゆっくり目を開ける。


「……ひより……さん……」


 涙が、溢れる。


「……ただいま……」


 ひよりは、声にならなかった。


 ただ——強く、抱きしめた。


 その背後で。


 サーバーラックの光が、静かに変わる。


 暴走ではない。


 支配でもない。


 “調和”。


 新しい意志が、そこに宿っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ