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『億り人だった私、老後資金が底をつく前に異世界を救います』 〜今日も散財して召喚しまくってます〜  作者: talina
第八章

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第80話 開かれる禁忌

 軋みは、音ではなかった。


 現実そのものが悲鳴を上げている。


 ドクン——


 鼓動。


 それは生物のものではない。


 だが、確かに生きている。


 地の底。


 封印の奥。


 そこから何かが目を覚まそうとしていた。



 リリアスが、わずかに顔を上げる。


「……早いな」


 低い呟き。


 余裕は、もうない。


 その変化を、全員が感じ取っていた。


 ひかりが、息を呑む。


「どうするの……?」


 その問いに、リリアスは答えない。


 ただ、足元を見た。


 “下”。


 そこにある。


 すべての元凶。


 その時、神谷が笑った。


「……なるほど」


 ゆっくりと、手を広げる。


「この世界の住人が未来から来た者たちであることは気付いていたが……その術が、ここにあったか!」


 その声には、明確な意思があった。


 ヴァルドが低く言う。


「貴様……何を企んでいる」


 神谷は笑う。


「決まっているだろう?」


「……目の前に時間を越える術がある。この世界を書き換えれるじゃないか!」


 その目が、狂気に染まる。


「やり直せるんだ。何度でも」


「失敗した世界も、滅びた未来も——」


「全部、なかったことにできる」


 ひよりの背筋が凍る。


(……この人、本気で……)


 セレナが、静かに言った。


「イグナート様」


 その声には、わずかな不安が混じっていた。


「魔王の血は?」


 だが。


 神谷は、笑ったままだ。


「いや……もう魔王に用はない」


 一歩、踏み出す。


 足元。


 何もないはずの床に、手をかざす。


 ピキッ


 音。


 細い亀裂。


 床に——ではない。


 “空間”に。


 ひかりが叫ぶ。


「ちょっと待って……それ……!」


 だが、止まらない。


 神谷の指先が、さらに沈み込む。


 まるで、水面に触れるように。


 そして——


 掴んだ。


 ズンッ!!!!!!


 衝撃。


 世界が、一段沈む。


 全員の膝が、強制的に落ちる。


「っ……!!」


 呼吸が奪われる。


 重い。


 重すぎる。


 存在そのものが押し潰されるような圧。


「開いたな」


 神谷の声。


 その足元。


 何もなかったはずの場所に穴が開いていた。


 底が見えない。


 暗黒。


 だが、その奥。


 何かが、確実に“こちらを見ている”。


 ひよりの心臓が跳ねる。


(ダメ……これ、見ちゃいけない……)


 だが、目が離せない。


 リリアスが、低く言った。


「離れよ」


 その一言で、空気が震える。


 絶対的な命令。


 神谷は、笑った。


「遅い」


 次の瞬間、手を、引き上げた。


 “何か”を掴んで。



 それは、物質ではなかった。


 光でもない。


 闇でもない。


 情報。概念。形を持たない“知”。


 ズルリ、と。


 それが、引きずり出される。


 ひかりが、震える声で言う。


「……なに……あれ……」


 理解できない。


 だが、分かる。


 “ヤバい”。


 それだけは、確実に。


 その瞬間。


 リリアスが、動いた。


 空間が歪み、一瞬で、神谷の目前へ。


「放せ」


 低い命令。


 だが、神谷は笑う。


「嫌だね」


 バチンッ!!


 衝撃。


 見えない何かが弾けた。


 リリアスの手が、止められていた。


 “それ”に。


 掴まれている“何か”が防いでいる。


 リリアスの瞳が、初めて見開かれる。


「……干渉しておるか」


 神谷は、歓喜していた。


「素晴らしい……!!」


「これが……根源……!!」


 その時、声がした。


『——認識』


 全員の脳に、直接響く。


 冷たい。


 無機質。


 だが、圧倒的な“知性”。


『——接続開始』


 ひよりの視界が、割れる。


 世界が、分解される。


 数式。構造。情報。


 すべてが、一瞬で流れ込んでくる。


「……やめて……!!」


 頭を押さえる。


 耐えられない。


 壊れる。


 セレナが、叫んだ。


「イグナート様!!離して下さい!!」


 だが、神谷は、もう止まらない。


「これでいい……!!」


「これで……すべてを——!!」


 その瞬間。


 ズンッ


 “何か”が、完全に目を開いた。


 リリアスの顔が、歪む。


「……まずい」


 そして。


 “それ”が、言った。


『——最適化開始』


 世界が、書き換わり始める。


 ひかりの視界の端で、ぽにゃが微かに光った。

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