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『億り人だった私、老後資金が底をつく前に異世界を救います』 〜今日も散財して召喚しまくってます〜  作者: talina
第七章

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第74話 目覚めるもの

 地の底から、音がした。


 それは振動ではない。


 鼓動だった。


 ドクン——


 ルーメリアの谷。


 黒い霧の奥。


 何かが、脈打っている。


 ドクン——


 ひかりの胸が、同じように跳ねた。


「……なに、これ」


 息が詰まる。


 空気が重い。


 いや——


 “圧されている”。


 ひよりが一歩後ずさる。


「重い……」


 見えない何かが、身体の上に乗っているような感覚。


 呼吸が浅くなる。


 セレナが顔を歪めた。


「魔力じゃない……」


「こんなの……感じたことがない」


 レグルトも魔法の杖に手をかける。


 だが、その手がわずかに震えていた。


「これが……深層……」


 つむぎだけが、動かなかった。


 静かに、じっと谷の奥を見ている。


 その目は——


 “見ている”。


 表面ではなく、その奥を。


 リリアスが、ぽつりと呟いた。


「……早いな」


 ひかりが振り向く。


「何が?」


 リリアスは答えない。


 ただ、少しだけ目を細めた。


 そして。


 ゴゴゴゴゴゴ……


 谷全体が、揺れた。


 黒い霧が、裂ける。


 その奥。


 “それ”が、動いた。


 最初に見えたのは——


 目だった。


 巨大な、眼。


 人間のものとは明らかに違う。


 だが——


 確かに“こちらを見ている”。


 ひよりの喉が鳴る。


「……見てる」


 その瞬間。


 ズンッ


 世界が沈んだ。


 足元が、一瞬だけ消えたような感覚。


 意識が引きずり込まれそうになる。


「っ……!」


 ひかりが頭を押さえる。


 視界が歪む。


 色が抜ける。


 “見られている”。


 それだけで、存在が揺らぐ。


 ヴァルドが歯を食いしばる。


「……なんだ、これは……!」


 剣を握る手に力を込める。


 だが、その腕すら重い。


 つむぎが、一歩前に出た。


 すっと静かに。


 その瞬間。


 圧が、わずかに逸れる。


 ひよりが息を吸う。


「……軽くなった?」


 リリアスが笑った。


「ほう……やはりな」


 つむぎは、何も言わない。


 ただ——


 “それ”を見ている。


 巨大な目が、わずかに動いた。


 つむぎを捉える。


 その瞬間。


 声がした。


「……器」


 全員が凍りついた。


 直接、頭の中に響く声。


 音ではない。


 “認識”。


 ひかりが震える。


「今の……」


 リリアスが静かに言った。


「聞こえたか……なら、もう戻れぬな」


 レグルトが叫ぶ。


「何なんですか、あれは!!」


 リリアスは少しだけ考えた。


 そして——


 あっさりと言う。


「神のなり損ないじゃ」


 誰も理解できない。


 だが。


 理解できなくても——


 “ヤバい”ことだけは、全員が分かっていた。


 深層の民が、一歩下がる。


 先ほどまでの余裕が消えていた。


「……目覚めすぎたか」


 低い声。


 焦りが混じる。


 リリアスがそれを見て、笑う。


「貴様らでも制御できぬか」


 深層の民は答えない。


 ただ、谷の奥を見ている。


 その時。


 ドクン——


 再び、鼓動。


 今度は、強い。


 地面が裂けた。


 街道のすぐそば。


 バキッ!!


 大きな亀裂。


 そこから——


 何かが、這い出してくる。


 黒い腕……ではない。


 もっと、完成されている。


 “形”を持っている。


 人のようで。


 人ではない。


 ゆっくりと立ち上がる。


 身長は三メートルを超える。


 全身が黒い殻のようなもので覆われている。


 顔は——


 無い。


 だが。


 “視線”だけは、確実に感じる。


 レグルトが呟く。


「……新しい、存在……?」


 リリアスが首を振った。


「違う……近いぞ」


 ひかりが叫ぶ。


「何が!?」


 リリアスは笑った。


「本体に、じゃ」


 その瞬間。


 “それ”が動いた。


 消えた。


 次に現れたのは——


 ひかりの目の前。


「っ!?」


 反応できない。


 速すぎる。


 腕が振り上がる。


 終わる。


 そう思った、その瞬間。


 ガンッ!!


 衝撃音。


 止まっていた。


 “それ”の腕が。


 誰かに、受け止められて。



 つむぎだった。


 片手で止めている。


 細い腕で微動だにせず。


 ひかりの目が震える。


「……嘘」


 つむぎは、静かに言った。


「来ると思った」


 その声には、恐怖がない。


 ただ——


 理解があった。


 “それ”が、わずかに動きを止める。


 そして。


 再び、声。


「……適合」


 リリアスの笑みが深くなる。


「気に入られたのう」


 ひよりの背筋が凍る。


(まずい)


 直感が告げている。


(これ——)


(つむぎちゃんを……)


 その時。


 谷の奥の巨大な目が——


 完全に開いた。


 ドクンッ!!


 世界が、鳴った。


 リリアスが、初めて真顔になる。


「……これは」


 小さく呟く。


「少しどころではないな」


 そして。


 ひかりたちを見た。


「選べ」


 静かな声。


「戦うか」


「逃げるか」


 赤い瞳が光る。


「それとも——」


 一拍。


「利用されるか」


 沈黙。


 誰も、答えられなかった。


 ただ一人。


 つむぎだけが——


 “それ”を見続けていた。

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