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『億り人だった私、老後資金が底をつく前に異世界を救います』 〜今日も散財して召喚しまくってます〜  作者: talina
第七章

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第71話 沈んだ王国

 街道に残った沈黙は、しばらく誰も破らなかった。


 地面の奥で笑った気配。


 それはもう消えている。


 だが、誰もが感じていた。


 見られている。


 そんな感覚。



 ヴァルドが剣を振り、黒い液体を払った。


「……引いたか」


 レグルトが息を吐く。


「助かりました」


 ルーメリア人たちも、怯えながら頭を下げていた。


「ありがとう……」


「剣聖様……」


 その言葉に、ヴァルドは少し眉を寄せる。


 だが何も言わない。


 もう、否定する気もないのだろう。


 つむぎが空を見上げた。


「……変」


 ひよりが振り向く。


「何が?」


 つむぎは目を細めていた。


 武術家特有の、感覚の研ぎ澄まされた視線。


「空じゃない……」


「地面」


 彼女はゆっくり街道の先を指さす。


「……あそこ」


 全員が見る。


 遠く、地平線の向こう。


 そこにあったのは巨大な裂け目だった。


 まるで世界が割れたような谷。


 黒い霧が立ち上っている。


 レグルトが呟く。


「……あれが」


 リリアスが答えた。


「ルーメリアじゃ」


 ひかりが息を呑む。


「……え?」


 だが、よく見ると。


 谷の底。


 そこに都市があった。



 崩れた塔。


 傾いた城壁。


 沈んだ街。


 まるで世界の底に落ちた王国。


 ひよりが呟く。


「……本当に沈んでる」


 リリアスは淡々と言った。


「門が開きかけた時、国ごと落ちた」


「それが、ルーメリアじゃ」


 つむぎの目が鋭くなる。


「……来る」


 ヴァルドが振り向いた。


「どこだ」


 次の瞬間。


 谷の底から黒い影が跳び上がった。


 ドンッ!!!


 地面に着地する。


 姿が現れる。


 それは、魔物だった。


 だが、今までの魔物とは違う。


 体長三メートル。


 黒い角。


 赤い目。


 筋肉の塊。


 その体から放たれる魔力。


 空気が歪む。


 レグルトの顔が青くなる。


「……うそだ」


「この魔力……魔王級……」


 さらに。


 ドンッ


 ドンッ


 ドンッ


 次々と谷から飛び出してくる。


 十体。


 二十体。


 避難民が悲鳴を上げた。


「ひぃぃ!!」


 ひかりの体が固まる。


「……嘘でしょ」


 ひよりも呟いた。


 拳を握る。


「魔物とは……戦いたくない」


「私たちは」


「彼らと分かり合いたい……」


 だが。


 ヴァルドは、もう動いていた。


「いつまで綺麗事を言ってるつもりだ!」


 踏み込む。


 消える。


 ザンッ!!


 一体の首が飛んだ。


 次。


 ザンッ!!


 さらに一体。


 剣聖の剣は止まらない。


 速すぎる。


 見えない。


 ただ、残像だけが残る。


 ひかりが叫ぶ。


「剣聖!!」


 だが聞かない。


 ヴァルドの目は、完全に戦場の目だった。


 セレナが低く言う。


「もう、戦うしかないのよ……」


 ひかりが懇願する。


「お願い、リリアス止めて!」


 リリアスが笑った。


「無理じゃな」


「覚醒した奴を止めることは誰にも出来ぬ」


 その瞬間だった。


 バンッ!!


 空気が弾けた。


 ヴァルドの剣が止まった。


 完全に動かない。


 剣聖が凍りついたように立っている。


 ヴァルドの目が見開かれる。


「……何?」


 剣を握った腕が動かない。


 前に立っていたのは。


 つむぎだった。



 片手でヴァルドの手首を掴んでいた。


 沈黙。


 レグルトが呟く。


「……嘘だろ」


 剣聖の動きを止めた?


 つむぎは静かに言った。


「だめ」


「剣聖、戦うのをやめて」


 ヴァルドが睨む。


「離せ」


 だが、つむぎの手はびくともしない。


 リリアスの赤い瞳が細くなる。


「ほう……なるほど」


 楽しそうに笑った。


「面白い」


「お主、ただの傍聴者ではないな」


 つむぎは答えない。


 ただ静かに言った。


「殺さないで」


「まだ話せる」


 その瞬間、魔物たちが、ゆっくりと、こちらを見た。


 赤い目。


 そして。


 その一体が口を開いた。


「……ヒト」


 ひよりが息を呑む。


「喋った……」


 魔物は言った。


「……久しいな」


 その言葉に、リリアスだけが、ゆっくり笑った。


「そうじゃな、久しい」


 赤い瞳が光る。


「深層の民よ」


 リリアスはそう言った。

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