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『億り人だった私、老後資金が底をつく前に異世界を救います』 〜今日も散財して召喚しまくってます〜  作者: talina
第七章

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第69話 地面から来るもの

 出発は、夜明け前だった。


 塔の周囲にはまだ薄い霧が残っている。


 冷たい空気が、静かに肌を刺していた。



 ひかりは荷物を背負いながら空を見上げる。


 黒い雲。


 昨日見たものが、まだ遠くの空に残っていた。


 まるで空に染み込んだ汚れのように。


「……嫌な感じ」


 小さく呟く。


 その横で、ヴァルドが馬の手綱を引いていた。


「急ぐぞ」


 短い言葉。


 もう迷いはない。


 剣聖となった男の背中は、どこか前よりも大きく見えた。



 リリアスは退屈そうに歩いている。


「三日と言ったが」


「急げば二日で着く」


 レグルトが言う。


「転移魔法で一気に行けないのですか?」


 リリアスは笑う。


「お主、出来るのか?」


「いえ……私は未熟なので……」


「……ルーメリアには、世界一の強力な魔力に対する結界が施されておる」


「わらわでもできぬ」


「……魔王でも」


 ヴァルドは驚く。


「休まず進めば二日ね」


 ひかりの言葉に、リリアスは肩をすくめた。


「休む必要などあるか?」


 ひよりが苦笑する。


「私たちは普通の人間なんですよ、魔王様」


 その言葉に、リリアスはふっと笑った。


「そうじゃったな」



 隊列は静かに進んだ。


 森を抜け。


 丘を越え。


 昼過ぎには、ルーメリア方面へ続く大街道に出た。


 だが。


 そこで全員の足が止まる。



 道に


 人が溢れていた。


 疲れ果てた人々。


 荷物を抱えた子供。


 泣き続ける赤ん坊。


 老人。


 怪我人。


 まるで村ごと逃げてきたような集団だった。



 レグルトが目を見開く。


「何故ルーメリア人がここに……」


 ヴァルドが呟く。


「タリナ王国がフロストリアに攻め込まれて、彼らは行き場を失ったのだ……」


「ルーメリアに戻るのだろう」


 レグルトが疑問を口にする。


「なら、何故こちらへ?」


「彼らは、ルーメリア方面から来ている」



 ヴァルドが近づく。


「何があった」


 声は低いが落ち着いている。


 それを聞いた男が振り返った。


 顔色は真っ青だった。


「に、逃げろ……」


 男の声は震えている。


「まさか、ルーメリアに行くのか……?」


 ヴァルドは答える。


「ああ」


 男の顔が歪んだ。


「やめろ……」


「行くな……」


 ひよりが優しく聞く。


「何があったんですか?」


 男は言葉を探していた。


 口を開いては閉じる。


 震える手。


 やがて、絞り出すように言った。


「地面だ」


 ひかりが聞き返す。


「……地面?」


 男は激しく頷いた。


「地面から……」


 唇が震える。


「手が出てきたんだ」


 その瞬間。


 全員の背筋に冷たいものが走った。


 つむぎが呟く。


「手……?」


 男は続けた。


「最初は……揺れだった」


「地震みたいに」


「でも違った」


「地面が……動いてた」


 ひよりが息を呑む。


 男の声は震えていた。


「土が割れて、そこから手が」


「いっぱい……」


 その場にいたルーメリア人たちが、一斉に顔を青くする。


「掴まれた」


「引きずり込まれた」


「地面の中に」


 別の女が泣きながら言う。


「夫が……」


「子供が……」


 言葉にならない。


 ヴァルドが静かに聞く。


「それは魔物か?」


 男は首を振る。


「違う……」


「腕だけなんだ」


「顔もない」


「体もない」


「腕だけが」


「地面から出てくる」


 リリアスが、ぽつりと言う。


「……始まったか」


 全員が振り向く。


 ひかりが聞く。


「リリアス?」


 魔王は空を見ていた。


「門が、さらに開いた」


 レグルトが言う。


「では……残滓ですか」


 リリアスは首を振る。


「違う」


 赤い瞳が細くなる。


「今のは、残滓ですらない」


 ひよりが息を呑む。


「え?」


 リリアスは静かに言った。


「ただの」


「触手じゃ」


 空気が凍った。


 つむぎが震える。


「触手……?」


 リリアスは頷いた。


「本体が、深層から触れてきておる」


 その時だった。


 ズズ……


 地面が揺れた。


 ルーメリア人の悲鳴。


「まただ!」


 ひかりが叫ぶ。


「地面!」


 道の真ん中。


 土が、ゆっくりと盛り上がった。


 次の瞬間。


 バキッ


 地面が割れた。


 そこから、黒い腕が飛び出した。


 細い。


 長い。


 骨のような腕。


 その指が、近くにいた子供の足を掴んだ。


「きゃあああ!!」


 母親の悲鳴。


 子供が地面に引きずられる。


 その瞬間。


 閃光。


 ザンッ!!


 黒い腕が切断された。


 ヴァルドだった。


 剣を振り抜いたまま、地面を睨んでいる。


 だが。


 切れた腕は、地面の中へ、逃げるように引っ込んだ。


 沈黙。


 ひよりが呟く。


「……今の」


「逃げた?」


 リリアスが低く言った。


「いや、違う」


 赤い瞳が遠くを見る。


「これは、試しておる」

 

 ひかりが聞く。


「誰を?」


 リリアスは答えた。


「わらわらをじゃ」


 その言葉に。


 地面の下から、何かが笑った気がした。


 冷たい風が、街道を吹き抜けた。

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