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『億り人だった私、老後資金が底をつく前に異世界を救います』 〜今日も散財して召喚しまくってます〜  作者: talina
第七章

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第68話 消える残滓

 塔の下。


 十数片に裂かれた黒い肉が、地面に散らばっていた。


 ヴァルドは剣を構えたまま動かない。


 警戒している。


 ひよりが塔の上から叫ぶ。


「ヴァルド将軍!」


「大丈夫ですか!?」


 ヴァルドは短く答えた。


「あぁ、問題ない」


 そして黒い肉片を見る。


「だが……」


 眉を寄せた。


「妙だ」


 その時だった。


 ドロリ


 地面に落ちていた肉片が溶け始めた。


 ひかりが呟く。


「……あれ」


 肉が崩れる。


 影のように薄くなる。


 そして。


 消えた。


 塔の上が静まり返る。


 つむぎが震えた声で言う。


「……消えた?」


 レグルトが眉を寄せる。


「倒した……のですか?」


 リリアスが言った。


「違う」


 全員が振り向く。


 赤い瞳が細くなる。


「死んでおらぬ」


 ひよりが聞く。


「え?」


 リリアスは塔の下を見た。


「今のは」


「ただの影じゃ」


 ヴァルドが眉を寄せる。


「影?」


 リリアスは頷く。


「深層の存在は」


「まだ」


「こちらへ完全には出られぬ」


「だから、こうして影だけを出す」


 沈黙。


 ひかりが言う。


「じゃあ」


「本体は?」


 リリアスは空を見上げた。


 黒い雲。


 ゆっくりと蠢いている。


 そして言った。


「深層じゃ」


「門の向こう」


「ルーメリアの下」


 ひよりが息を呑む。


「……そんな」


 リリアスの声は静かだった。


「門が完全に開けば」


「今のものなど、可愛いものじゃ」


 つむぎが震える。


「もっと……やばいの?」


 リリアスは淡々と言う。


「世界が終わる」


 沈黙。


 ヴァルドが剣を収めた。


「なら」


「急ぐべきだな」


 塔の上を見る。


「ルーメリアへ」


 ひかりが頷く。


「うん」


 レグルトも言った。


「準備を整えます」


 だが。


 ひよりは黙っていた。


 視線はリリアス。


 魔王。


 思い出していた。


 記憶改ざん。


 未来の地球。


 消された歴史。


 そして。


 今。


 この世界で


 同じ力を使った存在。


(まさか……)


(魔王様が)


(未来の人類の記憶も……)


 不意にリリアスが、ちらりとこちらを見る。


 赤い瞳。


 ひよりの視線と合った。


 そして。


 魔王は小さく笑った。


 ひよりの背中に、冷たい汗が流れた。

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