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『億り人だった私、老後資金が底をつく前に異世界を救います』 〜今日も散財して召喚しまくってます〜  作者: talina
第五章

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第47話 氷上に降る軍旗

 フロストリア外縁――蒼氷の門。


 遠征部隊が帰還魔法陣を展開し、氷原を裂く光の軌跡が走る。


 勝鬨が上がる。


 だが、その上空を見下ろす者の表情は晴れなかった。


 フロストリア至高位大魔導師アウレリア・ノクティス。


 夜色の髪が風に揺れる。


 金の瞳が、わずかに細まる。


「……おかしいわね」


 術式の残滓。


 誰かが触れた痕跡。


 自分しか扱えないはずの転移魔法封印術が、わずかに撫でられている感覚。


 背後に気配。


 剣聖アルディオン・レイス。


「外の者だな」


 その瞬間。


 氷都の空が歪んだ。


 幾重にも重なる巨大な転移光輪。


 規模はとてつもなく大きい。


 門前の指揮官が取り乱す。


「バカな!封印があるはずだ!」


「破ったさ」


 静かな声。


 氷柱の影から、白い仮面の男が現れる。


「時は来た」


 空が裂ける。


 巨大な影が氷都を覆った。


 軍旗。


 蒼と白の双頭鷲。


 極東最大国家――アストレア連邦王国。


 先頭に立つ王女エリシア。


 その隣に立つのは、彼女の夫であり総司令官。


 レオニス・ヴァルハイト。


 鋼のような銀髪。


 獅子の紋章を刻んだ軍装。


 整然と並ぶ魔導騎士団。


 空中艦隊。


 結界砲台。


 さらに――


 赤衣の枢機卿。


 タリナ王国宗教権力の象徴。


 カーディス・レヴァンテ。


 彼は静かに囁く。


「エリシア様……父君の無念を」


 レオニスが剣を抜く。


「全軍、制圧開始!!」


 轟音と共に氷の城壁が爆ぜる。



 アウレリアは、白仮面の男を睨み据える。


 (核はこいつだ)


 話し合いは不要。


 杖が振るわれる。


 極寒の光槍。


 一直線。


 仮面の男はわずかに身を傾ける。


 光が仮面の頬を掠める。


 仮面に微かな亀裂。


 次の瞬間。


 ぱきんと乾いた音。


 白い仮面が崩れ落ち、氷上に破片が散った。



 仮面の下の素顔が露わになる。


 透き通る白い肌。


 整った鼻梁。


 青い瞳。


 美しいとすら言える。


 だが――


 アウレリアの呼吸が止まる。


「……あり得ない」


 その骨格。


 その目。


 その微笑。


「その顔は……」


 記憶が蘇る。


 つい数刻前。


 タリナ王国で討ち果たした老魔導師。


 白髪。


 深い皺。


 濁った瞳。


 至高位大魔導師。


 大賢者グラン。


 だが今、目の前にいるのは。


 若い。


 若すぎる。


 しかし。


 同じ顔。


 若き日の――グラン。


「まさか……分霊体」


 震える声。


 青年は微笑む。


「正解です、アウレリア」


 澄んだ声音。


「人は老いる。しかし魔法は老いない」


「私は魂を切り分け、保存した」


「若き日の理性だけを、残したのです」


 上空では戦火が拡大する。


 氷の塔が崩れ落ちる。


 レオニスの号令が響く。


 完全制圧体制。



 アウレリアは理解する。


 老いたグランは囮。


 本体は、この若き分霊。


 全盛期の思考と魔力。


「……お主が全てを動かしているのか?」


 青年は首を傾ける。


「動かす?」


「いいえ」


「均衡を保っているのです」


 青い瞳が揺れる。


「争いは、必要悪」


「制御された戦火」


「管理された痛み」


「停滞こそが滅びを呼ぶ」


 その目に狂気はない。


 あるのは、理論。


 完成された確信。


「円城寺ひかりも」


「フロストリアも」


「全て、必要な駒です」


 空が赤く染まる。


 氷都に降る軍旗。


 アウレリアの胸に、初めて焦燥が走る。


 目の前の男は――


 魔王でも狂人でもない。


 自分の思考が正しいと思っている。


 それが、最も恐ろしい。


 青年グランは微笑む。


「さあ、アウレリア」


「あなたは、どちらを選びますか」


「均衡か」


「崩壊か」


 氷上に、戦火が広がる。


 真の戦いの幕が上がった。

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