第46話 交錯する思惑
フロストリアの最深部。
氷の柱が林立する神殿跡。
凍てついた床に、淡い光が走る。
その中心に立つ男。
黒崎。
――いや。
この世界での名は、黒騎士アークレイン。
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「揺らぎ始めました」
背後から声がする。
白衣の女術者。
氷の魔法陣を維持している。
宙に浮かぶ水鏡には、ひかりの記憶が映っていた。
黒崎の姿。
老婦人。
いちご農園。
黒騎士アークレインは静かにそれを見つめる。
「礼を言う」
声は穏やか。
「ですが、完全に固定できていません。違和感を抱いてます――」
「問題ない」
「彼女は自分で結論を選ぶ」
その表情からは、いかなる感情も読みとれなかった。
⸻
「タリナ王国へ向かった者たちが帰還します」
術者が魔法陣を解いて言う。
「早いな」
黒騎士アークレインは呟く。
そして――
「頃合いだ。戻るぞ」
水鏡に、ひかりの姿。
氷の地で膝をつき、頭を押さえている。
葛藤。迷い。違和感。
それこそが鍵。
「彼女は守る側を選ぶと言った……」
黒騎士アークレインは静かに姿を消した。
⸻
氷の神殿に別の気配が現れる。
「……計算外だな」
白い仮面の男は小さく呟く。
だがすぐに、微笑へ変わる。
「いや。むしろ好都合か」
守ろうとする者。
守られた記憶。
守ると誓った女。
守りたい対象が増えるほど、失う痛みは強くなる。
白い仮面の男は、静かな瞳で魔法陣の跡を見る。
仮面の奥の目が冷たく光る。
「未来の地球は、争いを止めようとして滅んだ」
「抑圧は爆発を生む。ならば、制御された争いを与える」
そのための、異世界召喚。
そのための、ひかり。
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水鏡の中。
ひかりが立ち上がる。
小さな炎を灯す。
守る側になると誓った炎。
神谷はそれを見つめていた。
「そうだ、円城寺さん」
懐かしい呼び方。
「君は正しい」
優しい声。
「だが正しさは、必ず誰かを傷つける」
⸻
氷の塔の上で、新たな氷の魔法陣が強く輝いた。
フロストリアの空に黒い亀裂が走る。
「もうすぐだ」
神谷が呟く。
「彼女は正しい選択をする」
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一方。
「……ひかりさん、戻ってきて」
ひよりの必死の声。
その声が、わずかに届く。
水鏡の中で、神谷の目が細くなる。
「邪魔が入るか」
だが焦りはない。
計画は進んでいる。
黒騎士アークレイン、白い仮面の男、そして神谷。
三人のそれぞれの思惑が交錯し始めた。




