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『億り人だった私、老後資金が底をつく前に異世界を救います』 〜今日も散財して召喚しまくってます〜  作者: talina
第四章

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第39話 残された旋律

 元の場所まで、セリオスは無言で先導した。


 踏みしめるたび、足元の草木がわずかに身を引く。まるで森そのものが、彼に従っているかのようだった。


 次第に空気が変わる。


 冷たい。


 だがそれは、雪の気配ではない。


 時間そのものが薄く凍りつき、流れを鈍らせているような感覚だった。


 視界の先に、白銀の都フロストリアがくっきりと浮かび上がる。


 ひよりは胸を押さえた。


 鼓動が、速い。


「……やり直しの星」


 セリオスの言葉が、頭から離れない。


 地球は破滅した。


 未来人が、過去へ移住した。


 文明は封じられ、記憶は消された。


 ならば――


 なぜ、自分の曲は消えていない?



「まだ話しておらぬことがある」


 背後からの声に、三人は振り向く。


「記憶は消された、と言ったな」


「……はい」


「だが、完全には消せぬものがある」


 風が、梢を震わせる。


「魂に刻まれたもの……本能だ」


 つむぎの肩がわずかに強張る。


「争いの(たね)は人の奥底に残る本能だ」


 セリオスの視線が、まっすぐにつむぎを射抜く。


「そして――創造の(たね)もな」


———


 ひよりの指先が、震えた。


「……私の曲は」


 セリオスは、静かに頷く。


「あれは消しきれなかったものだ」


「え……?」


「未来で、ある研究があった」


 森が低く唸る。


「人の本能を、抑制する研究だ」


「戦争を起こさぬために?」


「そうだ」


 ひかりの顔が曇る。


「その研究の副産物として生まれた理論がある」


「共鳴誘導理論」


 聞いたことのない言葉。


「人の心の波長を整え、攻撃本能を沈める音の配列」


 ひよりが首を傾げる。


「……音?」


「旋律だ」


 セリオスは、力強く言った。


「そなたの作った曲はな――」


「その理論と、ほぼ一致しておる」



「は……?」


 ひかりが間の抜けた声を出す。


「偶然、でしょ?」


「図らずもな」


 セリオスは淡々と続ける。


「レグルトが弾いたのは、古くから森を鎮める歌として伝わっている旋律だ」


 ひよりの呼吸が止まる。


「それを、そなたはアイドルに歌わせたい曲として作った」


 足元が、揺らぐ。


「つまり――」


 ひよりは息を呑む。


「争いを抑える旋律が、時を越えて伝承されてきたのだ」


「……それが、そなたの曲だ」



 つむぎが、ぽつりと呟く。


「……じゃあ、私の中の争いの(たね)は……」


「未来で暴走した血の系譜だ」


 セリオスは捲し立てる。


「そなたの子孫の中に、世界を割った者がいた」


 つむぎの鼓動が高まる。


「その末裔が――ヴァルドだ」


 つむぎが頷く。


「ヴァルドは、そなたの遥か未来の血を引いておる」


 つむぎの膝が、わずかに震える。


「……じゃあ、私が……いなくなれば……」


「違う!」


 強い声だった。


 セリオスの瞳は、真剣だった。


「未来で争いを選んだ者がいた。だが、世界を守ろうとした者も同じ血から生まれておる」


「グランは、そこに賭けたのだ」



 ひかりが前に出る。


「つまりさ」


 ぐっと拳を握る。


「つむぎは、“争いの未来”と“止める未来”の両方を持ってるってこと?」


「そうだ」


 セリオスは静かに頷いた。

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