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初陣③

「最近、身の回りで怪しいことが多くて…少々困っておりましてな。」

漱石の家での居間で卓袱台を囲みながら、お手伝いのきよさんが用意してくれた夕飯の焼き魚を食べながら、漱石が口を開いた。

「先生…お客様も初めてですし、そのようなお話をいきなりされてもお困りになるのでは…?」

漱石の身の回りの世話をしているというおきよさんが、漱石へ困ったような顔を向けた。

「怪しいこと、というと?」宮崎が訊いた。

「そうですね…今日のようにペンを盗まれたり、夜中に怪しい物音がしたりしておりましてな…また、大学に不審者が入って騒ぎになったこともありまして…私を狙う何者かがいるんじゃないかと不安で筆も進みませんでしてな…」

漱石が不安そうに話す。宮崎の膝の上で丸くなっていたハクの耳が、ピン、と動いた。

黙って聞いている3人に弁明するように、おきよさんが申し訳なさそうに話した。

「すみません…先生は少し神経質なところがありまして…以前もこういうことを仰ることが何度もあったんですが、そのたびに気のせいだったということがありまして…。先生、今回も気のせいなんじゃありませんか?」おきよさんは半ば呆れながら言った。

「気のせいなんかじゃない。私にはわかる。」漱石がおきよさんへ言うと、中山が口を開いた。

「その件、我々で良ければお手伝いさせていただきましょうか。」

漱石が「どういうことですか」と問うと、中山は続けた。

「我々は…えー…そう…探偵事務所を営んでおりましてね…。」

「探偵事務所?」漱石が訊き直した。

「ええ、そうです…。なのでそういった…いわゆる難解な事件の捜査には慣れているのです…。すっかり申し遅れてしまいました。私は事務所所長の中山と申します。こちらは甥で探偵見習いの楽人。こちらは弊所所属の元軍人で探偵の宮崎です。」

「探偵の宮崎です。改めてよろしくお願いします。」宮崎は箸と茶碗を置いて軽く頭を下げた。

楽人も混乱しながら宮崎に習って箸と茶碗を置き、「楽人です…」と頭を下げた。

「もしよければ、お宅に空いているお部屋などはありませんか?」中山が問うと、戸惑いながら漱石が答えた。

「部屋はいくつか空いているが…」

「我々3人、泊まり込みで捜査させていただけると早いかと思います。先程の盗人を退治した様子からもお分かり頂けたかもしれませんが…我々には…あー…武道の心得もあります。先生の身になにかあったときに、いつでも駆けつけてお守りしますよ。」


「あのー…それで…なんで泊まり込みで捜査するなんてことになったのか…そろそろ教えてもらえませんか…?」

漱石の家で夕飯をごちそうになり、風呂を借りて寝間着と明日の着替えまで借りて(おきよさんいわく、「お客様方は他の地方か海外からいらした方ですか?お召し物がこの辺では見かけないものですので…探偵さんならきっと目立ちすぎるのも良くないでしょうし、漱石先生のお古をいくつか貸して差し上げますね。」)3人の寝室へ案内されたところで、楽人はしびれを切らして口を開いた。

楽人より先に寝室に入っていた宮崎、中山、宮崎の肩に乗ったハクは、しばらく顔を見合わせ、部屋の中央に敷いてあった布団の上に車座になるようにあぐらで(ハクは宮崎の肩に乗ったまま)座り込んだ。中山に手招きされ、楽人も2人に倣った。

「漱石が道真に狙われている可能性が高いからだ。」最初に口を開いたのは、宮崎だった。

急な結論に、楽人が意味がわからず黙っていると、

「あー…怨霊はな…天才たちの脳を狙う…。」中山が先程社交性を発揮しすぎた反動か、いつもより言葉少なに説明した。

「漱石は明らかにこの時代の天才の一人みゃ!昼間の泥棒のことといい、道真に狙われているかもしれないみゃ!漱石を狙って現れたところをばしっ!てやっちゃおう!ってことみゃ!」

楽人は続き(と途中の端折られた部分の補足)を待った。が、例のごとくこれ以上説明しようとするものは誰もいなかった。世界は(いや、もしかしてガクジンという組織が、なのか?)相変わらず不親切で説明不足だ。楽人はワープゲートをくぐり抜けてきた直後の辺りから記憶を辿った。

「えー…これまでの状況と三人の説明をまとめると…道真は各時代の天才たちの脳を狙っていて…昼間の怨霊による泥棒の一件から…三人はこの時代では漱石が狙われていると考えていて…だから出現時にすぐに道真を倒せるように近くにいたくて…ガクジンって組織が知られてるわけじゃないから怪しまれないように探偵ってことにして…?宮崎さんがすでにここにいたってことは…ガクジンっていうのはもしかして怨霊が出現したときに天才たちを守れるように各時代に配置…?されていて…?僕達がタイムリープしてきたのは…ハクの鈴がこの時代、明治時代に怨霊の反応を検知したから…もともと明治時代に配置されていた宮崎さんのアシストに入れ…的なこと…?」

「ああ」「概ねそうだ…」「せいかーい!さすが楽人、よくわかったみゃ!」それぞれ頷く3人に、楽人は天を仰ぎたくなるのをこらえた。今回はあまりにもひどい…。説明不足すぎて何かの罪に問えそうなくらいだ…。今度ガクジンのなんか…そういう担当みたいな人がいたら文句言おう…。

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