初陣①
ワープゲートをくぐり抜けると、まず楽人の目に飛び込んで来たのは木造の家屋と、瓦でできた屋根だった。家々に挟まれた道幅は狭く、小道のようになっている。足元は乾いた土でできた道となっている。先にゲートを抜けたハクがちょこんと座り、楽人の後から中山がゲートを抜けてきた。
そう遠くないところから人々が行き交うざわざわという声が聞こえる。近くに大通りがあるみたいだ。
「いらっしゃい!」という声も混じっており、ここが日本であることに楽人は安堵した。
しかし…なにか違和感がある…。楽人の知っている住宅街とは明らかに姿が違う。広い空と全体的に茶色の光景には、どこか見覚えがあった…。なんだっけ、これ…
「泥棒!」
大きな声に反応して声がした方を見ると、大通りと思しき方向から男が凄まじい早さでかけてきた。後ろを気にして手に何かを持っている。そのただならぬ様子から、楽人は男を通すまいと手を広げた。
「ちっ!」
男は舌打ちするとともに止まったが、にやりと口元を歪めた。
「ガキが…そこをどけ!」言うが早いか、男の左腕がメキメキと形を変え、黒い大きな翼へ変わった。
楽人がその変化に息を飲むと、中山が楽人に拳銃を差し出した。
「さあ…ラッキーだ、少年。早速実践訓練の時間だな…。俺の拳銃を使うといい。こいつには特殊な力が込められている…怨霊に効くはずだ。」
楽人は頷いて拳銃を受け取ると、銃口をまっすぐ男へ向けた。しかし男は銃口にもひるまず、左手の翼を大きく羽ばたかせた。
翼から黒い羽が閃光のように放たれ、楽人は「危ない!」と叫ぶ。
中山は飛び上がって瓦屋根の上へ、ハクを抱いて躱した。
楽人は身をかがめて羽を躱し、低い姿勢のまま両手で拳銃を構え直し、引き金を引いた。
ダァン!という音とともに放たれた拳銃が男の足元の地面を削る。
男は弾丸をものともせず楽人へ距離を詰めてくると、翼の鈎爪のついた手を伸ばし、楽人へ掴みかかった。楽人は間一髪のところでその攻撃を躱す。男の懐に入ったその姿勢のまま、男の腹部めがけて再度引き金を引いた。
「うっ!」
男は姿勢を崩し、見事に弾丸が命中した腹部を押さえてのたうち回った。
「畜生…!」
楽人が銃口を男へ銃口を向けながら立ち上がると、男は楽人の方を向いたままうつ伏せの姿勢になり、翼のある左手を伸ばした姿勢で動かなくなった。
「ふう…」楽人が息をつく。心臓がまだバクバクと音を立てていたが、しばらく動かない男を見て、銃口をおろした。
「ハクたち、もう大丈夫そう」
楽人がハクと中山に向けて叫んだその瞬間、動きを止めていた男ががばっと起き上がり、鋭い鉤爪を楽人の喉元向けて降りかかった。
「少年!」「楽人!」中山とハクの声が聞こえたが、間に合わない。もうだめだ…楽人が顔を腕でかばいながら目を瞑る。
しかし覚悟した衝撃は、なかった。
代わりに、キィン!という音と、何かが地面に崩れ落ちる音が聞こえた。
恐る恐る腕を下ろし、目を開けると…一人の青年が立っていた。手には軍刀が携えられている。
青年の足元には、男が倒れていた。白目を向いている。翼もいつの間にか消えて、左手は本の通り、普通の人間の手になっている。今度こそ、確実に気を失っているみたいだった。
楽人は腰を抜かし、尻もちをついた。
「倒したことを確認するまでが戦いだ…覚えておけ。」青年は楽人の方を見ることもなく、短く忠告した。
「初戦なんだ…許してやってくれ…。」中山が屋根から降りてきて青年へ話しかける。
「戦いに初戦も何も無い…あんたがついてながら…」
中山の方を見た瞬間、青年の目の色が変わった。中山の顔をじっと見つめる。青年は軍刀を腰の鞘にしまうと、中山にゆっくり手を伸ばす。何?仲悪い?喧嘩?楽人が緊張しながら二人のやり取りを見ていると、青年は伸ばした手で中山の肩に乗っていたハクを持ち上げた。
ハクはニコニコと青年の方を見ている。青年は無表情のまま、ハクを高い高いの姿勢でしばらく持ち上げていた。
「宮崎~!久しぶりですね~!」ハクが嬉しそうに顔をほころばせた。




