遊ぼうぜ⑧
「少年…猫はな…投げるもんじゃないぞ…くくく…」
笑いながらハクを地面に優しく戻す中山。ハクはぶるぶるっと体を震わせながら、
「楽人…、これで僕が中山に叩かれてたらどうするみゃ~…か弱い猫は死んじゃうみゃよ~」と悲しそうに口を開いた。
「ハクはほら、僕と戦ったときバリアみたいなの使ってたし、大丈夫かなって思って…あとなんか中山さん、左手空いてたから、そっちで防ぐから棒は当たらないかな~と思って…」楽人は気まずそうに言った。
「ふふ…正解だよ、少年…」
「そして太刀筋もなかなかのものだ…剣道の心得があるのか?」
「いや、ないけど…なんとなく使うならこうかなって思って…」
「それは才能ってやつかもしれないぞ、少年…お前さんは長物の武器が合うかもしれんな…それにしても…くっくっく…投げられた時のハクの顔、見たか、少年…。」
「中山…令和ではそういうのは猫ハラスメントっていうみゃ。」
ハクがそっぽを向いて口を尖らせる。
楽人はそんな二人を笑って見ながら、じわじわと体が痛むのを感じた。集中して忘れていたが、あれだけの打撃を受けたのだ。体中きっと痣だらけに違いない。しかし不快ではなかった。寧ろ自分の成長を感じるような、勲章のような痛みだった。
三人は再び来た道を草むらをかき分けて歩き、ワープゲートまで戻ってきた。
大きな木枠の中には、来たときと変わらず中山の小屋の中を薄暗く映していた。
「さて…じゃあ鍛錬も一通り終わったことだ…日本に帰…」中山が言いかけたとき、大きな音が辺りに鳴り響いた。この音は…楽人は思わずハクを見る。ハクの首元で、鈴が鳴り響いている。しかし河原の時のような、けたたましい鳴り響き方ではない。りーーーーん、りーーーん、という、一音ずつが長い、遠くの何かを指し示すような音だった。
「この音は…?」と楽人がハクに問うと、ハクが答えた。
「大変、怨霊が発生したみたいみゃ!楽人、中山、行くみゃ!」
中山はしばらく木枠に映る自分の小屋を見つめていたが、ため息をつきながら木枠に手をかざし、それに応えるかのように木枠がぼんやりと光を放った。ゆっくりと光が消えるとともに映し出されたのは、木でできた家々からなる、路地のような場所だった。初めて見た光景だったが、楽人には見覚えがあるような不思議な感覚があった。この光景、どこかで…?
「さあ早く、行くみゃ!」とハクが先導して鏡だった木枠の中へ入っていった。
残された中山は楽人に先に木枠へ入るよう促した。楽人が促されるまま歩みを進めると、木枠に触れる寸前で中山が楽人に声をかけた。
「少年、ここからが実践だ…。とはいえ…お前さんはまだ中学生だ…できるだけ俺達が守れればと思うが…そうも行かないこともあるだろう…。いかなる時もお前さんは…自分の命を最優先にするんだ…いいな。」
中山は楽人の目を真っ直ぐ見下ろした。真っ暗なその目に映るものが楽人にはなにかわからなかったが、その発言が多くの経験に基づくものだということははっきりわかった。
「わかりました。」楽人が頷くと、中山も頷き、
「さあいけ。鬼が出るか蛇が出るか、楽しんでいこうぜ。」楽人の背中を軽く押した。




