遊ぼうぜ⑥
時々振り返り中山の様子を確認するが、説明通り楽人に追いつこうとする気配はない。
中山を視認できないところまで離すと、楽人は戦略を実行に移した。
ざっ、ざっと木の葉を踏み分ける中山の足音が聞こえたとき、ちょうど仕掛けが終わったところだった。手は泥だらけだったし、できた仕掛けは想定していたより遥かに拙かった。
それでも、やってみるしかない、という思いが楽人を奮い立たせた。
中山の足音が聞こえる方を見ながら、楽人は軽くステップを踏んだ。
中山はニヤリとして、「準備ができたみたいだな」と言った。
楽人はステップしていた足の着地と同時に、中山の方へ勢いよく駆け出した。
中山は余裕の様子で楽人の手をかわしていく。あえてギリギリのところで避けるような様子に楽人は改めて身体能力の差を感じる。
でも、もしかしてこれでいいんじゃないか…楽人は思った。
差があればあるほど相手は油断する。油断さえしてくれれば…いまだ!
楽人を避けるように後退していた中山の体が、軽くバランスを崩した。足元には、ツタが張ってある。楽人が木と木の間に張り巡らせておいたツタに、見事に中山が引っかかった。
ぐらりと傾く体をめがけて、楽人は突っ込むように左手を伸ばした。
しかし手はまたしても宙を掻いた。
なんと中山は後ろに倒れていくように崩れた体勢のまま、両手を挙げて手のひらを地面につけ、そのままバク転した。鮮やかな中山の肢体は、そのまま見事に着地を決めた。
「はあ!?」
思わず楽人は声を上げ、笑いをこぼした。
「そんなこともできんの…?」脱力しながら問う楽人に、中山は
「まあ、昔取った杵柄だ…」とだけ言って口角を上げた。
「なかなか悪くないアイディアだったが…少年、今ひとつ工夫が足りなかったな…」
楽人は一瞬立ち止まったが、また中山に向かって駆け出した。足元のツタに気づいた中山は、ツタを避けるように機敏に方向を変えながら楽人を躱していく。
楽人はひたすら中山を追い続ける。距離を空けない、樹上は使わないというハンデなどものともせず、中山はその機敏性と柔軟性を活かし、楽人の手を既のところで、しかし余裕を持って躱していく。
もう少し、もう少しだ…楽人は冷静に、しかし必死に追う様子を出しながらひたすら中山を追い続ける。よし…ここだ…
「うん?なるほど、ここに俺を追い込もうって算段だったか…」
中山が自分の四方を囲むツタを見ながら呟いた。
「同じ手を使おうなんて、少年、まだまだだな…」
つぶやきながら、後方のツタを躱すように後方へ高く飛び上がった。
楽人はその瞬間を見逃さず、中山を追い詰める速度を一気に上げた。
中山が着地するその瞬間、中山の右足周辺の地面の落ち葉が大きく崩れた。
「っ…!」
着地体勢を取っていた中山は体勢を崩し、後方の地面へ手をついた。楽人は体勢を崩した中山の手に手を伸ばし、躱されたところを更に踏ん張り、何とかその手を掴んだ。
「つ、捕まえた…!」
楽人は安堵と疲労のため息と主に、地面へ突っ伏した。
「なかなかな知恵者じゃあないか…少年…俺を転ばせようなんてやつ、これが初めてだな…」
楽人は尻餅をついた中山に手を伸ばし、中山はその手を取って起き上がった。
「ツタと落とし穴…つまり二段構えだったわけだ…」
「罠一個でどうにかなる相手じゃないと思ったので…」
「いい考えだ、少年。…俺が1つ目の罠に引っかかった段階で焦るような様子を見せたのもうまかったじゃないか…すっかり騙されちまったよ…」
「ありがとう…」
「さて、少しだけ休憩だ」
中山が地面へ手を伸ばすと、いつの間にかハクがちょこんと座っており、その横に水の入ったペットボトルが2本置いてあった。
「…これ、どうしたの?」
楽人がハクに問うと、ハクは
「水分補給は大事みゃ!」と満面の笑みとともに答えた。
中山は構わずペットボトルを空け、半分ほど一気に飲み干した。
楽人もそれに倣いながら、なんだかな、と思う。何もかも、説明が不足している。だが、少しして思い返した。世の中なんて、十分説明がされていることのほうが珍しいかもしれない、と。




