遊ぼうぜ⑤
中山は首をストレッチするようにゆっくりと回しながら、立ち上がった楽人に近づいてきた。
そして楽人とすれ違うように、楽人の左を通り抜ける…その瞬間、左手で楽人の左肩の、ハクのいない部分に手を置いた。
「さあ、タッチだ…少年、これでお前さんが鬼だ。」
まずい、と楽人が思い、左に振り向きながら後ろに手を伸ばしたが、すでに中山は近くの木の枝に飛び乗ったところだった。楽人の手は虚しく空中を掻いた。その勢いに、ハクも楽人の肩から、近くの枝へ飛び移った。
「かくれんぼときたら次は鬼ごっこだよな…楽しませてくれよ、少年…。」
そう言うと中山は楽人から軽く距離をとった。
「やられた…!」思わず楽人は声を漏らす。
楽人はかくれんぼのときに見せた中山の俊敏さを思い出した。木の枝にひとっ飛びで消えるように乗る人間を、自分が捕まえられる未来が全く見えなかった。だからこそ、鬼が決まったその瞬間が最大のチャンスだったのに、そのチャンスを逃してしまったことが悔しくて仕方がなかった。
「いい読みだったが…残念だったな、少年。もうわかっただろうが、今回は俺を捕まえたらお前さんの勝ちだ…。」
中山は続けた。
「俺はこれからお前さんから一定距離以上離れない位置にいる。遠すぎる鬼ごっこなんて楽しくもなんともないからな…少年が俺から離れたければ離れてもいい。俺はあとからゆっくり追うことに…。」
中山が言い切らないうちに、楽人は一気に駆け出し、中山への距離を詰めて右手を伸ばした。
中山はその場で瞬時にしゃがみ、後転をするように楽人から距離をとり。にやりと笑いながら言った。
「少年…、人の話ってのは最後まで聞くもんだ…ま、勝利に貪欲ってのも悪くない…。あと一つだけ…そうだな、俺は今回地面から足を離さないことにしよう…まあ、ハンデってやつだ…」
楽人は少し息を切らしながら、中山を見た。銃を構える様子はない。なるほど、先程のかくれんぼとは違い、動き続ける必要はないみたいだ。
楽人はハクを肩に乗せたまま、中山にゆっくり対峙した。普通に考えてこの俊敏さの人を僕が捕まえられる訳がない。楽人は冷静に考えた。
それは中山もわかっているはずだ。ということは、脚力を求められている訳ではない。時間制限もないみたいだ。では今求められているのは何だ…?考えろ、考えろ…。考えながら中山の方へゆっくり歩き出す。中山も楽人に合わせるように、少しずつ後退する。ざっざっと木の葉を踏み分ける自分と中山の足音と木々の葉が擦れる音だけが聞こえる。静かだ。首に触れるハクの体が温かく心地よい。
中山の方へ歩きながら、楽人はこれまでの情報を整理し、それを頭の中で一つ一つ言葉にした。樹冠、木々、枝、木の葉、ツタ、土、外には草原、ハク、僕、14歳の少年、何歳かはわからないが壮年のおじさん、離れてもいい、木の上は使わない……
もしかして…
楽人は足を止めた。戦略がゆっくり形を成していく。うまくいくかわからない…ただ、勝利条件を満たすには一旦やってみるしかない…あまり時間は使えない…
楽人は踵を返し、中山のいる方向とは逆方向に走り出した。




