遊ぼうぜ③
「さて、本題に入ろうじゃないか…」
中山が後頭部をガシガシと掻きながら言葉を発した。
「これから怨霊共と戦うにあたって…少年、お前が戦力となるまでここで特訓させてもらう。しかしその前に話すべきことがある…少年よ、強くなるのに最も大事なことがなにか…わかるか。」
中山は楽人に視線を定め、問を投げた。楽人にとって、初めての問だった。強くなるのに大事なこと?
「なんだろう…筋トレとか…それか、うーん…経験とかも大事…なのかな。」
楽人が自信なさげに答えると、中山が表情を変えずに言った。
「もちろん筋力も経験も重要な要素だ。しかし、それ以上に大事なものがある。…目的意識だ。」
「目的…。」
楽人は中山の発言を、思わず反芻した。中山はゆっくりと頷くと、続けて問を投げた。
「少年、お前が強くなる目的は何だ。」
「兄ちゃんを取り戻すため…です。」楽人は即答した。中山は頷くと、続けた。
「なるほど、取り戻してどうするんだ。」
楽人は頭を巡らせた。取り戻した先の未来を考える。平和な日常、兄の笑顔と紬と過ごす学校での日常。また戻りたい、そう考えた瞬間、気付いた。
「また平和な生活を送りたい。でも…それだけじゃだめなんだ。兄ちゃんに守られるだけでいるのはもう嫌だ。僕も兄ちゃんを守りたい。兄ちゃんを守れるくらい、強くなりたい、だから、強くなるんです!」
楽人は中山の目を真っ直ぐ見て、答えた。
中山はにやりと口角を上げた。
「その言葉…忘れるなよ…。ついてこい。」
中山は楽人に背を向けると、乾いた草を踏みしめながら、歩き始めた。
楽人は黙ってハクとともにその背中に従った。
「ここでいいか…。」
中山が立ち止まったのは、森の中だった。いや、藪という方が近いかもしれない。離れている場所から見たら小さな木々の塊に見えたその森は、近づくほどに大きく見えていき、入ってみると外からはわからないほど広々としていた。密集しているように見えた木々の間隔は人が抜けられるほど広い。草原に生えていたような乾燥した草は少なく、足元には湿った地面が広がっている。木漏れ日のお陰で意外なほど明るく、全体を見渡す事ができる。熱すぎも寒すぎもせず、湿っても乾燥してもいない。全く来たこともない土地なのに、楽人は自分がリラックスしていることを感じた。
「少年、かくれんぼは得意か…。」
不意に中山が、シャツの腕をまくりながら楽人に問いかけた。
「…小学生のときは友達とやったけど…得意かと言うと…」
答えに詰まる楽人を無視するように、中山は足を曲げ伸ばししたり、腕を伸ばしたりしている。
「…少年、俺はどこに出しても恥ずかしくない”おじさん”だ…おじいさんに片足突っ込んでいると言ってもいい…。この歳になるとあんまり動くのはしんどくてなぁ…」
そういった瞬間、楽人の視界から中山が消えた。
「だから今日は、少年が鬼だ…」
いつの間にか頭上の枝上に立っている中山に楽人は唖然とした。
「俺が隠れるまで…まあ、そうだな…10でも数えてくれ…」
そういうと頭上の枝から中山は再び姿を消した。
混乱しながらも目をつぶって「いーち、にーい…」と数え始めた楽人だが、さーん、という頃には気づいていた。すでに何の音もしないことを。今の動きといい…流石に只者じゃなさそうだ…楽人は覚悟を決めて、じゅーう、と言いながら目を開けた。
楽人はまず耳をすませた。人には必ず気配がある。どれだけ静かに振る舞おうとも、呼吸の音や衣擦れの音は隠せない。闇雲に探すより気配をしっかりキャッチして…
ダァン!
すませた耳に飛び込んできた轟音に、楽人は思わず辺りを見回した。
足元には硝煙を上げて発射されたと思しき弾が落ちていた。楽人が驚きに行きをつまらせると、ハクの声が頭上から聞こえた。
「楽人~!中山から伝言みゃ~!止まったら撃つって!」
「なんで!?」
そう叫んだ瞬間、もう一度バァン!という銃声とともに足元の地面に突っ込んで来た弾がすなぼこりを上げた。
「ゴム弾だから大丈夫みゃ~」
頭上のどこからか聞こえる呑気そうなハクの声と現状が合わなすぎる。ゴム弾だからって、硝煙を上げている物体が当たって痛くないわけがない。
楽人は慌てて走り出した。ちりんちりん、という音が頭上からすることから、ハクも楽人を追って近くにいることがわかる。
楽人は耳をすませることを諦め、目を辺りを見回しながら森の中を走り回った。走っていると気配を掴むのに集中できない。薄暗い森の中で、目だけを頼りに見つけるのか、なんてしんどい…と思いかけた瞬間、楽人は疑問に思った。




