遊ぼうぜ②
しばらく2人と1匹で歩き続けると、大きな橋の下で中山とハクが立ち止まった。
橋を支える柱の影に、寄せ集めてきたような板と段ボール、ブルーシートの塊があった。中山が垂れ下がっているブルーシートの一部を上げ、中に空間が見えた瞬間、楽人はそこが人の住んでいる小屋だと初めて気付いた。
中山に無言で促されながら楽人とハクが小屋へ入ると、中は意外と広さがあった。中央にはカップとランタンが乗ったぼろぼろの一人サイズの木のテーブルがあり、その傍にはこれまたぼろぼろの、布でできたスツールが置いてある。ランタンが薄暗い小屋の中を、かろうじてお互いの顔がわかるくらいに照らしている。
寝るときはテーブルを片付けるのかな、と楽人が考えている横で、中山が壁際にかかっていた大きな布を持ち上げた。布の下にあったのは、部屋の広さに不釣り合いなほど大きな、全身が映るサイズの木枠の鏡だった。他の家具と同様古びてはいたが、割れてはいない。暗くてよく見えないが、木枠はどっしりとしており、枠には細やかな彫刻が縁どられている。本来ならぼろ小屋ではなく、古い洋館などにありそうな、立派な鏡のようだ。
楽人が呆然と見ていると、中山が鏡に右手をかざし、何かを唱えた。
その瞬間、鏡がぼんやりと光りを放ち、その後ゆっくりと、何かを映し出した。
鏡の中にまず見えたのは、抜けるような青い空だった、そして、次に足元に生い茂る乾いた背の高い草むら。遠くに見える僅かな木々。
楽人が驚いて言葉を失うと、中山が口を開いた。
「さあ…中学生にとって時間ってのは宝だ…。さっさと行こうか…。」
そう言った中山の右手は鏡に触れ、そして吸い込まれていった。中山は体を鏡の中へ進めながら、気をつけろよ、と言って消えていった。
「ほら、楽人、行くみゃ~」
と言って鏡にするすると入っていったハクに続いて、楽人がビクビクしながら鏡に手をかざすと、手は鏡面をすっと突き抜けていった。言葉を失いながらゆっくりと進んでいく。木枠の中をゆっくりと全身で抜けていく。
完全に鏡を抜けると、鏡に映っていたのと全く同じ光景、草原と蒼天が楽人の眼の前に広がった。抜けてきた鏡の方を振り向くと、木枠の向こうにさきほどまでいた薄暗い小屋が見えた。
「今の…何!?」
楽人は先に鏡を抜けて伸びをしていたハクに訊いた。
「ワープゲートみゃ。」ハクは顔を洗いながら答え、その横で中山は立ったまま楽人を見つめていた。
それ以上の説明を諦めた楽人は、中山に訊いた。
「あの…それで…ここはどこ…でしょうか…。」
「わからん。地球上で人がいない環境を適当に選ばせた。」
「なるほど…?」
いろいろなことが起こりすぎて混乱する中、楽人は気持ちを落ち着けるために空を仰いだ。空の色は見たこともないほど澄んでいる。乾燥した空気の匂い、草や木々が風に揺れる音。近くには低木でできた森があるのみで、人の気配はまったくない。たぶん、日本ではない、んだろうな…ぼんやりそう思った瞬間、楽人は思い出した。
「学校は!?」
焦る楽人に、ハクと中山は互いにしばらく顔を見合わせると、ハクのほうが口を開いた。
「あ、えっと…そう、そうみゃ!僕の方でなんとかうまあく記憶操作しとくみゃ。勉強とかは…えっと…僕と、あの、中山が見るみゃ!大丈夫大丈夫!」
ハクの貼り付けたような笑顔とハクを見つめる中山の眼差しから、
(もしかしてどうするか考えてなかったのか…?)と勘ぐったが、ここまで来ると遅刻だなんだというレベルではない。楽人は諦めてハクたちに従うことに決めるしかなかった。
「わかった…ありがとう…よろしくね、ハク、中山さん…」
楽人は力ない笑顔とともに言うと、ハクは楽人が納得したと思ったのか
「任せるみゃ!」と安心しきった笑顔で言った。




