中山②
「楽人!」ハクが楽人の後ろを見て目を見張っている。
ハクの視線を追うと、なんと川の水面が緩やかに盛り上がり始めていた。楽人は目を見張って、急いで立ち上がった。
「ハク、なにこれ!」
「怨霊みゃ!」ハクは叫びながらちらりと男性を見た。
男性はハクに向かって首を振り、にやりと口角を上げて呟いた。
「せっかくだ少年、お手並み拝見と行こうじゃないか。」
え、と楽人が男性を一瞥した瞬間、大きな水音が周囲に響き渡った。楽人が再び川を見ると、水面の盛り上がりが一気に膨らみ、大きな水柱が出現した。楽人が目を凝らそうとすると、水柱から一本の水流が立ち上り、ぐにゃり、と曲がって、楽人たち目掛けて勢いよく突き進んできた。
「危ない!」楽人は思わず男性を体を右に回転させ、男性を突き飛ばし、自分もそのまま右側に倒れ込んだ。自分たちがそれまでにいた場所に水流が叩きつけられる音がする。その後には、小さな魚たちがピチピチと跳ねている。河原の石が体を打つのも気にせず、急いで立ち上がり、再び水面に向き直る。
「おじさん、危ないから離れてて!」
もう一度水柱から水流が立ち上る。楽人は水流から目を離さず、男性から水流を離すように左へ走り出した。水流は楽人の方目掛けて再び勢いよく流れてくる。やはりだ、楽人は水流が自分を狙っていると確信すると、一瞬止まり走っていた方向と逆の右方向へ走り出す。水流が再び河原の石を打ち、今度はおびただしい量の魚が周辺に跳ね散った。
男性から引き離すように、そして川へ近づくように方向転換しながら楽人は走り続けた。水流は魚を撒き散らしながら、楽人を執拗に狙ってくる。
「ハク!これ、どうすればいいの!」
ハクがなにか叫んだが、水流は次から次へと襲ってきて止まる間もなく聞こえない。
迫ってくる水流、水の柱、打ち上げられる魚…もしかして…
気づきかけた瞬間、走り続けた足が河原の石につまずき、楽人は大きくバランスを崩した。体勢を崩しながら振り向くと、楽人の足を間一髪で水流がかすめていった。太陽の光を受け、水流の中には大量の銀色が見えた。
わかった、やっぱりそうだ。
その瞬間、受け身を取りそびれた体が強く河原に打ち付けられる。衝撃と痛みに息が止まる。
それでも楽人は起き上がりながら叫んだ。
「ハク!これ魚の大群だ!水流は魚の大群が作ってる!水柱も魚が回転して作ってるんだ!魚たちの渦の中心になにかあるかもしれない!」
「いいだろう、少年…合格点だ。」
楽人が叫ぶやいなや中山がつぶやいた。
「戦史顕現!尾張鉄砲隊、銃撃開始。」
ダン!ダン!ダン!という大きな音が辺りに鳴り響いた。
いつの間にか楽人の隣にいた男性の前方に歴史の教科書で見たような鉄砲隊が出現していた。鉄砲の銃口からは、煙が上がっている。銃弾は、キラッと光る魚を目掛けて強烈に飛んでいく。
楽人が驚いて男性と鉄砲隊を見つめていると、鉄砲隊は徐々に薄くなり、楽人の目の前から消えていった。ざざざざざ…という音とともに水柱は少しずつ高さを失っていき、大きな波となり河原に打ち付けると、やがて元の穏やかな川へ戻っていった。
「よ、よかったあ…」
気が抜けた楽人は、その場で尻もちを着いてへたり込んだ。そんな楽人を見て男性は口角を少しだけ上げた。




