第41話 わすれもの
~わすれもの~
秋が目を覚ますと、自分が旧校舎の校門の外にいることに気づいた。
周りを見ると、他のみんなもいた。しかし、まだ気を失ったまま倒れている。桜子の隣に、桃子が横たわっているのを見つけ、秋はとりあえず安心する。
「おーい」
秋は順番に一人ずつゆり起こした。
外はすっかり真っ暗で、人どころか、車の気配もない。完全に町は眠っている。オレンジ色にぼんやりと光るささやかな街灯と、星空だけが、静かに秋たちを照らしていた。
「・・・あー。すっげぇ体験だった」
目覚めた直が、ぼーっとした表情でつぶやく。
「夢じゃ・・・ねぇよな」
「夢では、ないみたいですね」
そう言った桜子が、手におさまっていたチョークをみんなに見せた。
「おみやげ、ですね」
「なるほど、こりゃ現実だ」
チョークを見た直が、疲れた顔でにやりと笑った。
秋たちは感慨深げに旧校舎を見つめた。
「ーーあ。いま何時だろう」
思い出したように秋は言った。
「うげっ、もうすぐ明け方になるぜ」
腕時計を見た直が驚く。
「ええ!お母さんに殺されちゃう」
花がすっとんきょうな声を上げた。
「・・・その心配には及ばないわ」
桃子がむくりと起き上がった。疲れきっているのか、その表情は死んでいる。心なしか目の下も黒い。
「私がみんなのアリバイを作ってあるから」
――まあ、遠藤クンと巴って子は知らないけどね。
「桃子、大丈夫なの?」
桜子が心配そうにたずねた。
「大丈夫じゃないわよ。大きな穴に落っこちるわ、幽霊に取り憑かれるわ、挙句には神様に憑依されるわ、散々よ。面倒くさいを通りこして奇跡よ、これ」
そう言って、桃子は力なく夜空をあおいだ。
「それでも、桃子のおかげで助かったよ。ほんっとうにありがとう」
秋が桃子に深々とお辞儀をする。すると直や花や桜子や巴も、秋にならうように頭を下げた。
「や、やめてよ」
桃子は戸惑うようにみんなを見た。
「でも・・・でも、私も最後に仲間はずれにされなくて良かった、かも」
そう言ったあと桃子は、「この体験はとても特別だから。きっと一生の宝物になる」と言った、このか姫の言葉の意味がわかった気がした。
「それじゃあ、とりあえず今日のところは帰ろうぜ。もうくたくただ。今ならゾンビのように眠れるぜ」
「ゾンビは寝ないとおもうけど」
すかさず秋がつっこみを入れる。
「これだけ疲れてたらゾンビも眠れちゃうよ、きっと。また明日、みんなで集まろうよ」
花も、くたくたといった様子で何とか言葉をもらした。
「明日っつーか、もう今日だけどな」
「あ、そっか」
直と花はお互いに顔を見合わせて、苦笑いをする。
そうして秋たちは、まさに疲労困憊といった様子で、しかしどこか清々しい表情をしながら、それぞれの家へと帰っていった。
――しかし、秋だけは帰るふりをして、家路の途中でさっき目覚めた場所に引き返していた。
まだ、あそこには大事な忘れ物がある。
そして秋は一人、旧校舎へと駆け出した。
あと2話でおしまいです。
最後までよろしくお願いします。




