第40話 声をもらう子
~声をもらう子~
「なっ、どういうことだよ!」
直はわけがわからないと言った顔で、茜とこのか姫を交互に見る。このか姫は意外そうに答えた。
「あなたたちは知らなかったのですね。その子も12不思議の一つです。『声をもらう子』という話の」
「そんな・・・」
直がそこからは何も言えずに黙り込んだ。
桜子は、黒板が教えてくれたマークを思い出した。
あの時、黒板が示したのは「ガキ大将」「かわいこちゃん」「無口くん」の3人と、◎が3つ。2つの◎は悪魔の絵だった。
あと1つの◎は、茜ちゃんのことだったのだ。
そして、花もそこで巴がしゃべらなかった理由や、校長先生が話してくれた「音楽室の魔女」の正体がわかった。そして12不思議にあった「声をもらう子」という話も、その話が形を変えたものだったのだ。
さらに、茜が先生に会いたがらなかった理由や、その先生のお化けが「あれ・・・お前は」と茜に対して言っていたことにも納得した。おばけ同士だから、もともと顔見知りだったのだ。
「その制服も、昔のやつだったんだね」
花がそう言うと、茜は無言でうつむく。そして、巴の顔を見つめた。巴もじっと茜の顔を見つめている。
すると、茜はかなしそうに、にこりと笑った。
「――私も、行くわ」
その瞬間、巴が茜の手をつかんだ。
茜はためらうように、その場に立ち尽くした。それでも、心を決めたように、巴の手をそっとほどく。
そして、ぐっと一歩踏み出すと、あとは迷わずこのか姫の元へと歩き出した。
「お、おい待てよ!こいつは、どうなるんだよ!」
直が巴を指差して叫んだ。
茜はくるりとこちらを振り向いて、言った。
「大丈夫よ。この子はもう。あんたたちがいるんだから。もう、私がいなくても大丈夫」
巴は目を真っ赤にしながら、小さく震える。泣くのを必死に我慢していた。
「そうでしょ、巴?」
茜は優しく巴に問いかけた。巴は茜に向かって大きくうなずくと、ついに大粒の涙をぽろぽろとこぼし始めた。
「ばかね、大丈夫よ。この人たちなら大丈夫。あなたなら、大丈夫。いつまでもうわさ話に頼ってはいけないのよ」
茜は直の顔を見る。
「この子のこと、頼んだわよ。あんた、ろくでなしのクソ野郎だけど、悪い奴じゃないから」
「ああ、まかせろ。友達100人は作らせてやる」
直は大真面目な顔で言った。
「多すぎでしょ。やっぱりバカね」
しかし茜は、言葉とは裏腹に、泣きそうな顔でほほ笑んだ。
「あ、そうだ。巴に、これ返さないと」
茜はそう言うと、ポケットからやわらかく光る塊を取り出した。
「あなたの声。これからは思い切りしゃべりなさい。言いたいことは言いなさい。伝えたいことは言葉じゃないと伝わらないわ」
光の塊は、ふわりと飛んでいき、巴の口に入り込んだ。
「あなたと過ごした時間・・・とても楽しかった」
そう言って、茜は巴から背を向けようとする。
すると、巴が大きな声で叫んだ。
「ぼく、がんばるよ!見ててね!がんばるから!友達100人つくるよ!」
「だから、多すぎでしょう。ばかね」
茜が目に涙をためながら、うれしそうに笑った。
「ありがとう・・・おねえちゃん」
巴のその言葉に、茜はこらえきれずに涙を流した。
「かわいくて、ばかな弟。――私こそ、ありがとう」
――このか姫の周りには、うわさ話のお化けたちが集まった。
「では、行きましょうか」
お化けたちの体が、風船のようにふわりと浮かび始める。校長先生がももちゃんの頭に手を置いて、にっこりとほほ笑む。
片腕教師は、未だに痙攣しながら失神している。白い人もぺらぺらのまま一反もめんのように空中をただよっていた。
包丁お化けぷりぷりの顔は真っ赤に腫れあがっており、桜子の足の形がくっきりと残っている。ぷりぷりは恨めしそうに秋と桜子を見ていた。
轟や、光石の周りにたくさんある小さな光たちは部員たちだろう。うれしそうに顧問の周りを飛び回っていた。
美術室にある黒板には『また会おーね!おみやげあげる』と書かれている。
ダリアとロバートは相変わらず何やら口喧嘩をしていた。
「――また会いましょう。もし良ければ、これからも私の祠にお参りに来て下さいね」
このか姫はそう言うと、手を上にかざした。
それを合図に校舎全体がさらに激しく揺れる。とても立ってはいられず、秋たちは尻もちをついた。生徒たちの合唱の声や、遊ぶ声、チャイムの音が校舎内に鳴り響く。
「桃子の体はあとで返すから安心してください。そうだ、最後に・・・」
このか姫はそう言うと、まるで指揮者のように指先を動かした。
すると、桜子の体が自分の意思に反するように動き出す。
「え、え・・・?」
桜子はとまどいの声を上げる。桜子はそのまま、秋のところにふらふらと近づく。
「・・・え?」
「あ――」
次の瞬間、桜子は秋にくちびるを重ねていた。
「意気地のない貴女に、1つきっかけを与えました。ここから先は貴方次第です」
そう言って、このか姫は愉快そうに笑った。
そして、さきほどよりも更にまばゆい光が旧校舎全体を包む。
――そこで秋たちは意識を失った。




