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第37話 再び遭遇 その3

~再び遭遇 その3~


「――あれ?校長?」


 秋と桜子は、階段でぜえぜえ、と激しく息切れをしている校長を見つけた。


「おお、君たち・・・」

「何してるの?直たちは?」

「いやね、ついさっきまで一緒にいたんだが、歩くのが遅いと言われてね、置いていかれたよ」

 そう言うと校長は、ふう、と苦しそうに息を吐いた。

「しっかりしてよ。校長でしょ」

「いやね、やっぱり体が重くて・・・。私も歳かなあ」

「歳もなにも、時間止まってんじゃん」

 秋が冷静に突っ込みを入れた。

「いやはや・・・情けない」

 校長はため息をついてうなだれた。

「・・・いい先生だけど、校長の威厳はないね」

 秋は桜子にこっそりと耳打ちした。


 突然、何者かが秋の腕を乱暴につかんだ。秋は体勢を崩して思わず転びかける。

 見ると、片腕のない男が、秋の腕を後ろからがっちりとつかみ上げていた。


「あれえ?ここにもかわいい生徒がいるなあ」


 その男はにやにやと笑っている。そして、その男の取れたもう一つの片腕が、あっという間に秋を床に組み伏せた。


「・・・こいつ、直たちが言ってたヤバイ奴だ」

 秋は身動きが出来ない状態でうめいた。大きな声を出そうとしたが、しめ上げられている腕と肩が激しく痛んで出来なかった。


 秋は気を抜いていた自分に腹を立てた。校長の情けない姿に、つい気持ちがゆるんでしまった。

 桜子も秋が人質にとられているので、むやみに動けずにいた。


 すると校長が、ずい、と一歩前に出た。校長は顔を思いきりしかめながら、片腕教師に尋ねる。


「・・・誰だね、君は?」


 さきほどとは打って変わった、威圧感のある校長の声に、桜子は思わず背筋をぴん、と伸ばしていた。


「誰って、教師ですよ、私は。あなたこそ誰ですか?」

 片腕教師も校長の迫力に多少気圧されてはいたが、そのにやにや笑いは今だに崩さない。

「私は、この学校の校長だ」

 校長が胸を張ってそう名乗ると、片腕教師は驚いたように目を見開いた。


「ははは、校長でしたか。これは失礼」

 片腕教師はそう言うと、調子よく大袈裟に頭を下げる。それから何事もなかったかのように、秋の方に向き直った。


「さあて、まずは腕かなあ」

 片腕の教師は秋の右腕を更にひねった。その痛みに秋の表情がゆがむ。それで思わず、桜子が一歩前へ出ようとしたが、片腕教師がその動きを目で制した。

 それを見た校長が、片腕教師をにらみつける。


「あ、どうです?校長も参加されますか?」

 教師は校長の視線をどう受け取ったのか、ご機嫌をとるようにそんなことを聞いた。

「・・・何に、参加するのだね?」

 校長が重低音の声で聞き返した。すると片腕教師は、にやあ、と満面の笑みを浮かべた。


「何って・・・今からこの子達を殺すんですよ。まずは僕のように片腕をちぎってね・・・あ、その前に足をちぎろうかな。前の生徒たちみたいに、逃げられたら面倒だから」


 その言葉に、校長はびきき、と眉毛を動かした。それだけで、この場の空気がぴん、とはりつめる。これが朝礼だったら間違いなく、生徒全員は敬礼をしながら校長の話を聞くことだろう。


 そんな校長を見て、片腕教師の顔から笑みが消えていた。

 校長は無言で、秋をしめ上げていた片腕教師の腕をつかみ、秋から無理やり引きはがした。


「なな、な、なんですか?」

 片腕教師は、校長の圧倒的な雰囲気に恐れをなしていた。

 秋と桜子も、さっきまでの温厚な校長からは、想像もつかない怒りの形相に面食らっていた。

 なおも校長は、片腕教師を無言でにらみつけている。


「なな、なんだ、お前は?な、何か俺に文句でもあるのか?」

 片腕教師はどもりながらも、何とか校長に凄んだ。しかし、もはや怯えているのは隠せていなかった。


 校長は、吠えるように叫んだ。


「教師が、生徒に、殺すなんて言葉・・・使うんじゃない!!」


 そして校長は、片腕教師に思い切り頭突きを見舞った。何かが爆発したような凄まじい音がした。


 片腕教師は白目を向き、体中を揺らしながらひざから崩れ落ちる。まるで頭の上に星が飛んでいるのが見えるようだった。校長の頭突きは、片腕教師の首から上が吹き飛んでいてもおかしくないほどの衝撃だった。


 片腕教師はそのままうつぶせに倒れた。そして、びくんびくんと痙攣(けいれん)したまま、もう起き上がってくることはなかった。


「まったく。こんなのが教師だと?懲戒免職だ。馬鹿馬鹿しい」

 校長は大きく息を吐き、眉間を指でもみほぐしながらつぶやいた。


「君、大丈夫かね?」

 校長は秋の手を潰さないように、そっとつかんで、倒れている秋を立たせた。秋は校長を羨望(せんぼう)のまなざしで見つめ、

「校長先生って、威厳があって、強くて、かっこいいんだね」

 と、言った。


 いやあ、がはは。と、それを受けて豪快に笑う校長の横で、そのやりとりを見ていた桜子は、力が抜けたかのように苦笑した。


 ――その直後、花の悲鳴が上の階から聞こえた。


明日からもほんわかと過ごしましょう。このお話はまだ終業式の日ですが、完結まであと少しです。

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