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第32話 13番目の不思議

~13番目の不思議~


「――いやあ、なるほどなるほど。それは大変な目にあったようだね」


 秋と花が事情をすっかり説明すると、校長先生はそう言って朗らかに笑った。笑い事じゃねえ、あんたもその一部だ、と秋は思ったがそのことは言わなかった。代わりに尋ねる。


「それで、校長先生は13不思議について知っているんですか?」

「うん、うん。生徒がそんなことをよく話していたなあ。私の時は7不思議だったがね。当時は音楽室の魔女って話が流行っていたよ」


 それを聞いて、花が興味深そうに前のめりになる。

「えー。そんなの初めて聞く。それって、どんなはなし?」

「確か、その魔女に自分の大切なものを一つ与えれば、その代わりに魔女が願い事を一つ叶えるという話だよ」

 校長はぎぎぎ、と人差し指を立てながら応えた。

「そんなのもあったんだ」

 秋も少し驚いている。


「ところで、校長先生が13番目の話を知ってるって聞いたんだけど・・・」

 秋がそう尋ねると、校長は銅の顔をぐぐぐ、と歪ませた。

「ああ、それはきっと・・・『美術室のももちゃん』だね」

 秋はももちゃんという名前で、桃子の顔がぱっと浮かんだ。


 ――しまった。桃子との約束をすっかり忘れてた。


「知っているというか・・・私の教え子だったよ。その話の基になっている子は」

「詳しくおしえてよ」


 花が校長の腕を指で突っつく。校長に対する恐怖心はまるで無さそうで、それどころか親戚のおじさんみたいな感覚で校長と接している。校長もそんな花に向かってうれしそうに微笑む。


「ももちゃんというのはあだ名でね。本当はとてもハイカラできれいな名前なんだが、本人がそれを恥ずかしがってね。時代だなぁ。だからいつしかみんなは彼女のことをそう呼ぶようになったんだよ」

 校長は昔を懐かしむように目を細めた。


「とても長くてきれいな髪の毛をしていてね、それはそれは美しい子だった。しかし、生まれつき体が弱くてね、よく学校を休んでいた。体育はいつも見学。学校でも貧血を起こしてよく倒れていたよ。そのせいか、よく美術室に残って本を読んでいた。当時はまだ図書室がなかったからね」


 いつの間にかキャンプファイヤーの火は小さくなっていた。

 髪の長い子・・・。ということはさっき体育館で俺たちを襲った髪の毛は・・・。


「ある日、ももちゃんの親から連絡があった。まだ娘が帰ってきていないと。普段は親御さんがももちゃんを車で迎えに来ていたんだが、その日はたまたま違ったようでね。連絡を受けた宿直の先生がすぐに校舎内を探すと、美術室でももちゃんが倒れていたんだ」


 花がこくりとのどを鳴らした。いつしか、周りのサッカー部員までもが校長の話を聞いていた。


「彼女は意識不明の状態で病院に運ばれた。そして・・・そのまま目を覚ますことなく1ヶ月後に亡くなってしまったよ」


 なるほど、これは7不思議にしやすい子だ、と秋は思った。学校の怪談とかでよく聞きそうな話じゃないか。


「彼女の両親はひどく悲しんでね。娘の思い出が残って辛いからと、日本を出て海外へ移り住んでしまったんだ」

 校長はメガネをずらして、ハンカチを目に当てた。その目から出ているのは何なのだろう、と秋は小さく首をひねった。


「・・・それからしばらくしてからかな。ももちゃんを美術室で見たといううわさが立つようになったのは」

「そんな話なら今でも残ってそうなもんだけどなあ」

「いやいや、さすがにそれは不謹慎だからと先生たちですぐに対応したからね。彼女の学年の子たちが卒業していったら自然とそのうわさもなくなっていったよ」

 秋と花は顔を見合わせる。

「それなら、目指すは美術室か」

「そうだね」


 そして、花が校長の顔をのぞき込んで言う。

「校長もついてきてよ。その子、校長の話なら聞いてくれるかも」 

「いいでしょう。ぜひ」

 校長は快く承諾してくれた。

「あ、その前に図書室に行っていい?もしかしたら、友達がいるかもしれない。いなくても黒板に居場所を聞けるから」

「もちろん、いいとも」


 三人が立ち上がると、サッカー部の面々が秋たちへ親指を立て、「がんばれ」と応援の意を示してくれた。


「ありがとう」

 秋たちもそれに応えるように親指を突き出した。


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