表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/43

第28話 巴の策

~巴の策~


「――わたし、むり。できない」

 花が真顔で訴える。


「いや、ダメだ。君がボールを投げない限り、次の子に順番はまわさないよ」

 光石は有無を言わさない口調で言った。


「・・・しゅうしゃん」

 花は泣きそうになりながら秋を見る。

「花、やるしかないよ。目をつむって投げるんだ。入らなくてもいいから」

「むりだよお・・・。むりむり」

「さっきキャッチしたじゃないか」

「・・・やめて。いわないで。わたしは何もさわってない」

 花はさっきの出来事を認めたくないのだろう。はっきりと否定した。


「じゃあ、俺が花にボール(頭)を渡すよ。俺が触れるんだから、花も触れるだろ?」

 秋は花の足元にあるボール(頭)を拾い上げようとする。

 しかし、それよりも先に、巴が黙ってそれを拾い上げた。


「ともえくん・・・?」

 巴は黙ってボール(頭)を花に差し出す。その手は恐怖のため、小刻みに震えていた。

「うう・・・」

 花はそんな無理をする巴の姿を見て、ついに覚悟を決めたようだ。聞いたことのない低音でうなりながらも、何とかボールを受け取った。


 巴は花にボールを渡すと、そのまま体育倉庫の中へと消えていった。きっと隠れて泣くつもりだろう。


「素晴らしい!あの子の小さな勇気に拍手だ!」

 光石が褒めたたえるように叫んだ。

「しゃべらないで!手に振動がつたわるから!」


 花が怒鳴った。秋は花が怒鳴るところを初めて見た。そんな花の迫力に教師の光石も気圧されたようで、「シュートのタイミングはご自由に」と言うと、そのまま無言になった。

 花は怒らせないことにしよう、と秋は心に誓った。


「い、いい、いくよ」


 花が震えながら両手でボールを構えた。こう見えても、花は運動神経が良いのだ。 

 距離は普通のフリースローより近いし、落ち着いて投げれば、きっと入る。

 秋はあえて声はかけなかった。というよりも、とても声をかけられる雰囲気ではなかった。


 ぐ、と花は震えるヒザを軽く曲げ、足に力を込めた。あとは全身をバネにしてボールを投げるだけだ。


 3、2、1――

 べろべろべろべろ。

「―――っっ!!!」


 突然のことに、花は声にならない悲鳴を上げ、その場でボールを投げ捨てた。そして、そのまま秋に駆け寄り抱きついた。


「ど、どうしたの?」

 秋は突然のことにとまどいながら尋ねた。

「ななな、な、な――」

 花は口をぱくぱく動かしながら何とか声を出そうとする。

「な・・・なめた」

「・・・なめた?」

 秋の言葉に花はぶんぶんと首を縦にふる。

「な、なめた。べろんって・・・」

「え!なめられたの!?舌で?」

 秋がやっと意味がわかって驚くと、花はそのまましくしくと泣き出した。


「いや、すまない。あまりにかわいい手だったので。ついつい舐めてしまったよ!」

 光石は爽やかに笑った。

 秋はそのセリフを聞いて心からドン引きする。


「おいおい、そんな怖い顔でにらまないでくれよ。もしかして君はその子の彼氏かい?彼女の手はとてもおいしかったよ」


 とりあえず秋が殴りかかろうとボールに向かって駆け出そうとしたその時、いつの間にか背後にいた巴が秋の服をつかんだ。


「・・・どうしたの?」

 秋は巴の思わぬ行動に驚きつつも聞いた。


 すると、巴は無言でバームクーヘンみたいなものを取り出した。こんな時こそ甘いものでも食べろってか。

 しかし、もちろんそんなわけはなく、改めて見るとそれはガムテープだった。体育倉庫にあったのだろう。


「これは・・・」

 こくりと巴はうなずいた。

「・・・なるほど」


 これは良いアイディアだ。それに光石への仕返しにもなる。

 秋は素早くボール(頭)を拾い上げると、まずは光石の口をガムテープで塞いだ。


「ぐむむむ」

 光石は目を見開いて驚く。しかし秋は、その目もガムテープで問答無用に覆い隠した。

 けっきょく、秋は光石の(ボール)の全てをガムテープでぐるぐる巻きにしてしまった。


「おばけだから、窒息しても死なないだろ。もし静かにしてなかったら、色々と後悔させてやるからな」

 秋が冷たく言うと、部員たちはしゃがみこんで震え始めた。

 秋は巴に向かって「ナイス」と親指を突き立てると、巴もそれに応じた。


 ――よし。あとは、自分次第だ。


 秋はガムテープの塊と化したボール(頭)を構えた。落ち着いて投げれば入るはずだ。

 正直、バスケは専門外だ。放課後に直とバスケで遊んだりはしているが、大してうまくないことは自分でもよくわかっている。


 手が汗でじっとりと湿る。暗くて静かな体育館に、自分の心臓が緊張で激しく音を立てているのがわかった。


 花にこの音は聞こえているだろうか。もし、聞こえてたら、かっこ悪いな。


 口がからからに乾く。自分の体の感覚が頼りなく感じられた。手や足に力が入らない。

 ――外したら、死ぬ。


 死ぬという言葉に現実感はなかったが、十分プレッシャーにはなった。

 きっと、巴ではゴールネットにすら届かないだろう。自分が決めるしかない。

 秋は思い切ってボール(頭)を放った。


 すると、ボール(頭)は音もなく、危なげもなく、あっさりとゴールネットを通過した。


「あ・・・入っちゃった」

 あまりのあっけなさに、秋はそうつぶやいていた。


 何だ、大したことないじゃん。何をビビっていたんだろ。

 緊張が一気にとけ、全身の力がぬける。

 花と巴が秋に駆けよる。花の顔は涙でぐしゃぐしゃだった。


「しゅうちゃん、すごおぉーい!」

「いや、ラッキーだったよ。巴くんのおかげだね」


 秋は巴とハイタッチした。花は鬼のような顔でボール(頭)をにらみつけている。どうやらショックから怒りに気持ちが切り替わったらしい。


「さ、はやくいこ」


 花が歩き出したその時――。


 おびただしい量の髪の毛が床一面にあふれ出した。

 その大量の髪の毛は、まるで生きているかのように動き、秋たちの足や腰に絡みついてきた。


「な、んだ、これ・・・」

 三人の体が、ずぶずぶと髪の毛の海に沈んでいく。


「しゅうちゃん!」

 花の叫びもむなしく、三人はそのまま髪の毛の海に沈んでいった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ