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第26話 フリースロー

 ~フリースロー~


「――しゅうちゃん、起きて」


 秋は誰かに遠くから呼ばれる声で目を覚ました。かすむ視界の中で、花がほっとした顔をしたのがわかった。

 どきりとするほど花の顔が近い。花の甘い吐息が顔にかかり、それがくすぐったかった。少し顔を近づけたら、キスができそうなくらいの距離だ。


 それにしても、花ってきれいな肌してるなあ。唇や頬がピンク色なのが何ともかわいらしかった。


「・・・どうしたの?」

 もちろん花は、秋にそんなことを思われているなんて考えもしていない。ただ、安心と心配を足して2で割ったような顔で秋の顔をのぞき込んでいた。


「だいじょうぶ?」

「うん。ありがと。なんでもないよ」

 秋はそう言って起き上がる。その拍子に、自分のヒザがぱきりと音を立てた。頭がずん、と重い。どうやら自分で思っている以上に疲れているのかもしれない。

 

 たしか、俺はあの大きな穴から落ちたんだった。よく無事でいられたもんだ、と今更ながら驚く。


 あたりを見回すと、ここが体育館の中であることがわかった。そして、花にくっつくようにして巴がいることにも気づく。


「あ、巴くんだ。二人とも、大丈夫?」

 二人はこくりとうなずく。

「俺たち、穴から落ちたよね。正しくは落とされたわけだけど」

「うん。それで目を覚ましたらここで倒れてたの」

「あのサッカー部員たち、次に会ったら袋叩きにしてやる」

 秋は固く決心するように言った。


「でも、何で俺たちこんなとこにいるんだろ?」

「さあ・・・。それにしても真っ暗な体育館ってシャレにならないくらい怖いね」

 花はそう言って改めて身震いする。確かに、この広い空間に、暗闇と無音を追加されたら恐怖の度合いが半端ではない。そして最悪の場合、それらに加えてお化けだって出るのだ。


「よし、とりあえずここから出ようか。ここは体育館の2階だから、まず下に降りよう。それでまた図書室に行って、黒板で直たちの場所を聞いてみようか」

 秋の提案に花と巴は黙ってうなずいた。


「――いや、残念ながらそれは無理って話だよ」


 舞台から声が聞こえた。それと同時に秋たちはとっさに出口へ走った。


 ――もういちいちお化けの相手なんてしていられない。暗黙のうちに無視して逃げようというのが三人の中で決まっていた。


 しかし、鉄の扉はかたく閉ざされて開けることができなかった。


「はっはっは。実におもしろいね。そうやってあがく様は」


 まるで劇団員のようなわざとらしい口ぶりで、舞台にいる人が笑った。暗がりでその姿はシルエットにしか見えないが、その声からして男のようだ。その男は舞台から飛び降りると、ゆっくりこちらに近づいてくる。


「・・・誰だよ、あんた?」

 秋が敵意丸出しの声で聞いた。


「僕かい?僕はバスケ部の顧問である、光石みついしという者だ」

 光石という男は、整った顔をしていて、茶髪。ピアスを開け、ジャージを着崩し、如何にも軟派な様子をしていた。光石は長いロン毛をかきあげ、流し目でこちらを見る。


「そして、この子達は僕の教え子だよ」

 光石が指を鳴らすと、それを合図に10人ほどの部員らしき生徒がどこからともなく姿を現す。暗くて顔は見えないが、その格好や立ちふるまいからして、こいつらも全員ナルシストだろう、と秋は確信する。


「君たちには、これから簡単なゲームをしてもらおうかな」

「・・・ゲーム?」

「そう。フリースローって知っているかな?」


 光石はもう一度指を鳴らす。すると、バスケゴールと、通常より近いところで引かれたフリースローラインがスポットライトに照らされた。


「君たちには、このラインからシュートをしてもらう。チャンスは一人一投。一人でもゴールを決めれば出口を開けよう」


 光石はもったいぶった話し方で説明をした。完全に自分に酔っているのがわかる。秋はうざい、と心底思ったが、断ることは無理だろう。付き合うより他なかった。


「・・・おーけい。やろう」

「いいね。いい返事だ!」

 光石は歯並びのいい白い歯をきらりと光らせて笑った。

「ボールはこれだ!」


 そう言って光石が自分の頭を指差すと、その頭がずるりと取れた。秋は驚いて一歩後ずさる。そこで秋は、部員たちにも頭がないことに気づく。花と巴はあまりのショックにぽかんとしながらその様子をみつめていた。


 ――サッカー部といい、バスケ部といい、どうなってんだ。


「よーし、まずはそこで口を開けているかわいい女の子からいこうか」

 光石は自分の頭を指先でくるくると回しながら叫んだ。花は思わぬ指名に「ひえっ?」と悲痛な声を漏らした。


「大丈夫、僕の頭でシュートができるなんて幸せなことなんだよ」

 そういうと光石は自分の頭でドリブルを始める。べたんべたん、と鈍い音が体育館に響いた。

「・・・もし、全員失敗したら?」

 秋には答えが予想できていたが、一応聞いておくことにした。


 光石が自分の頭を何度も弾ませながら答える。

「ももももちろん、そそそそその時はははは、き、きききき君たちのああああ頭をもらうよよよよっ!」

 予想通りだった。


「さあ、受け取りたまえ」


 光石は花にボール(頭)をパスした。花は反射的にそれをキャッチしてしまう。

 しかし次の瞬間、「きゃあっ!」と叫んでボール(頭)を放り投げた。


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