第24話 桜子
~桜子~
――暗い空間に私はいた。
今まで私には欲しいと思ったものがない。いや、あるにはあったが、どうしても、と思えるほど欲しいものがなかった。だから、私はいつも相手に先をゆずってしまう。
暗い空間にかわいい消しゴムが出てきた。ピンクやオレンジのハートやお菓子のイラストでかわいくデコレーションされたうさぎの消しゴム。私はそれに見覚えがあった。
これは、小学生の頃に親戚のおじさんがおみやげに持ってきてくれたものだ。私は、その消しゴムが欲しかった。だけど、それ以上に妹の桃子がその消しゴムを欲しがっていた。
だから、私はそれを妹にゆずり、代わりにありふれたデザインのキャラクターの消しゴムをもらった。
でも、それでも良かったのだ。妹が喜んでいたから。妹とケンカにならずに済んだのだから。
次に、素敵なデザインのワンピースが出てきた。家族で買い物に行った時に、洋服屋で見つけたものだ。妹は上手にねだって、スカートを買ってもらっていた。でも、私にはそれができなかった。一言、欲しいといえば買ってもらえたはずなのに。
さっきまで暗かった空間には、いつのまにかたくさんのものが溢れていた。
大きなクマのぬいぐるみや、和風のクシ、ヘアゴム。小物入れ。あの時食べられなかったケーキ。お菓子。お祭りの出店で売っていた甘い味のする笛。最後に一つだけ残ったリンゴ。
それは今まで私がねだらなかったり、ゆずってきたりしたものだった。
しかし、私はそれでも良かったのだ。それで私の世界は上手くまわっていたのだから。
――でも、本当にそれで良かったのかな。
私は現実感のない空間で、自分の頬をなでた。
そうだ。私だってそれらが欲しかったのだ。でも、自分で勝手にあきらめてしまっていた。あの時、ああしていれば。こうしていれば。今さらながら胸の中に後悔があふれる。
ふいに、あの人の姿が現れた。私がずっと好きな人。妹も、そして私の大事な友達も好きな人。そしてその中で、やはり私は、一歩引いてしまっている。
怖い体験の連続だけれど、私はあの人と一緒にいられるのが嬉しかった。
――お姉ちゃんも、少しはわがままにならないと。
面倒くさがり屋な妹の言葉が、頭に響く。
まだ、間に合うだろうか?
私は自分に問いかける。そしてやっと、自分の気持ちがすとんと腑におちるのを感じた。
この人だけは誰にもゆずりたくない。たとえ結果がどうであっても、自分からはあきらめたくない。
私は自分に応える。
――うん、まだ間に合う。
次回は23時に更新予定です。




