第23話 部活動
~部活動~
秋たちが体育館から出ると、外はすっかり暗くなっていた。しかし、遠くの空にはまだかすかに黄昏色が残っている。夕と夜の不思議な境界に自分たちがいることが妙に落ち着かない。
「校長室は職員室のとこだったよね」
秋は隣にいる花にたずねる。
「・・・うん」
花は元気少なく答えた。先ほどから花は秋の隣にぴったりとくっついているのだが、何も話そうとしない。
後ろでは直が一人で桜子と茜を相手にベラベラとしゃべり続けている。
「なんだか、元気ないね?大丈夫だよ、脱出方法も教えてもらったんだし」
「・・・うん」
「そういえば、またノート買いにいかないとね。今日で使い切っちゃったし」
「・・・そうだね」
「どうしたの?」
秋は心配になってたずねる。みんなと話しているときは普通だったのに、二人きりの会話になってからは急に様子がおかしくなった。
「ん、いや、えっとね・・・」
花は口ごもる。今なら秋に黙っていたことを言える。でも、せっかくならもっと落ち着いた雰囲気で話したい。
とは言っても、落ち着いた場なら今度は「もっと気楽な雰囲気で」と思うだろう。結局のところ、自分に話す勇気がないのだ。
それにさくら子ちゃんと仲良くしているところを見ちゃった後だし。秋ちゃんとさくら子ちゃんは二人きりで何してたんだろう。
どうせだったら、わたしが秋ちゃんと一緒にいたかったなあ。
桜子ちゃんが――
「――うらやましい」
「え、なにが?」
秋の言葉に花は我に返った。思っていたことが口からぽろりと出てしまった。
「いや、なんでもないよ」
花はあわててごまかした。
「変なの」と秋は不思議そうな顔をして花を見つめる。そんな秋の純粋な目を見ていると、花はなぜだか無性に腹が立った。
わたしがこんなに悩んでいるのに、きみは気楽なもんだよ。
「――そういえば、秋」
直が先を歩く秋を呼び止めた。茜と桜子は二人でこそこそとしゃべりながら静かに笑っている。きっと茜が直のことについて話しているのだろう。どうやらこの二人は打ち解けたようだ。
「なに?」
「ちょっとお前らが言ってた校門を見ておきてぇんだけど」
「はあ?何でわざわざ」
茜があきれた声を上げた。そして、人差し指を自分の頭にもっていき、くるくると回す。それを見た桜子が困ったように笑った。
「あれだよ、あれ。百聞は百見にしかずってやつ」
「それじゃあ普通でしょ。あんた何?バカなの?」
「そうだよ。バカだよ。文句あんのかバカ野郎」
「でしょうね。自覚があるなんてお利口さんのバカじゃない」
二人が軽口の応酬をしていると、突然「おっおっ」という掛け声が秋たちのすぐ後ろから聞こえてきた。
ふり向くと、ユニフォームを着た首のないサッカー部の集団が、いつのまにか秋たちの周りを取り囲んでいた。
「な、何だよこいつら!急に出てきやがって・・・おえっ」
直が突然のことに面食らって叫ぶと、そのグロテスクな姿を見て嗚咽をもらした。
「うす。静かに近づいたっす。あんたら、隙だらけだったっす」
首無しサッカー部員は大声ではきはきと話しかけてきた。
「どど、どこで声出してるの・・・?」
花がふるえた声で場違いな質問を投げかける。桜子はすでに腰が抜けて立ってはいなかった。
「自分たちはあなたたちの心に語りかけているっす」
サッカー部のキャプテンらしき男は仰々しく手を胸に当てて答えた。
「うおぇ・・・気持ちわりい!」
直の表情が思いきりゆがんだ。
「それより、うちの監督とバスケ部の監督が呼んでるっす。これから君たちには、自分たちがやるゲームに付き合って欲しいっす」
「こ、断ったら・・・?」
秋がひかえめに聞いた。
「うす。残念ながらこれは強制っす。あしからず」
そう言うと部員たちが秋たちを一斉に担ぎ始めた。秋や直は必死に抵抗したが多勢に無勢、簡単に胴上げスタイルにされてしまった。
その中でも、桜子と花には特に部員が集まっていた。
「ああ、女の子ってやわらかいっす。いい匂いがするっす」
「ちょ、ちょっと!変なところさわらないで!あ、そこだめ!」
花が叫んだ。
桜子はというと、人形のように無言のまま固まって動かない。彼らのグロテスクな見た目にショックを受けているのだろう。ただなすがままにされている。
花の桃色の声に、直が素早く反応した。
「おい!てめえらだけ触ってんじゃねえよ!ふざけんな!俺も・・・」
「へんたい!」と言う花の罵声が響く。桜子は変わらず無反応だ。その姿はもはやマネキンのようだった。
部員たちは「わっせ、わっせ」と掛け声を上げながら、おもむろに巴と茜を校門の外へ投げ込んだ。
「え、うそ・・・」花がつぶやく。突然のことに秋は言葉を失った。
まさか、まさか・・・。
「ちょ、ちょっと待て!ストップ!」
直が叫んだ。
「らっせい!」
もちろん直の言葉は部員たちに届くことはなく、まるで荷物のように乱暴な扱いで、直は巨大な穴に投げ落とされた。
直の断末魔の叫びが響いたが、すぐにその声は遠くかすれて聞こえなくなった。
「次はかわいい君たちっす」
そう言われた花と桜子は、文字通り花を扱うかのごとく、やさしく投げられた。
花は、「きゃあああ!」と叫びながら落ちていったが、桜子は最後まで無言のまま、静かに落ちていった。もしかしたら目を開けたまま気絶していたのかもしれない。
「ほい、最後はあんたっす。あんた、いい首してるっすね」
そう言って部員たちは秋をぽいっと投げ捨てるように門の外に放り出した。
秋は叫びながら深く暗い、巨大な穴の奥底に落ちていく。
そして、自分の意識がすーっと遠のいていくのを感じた。




