第19話 黒板
~黒板~
秋は、舞い踊りながら文字を書くチョークの動きを目で追った。しばらくするとチョークは動きを止め、カツカツと黒板を叩いてからチョーク入れに戻った。
秋たちは書いてある文字を読む。
『やっほー!私は黒板でーす!困ったことがあったら私に聞いてね!久しぶりのお客さんだからうれしーな。はりきって質問に答えちゃうよ。あ、ちなみに私との会話は筆談でよろしくでーす』
秋と桜子は拍子抜けするように、お互いの顔を見合わせた。
「・・・なんだか、えらい気さくなおばけだね」
「質問に答えてくれるって書いてありますけど、このチョークで書くんでしょうか?大丈夫かしら?」
桜子がチョークを見つめながら、疑うように言う。
「いいおばけっぽいから大丈夫じゃないかなあ。試してみよう」
秋はそう言いながらも、恐る恐るチョークを手に取ってみる。
しかし、二人が心配していたようなことは何も起こらなかった。
「・・・ほらね、大丈夫。桜ちゃん、何か聞きたいことある?」
秋は強がってチョークをかかげて見せた。
「聞きたいことだらけですけど・・・」
桜子は困ったようにほほ笑む。
「じゃあとりあえず、ここから出る方法を聞いてみようか」
秋はチョークで、カリカリと質問文を書き始めた。
この学校から出る方法はありますか?
するとチョークが秋の手から離れ、また宙に浮かんだ。そして、再び文字を書き始める。
『よそよそしいなー。タメ口でいいよ。そして質問の答えだけど・・・ごめんね。それはわかりませーん!でも、こうなった以上、普通には出られないかも。でもでも、図書室の女の子に聞けばわかるかも。ほら、あの子ってとっても物知りだから』
そして、またチョークは何かを書き始めた。
『はい。これ、図書室までの地図ね。ハートマークがあなた達でーす』
「――すごい」
桜子が思わず感嘆の声をもらした。
黒板には精密な校内図と、二人が今いる教室から図書室までの行き方が、矢印を添えて書かれていた。
そして地図上の、二人がいる教室には、「イケメン」「美少女」と書き分けられたハートマークが二つあり、他の場所にも△や◎などの印が描き記されていた。
そして信じられないことに、それらのマークと矢印は地図上を動いている。
「この、◎とかってなんだろう・・・」
秋はそう言うと、同じ質問を黒板に書いた。
『これは校長先生でーす!この様子だと校長室に戻るのかな?△は白い人でございまーす。害はないけど、とーっても気持ち悪いので△だよー。ちなみにここには書いてないけど、私はもちろん◎でーす!私って黒板があるところ全てにいるから、書いちゃうとややこしいんだよね~。書くと◎だらけになっちゃうもん』
「ほえー。じゃあ、これを確認してから行けば安全ってこと?」
秋の声が自然と明るくなる。
「これは、心強いですね」
桜子も同じことを思ったようで、久しぶりに本当のほほ笑みを見せた。
――というか、校長は安全だったのか。え、あれで、安全なのか?
「じゃあ、花たちの場所も聞いてみよう」
秋がいそいそとチョークで黒板に書きだした。
『はーい。君たちのお友だちの居場所はこれでーす。どうやら校舎の東側にいるみたいだねえ』
新しく書かれた校内図には「ガキ大将」「かわい子ちゃん」「無口くん」などと書かれたハートマークが三つと、◎が三つ記されている。
「よかった。無事みたいだ。でも、知らない人がいる。誰だろ?」
「それに花ちゃんたちの近くに◎がありますね」
『それはー、悪魔の絵のロバートとダリアでーす。とってもいい子達だから心配いりませーん。茜ちゃんはツンデレちゃんでーす。この様子だと、お友達も図書室に向かってるみたいだよー。よかったね~』
「ほんとによかった。よし、俺たちも行こう」
秋は黒板に「本当にありがとう。とっても助かったよ」と書いた。黒板が応える。
『いえいえ、こちらこそ。校内にある黒板だったら、チョークを使えばいつでも私を呼べるからねー』
「これは頼もしい。じゃあ、このチョーク持っていこうか」
秋は、まるで無敵のアイテムを手に入れたかのような気分になった。これからの道中は、黒板がある教室に入って、周りの状況を確認しつつ移動していけば、安心安全というわけだ。
秋がにこにこしながら、チョークを取ろうとしたその時、突然チョークが勝手に動き出した。
そして、チョークは花たちがいる東側の校内図に、何かをカカッと乱暴に書きつける。
秋と桜子は黙ってそれを見つめた。
「これは、どういうことでしょうか?」
「これって・・・マズいよね」
秋からは笑顔が消え、桜子は真顔で黒板にかかれたマークを見つめている。
校内図には×印が新しく書き込まれていた。
――そしてそれは、花たちのすぐそばまで近づいていた。
次回は20日の18時に更新予定です。




