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妹に婚約者を奪われたので、冷酷公爵様のもとで自由に生きます~と思ったら、なぜか溺愛されています~  作者: 雪野みゆ
第二章

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7.王宮舞踏会へのお誘い

 社交シーズンが始まり、今シーズン最初の王宮舞踏会が開催されることになった。


 クロスフォード侯爵家にも招待状が届き、私も参加する予定だ。


 ただ、ヴィクターとの婚約は解消したので、エスコートしてくれる人がいない。


 気軽に声をかけてくれる人もいないので、一人で行くことになるだろう。


「お嬢様、舞踏会のドレスはいかがなさいますか?」


 母とエイミーはすでに注文を終えている。私には声がかからなかったので、自分で注文をすることにした。


 アリンとドレスの見本帳を眺めながら、デザインを決めていく。


 以前は母やエイミーの好みそうなものを選んでいたが、今回は自分が着たいと思うものにしてみた。


「お色はいかがされますか? お嬢様ならどのようなお色も似合うと思いますが……」


「そうねえ」


 ふと、公爵閣下の青い瞳を思い出す。きれいな青空のような瞳だった。


「青系の色がいいわ」


 しかし、原色の青色は目立つので、淡い水色を選ぶことにした。


 その日の午後、私宛てに公爵閣下から手紙が届く。


 手紙にはこう書かれていた。


『アリシア・クロスフォード嬢

 今度の王宮舞踏会で君のエスコートをする者はもう決まっているだろうか?

 まだ決まっていなければ、私にエスコートを務めさせてはもらえないだろうか?

 君とともに出席したいと考えている。

 無理にとは言わない。

 君の返事を聞かせてほしい

 アルベール・エーデルシュタイン』


「エスコート? 公爵閣下が私の?」


 思わず口に出してしまったのを耳聡くアリンが聞いていた。


「まあ! もしかしてエーデルシュタイン公爵閣下からのお誘いですか? それはぜひお受けしませんと! そうですわ。王宮舞踏会では公爵閣下のお色に合わせた宝石をつけてはいかがでしょう? 確かサファイヤのネックレスがあったはずです」


 アリンはいそいそとドレスルームに行ってしまった。


「えっ! ちょ、ちょっと! アリン?」


 公爵閣下が我が家に求婚しにいらっしゃった日、家族はアディントン伯爵邸を訪ねていったらしく留守だったらしい。


 だから、図書室に行くことを知っていたアリンが公爵閣下を案内したらしいのだ。


 それにしても公爵閣下は今まで女性をエスコートしてきたことがない。


 一緒に王宮舞踏会に出席すれば、周囲から私たちの関係についてあれこれ噂されるかもしれない。


 それにエイミーのエスコートは当然ヴィクターが務めるので、顔を合わせることになるだろう。


「……どうしましょう?」


 手紙を胸元に寄せ、私は誰にともなく呟いた。


 少し不安ではあるが、公爵閣下と一緒に王宮舞踏会へ行くことをうれしいと思っている自分がいるのだ。


「この気持ちは何なのかしら?」


 よく分からない。今までに感じたことがないから。


「そうだわ。お返事を書かないと!」


 私は公爵閣下に返事を書くべく机に向かい、ペンを手に取った。


『アルベール・エーデルシュタイン公爵閣下

 お誘いをいただきありがとうございます。

 差し支えなければ、ぜひエスコートをお願いいたします

 王宮舞踏会の日にお会いできることを楽しみにしております

 アリシア・クロスフォード』


 書き終えてから、私は文面の読み直しをした。


「簡潔すぎたかしら? もう少し丁寧に書いたほうがいいのかしら?」


 考え始めるとキリがない。


「うん。これでいいわ」


 封筒に便箋を収めながら、胸がドキドキする。


 王宮舞踏会の日が待ち遠しい。


◇◇◇


 晩餐の席で食事が半ばに差しかかった頃、父がナイフを置き、私に視線を向けた。


「アリシア。今度の王宮舞踏会だが、お前は出席するのか?」


「はい。そのつもりです」


 私が父に答えると、母が心配そうに眉を寄せた。


「でも貴女は婚約を解消したばかりでしょう? 今は社交界でも噂になっているのよ。今回は控えたほうがいいのではないかしら?」


「そうだな。わざわざ好奇の目にさらされる必要もあるまい」


 確かに婚約解消の話は貴族たちの格好の餌食だ。王宮舞踏会に出席すれば、事情を探ろうとあれこれ聞いてくるに違いない。


 だが、私はもう自分の行動を制限したくはなかった。


「ご心配ありがとうございます。でも今回は出席するつもりですわ」


「どうしてなの?」


 隣のエイミーが不思議そうな顔をしている。


「お姉様をエスコートする人がいないじゃない。まさかヴィクター様に未練があるの?」


「いいえ。そうではないわ」


 私は否定するように首を横に振る。


「実はエーデルシュタイン公爵閣下から王宮舞踏会でエスコートの申し出をいただいたの」


「え? お姉様のエスコートをエーデルシュタイン公爵が?」


 信じられないというように、エイミーは目を丸くしている。


「どうしてですか? だってお姉様は先日までヴィクター様と婚約していたのに……」


「エイミー。言葉を慎め」


 父がエイミーを窘めるが、彼女は納得できない様子だ。


「だって、おかしいじゃありませんか? エーデルシュタイン公爵といえば、この国の名門公爵家の当主ですよ。どうしてわざわざお姉様をエスコートしたいだなんて……」


 エイミーのその表情には疑問が浮かんでいる。


 どうして私なのか?


 きっと彼女はそう言いたいのだろう。


「エーデルシュタイン公爵閣下が私を誘ってくださったのよ。それ以上の理由が必要かしら?」


「で、でも……」


「それに私が誰と王宮舞踏会へ行くかは、私自身が決めていいことだわ」


 穏やかに微笑みながら告げると、エイミーは目を見開いた。


 母がおろおろとしながら私とエイミーを見比べる。


「アリシア。貴女、本当にエーデルシュタイン公爵と親しくしているの?」


「はい。それに……結婚の申し込みもいただいております」


 まだ、返事はしていないけれど。


「結婚!?」


 今度は両親が同時に声を上げた。


「お姉様が……公爵夫人に?」


 エイミーも先ほどよりさらに驚いた顔をしている。


「ま、待て。私のほうにはエーデルシュタイン公爵から結婚の打診が来ていないぞ」


 父が慌てたようにそう尋ねてくる。


「まだ、お返事をしていませんから。エーデルシュタイン公爵閣下は私が自分の人生について考える時間をくださっています」


 蚊の鳴くような声で父は「そうか」と呟く。


 私は手元のグラスを手に取り、くるくると回す。


 結婚するかどうかはまだ分からない。


 仮に私が結婚を承諾すれば、正式に父へ結婚の打診がいくはずだ。


「私はエーデルシュタイン公爵閣下のお誘いをうれしく思っております。だから、王宮舞踏会へ出席します」


 はっきりとそう告げると、父は難しい顔をして考え込み、ゆっくりと頷いた。


「……分かった。お前がそう決めたのであれば、今回は好きにしなさい」


「ありがとうございます、お父様」


 微笑む私をエイミーはまだ納得できない様子で見つめていた。視線を感じたが、気づかないふりをする。


 もう妹に振り回されない。


 私は自分の人生を自分で選んでいくのだから。


 王宮舞踏会で公爵閣下にお会いできることを思うと、自然と頬が緩んだ。

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