↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妹に婚約者を奪われたので、冷酷公爵様のもとで自由に生きます~と思ったら、なぜか溺愛されています~  作者: 雪野みゆ
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/16

6.まずは一歩

 公爵閣下がお帰りになられた後も私はしばらく図書室にいた。


 求婚の返事は急がないと言っていたが、あまりお待たせするのも良くないので、真剣に考えてみることにしたのだ。


「どうしようかしら?」


 今日話をしてみた限り、噂どおりの冷酷な人物には思えなかった。あまり領地から出てこない方だから、想像が一人歩きしたのではないか?


 本当はどんな方なのか、彼の人となりをもう少し知りたいと思ってしまった。


「お返事をする前にもう一度お話してみたいわ」


 ふと、机に置いた本が目に入る。公爵閣下に勧められた旅行記だ。


 本を手に取り、パラパラとめくれば異国情緒にあふれた街並みのイラストが描かれている。


「面白そう」


 もしかすると、この旅行記の中に好きだと思えるものが見つかるかもしれない。


 そう思って本を開いた時に図書室の向こうからアリンの声がする。


「お嬢様、よろしいでしょうか?」


「構わないわ。入ってきて、アリン」


 アリンが戸惑いがちに入室してきた。


「ヴィクター・アディントン伯爵令息がいらっしゃっております」


「エイミーに会いに来たのではないの?」


「いいえ。お嬢様に御用がおありのようです」


「え?」


 思わず本を落としそうになる。


 エイミーに会いに来たというのであれば分かる。今までだって先触れもなく訪れてきたかと思えば、私ではなくエイミーのもとを訪れていたのだから。


 それなのに、婚約を解消した私に何の用があって来たのかしら?


 もしかして……。


「応接室でお待ちいただいておりますが、お会いになられますか?」


「……ええ。お会いするわ」


 支度にたっぷりと時間をかけて、私は応接室へと向かった。


◇◇◇


「アリシア、遅かったな」


 応接室に入るなり、ヴィクターがそう言ったので、私は思わず足を止めた。


 遅かったですって? 約束をしていないのに?


「お待たせして申し訳ございません。ご用件は何でしょうか? アディントン伯爵令息」


 当然のようにすでに腰を下ろしていたヴィクターに一礼する。


「随分と他人行儀だな。以前のように名前で呼んでくれて構わないよ」


「もう婚約者ではありませんので」


 ヴィクターは一瞬口元を引きつらせた。


「まあ、いい。実は今日訪ねたのは君に頼みたいことがあるからなんだ」


「……何でしょう?」


 大体検討はついているが、そう尋ねる。


「王太子殿下に提出する報告書のことで困っているんだ」


 やはりね。


 ヴィクターが私をわざわざ訪ねる理由は、それくらいだと予想していた。


「資料をまとめる時間がなくてね。今回も手を貸してくれないかな?」


 困ったように微笑むヴィクターだが、私の心は動かなかった。


「君ならすぐにできるだろう?」


 婚約を解消する時に、もう仕事は手伝わないとはっきり伝えたはずだ。


 だが、まるで何もなかったかのように、彼は私に仕事を頼みにきた。


 私は膝の上で両手を重ねて、公爵閣下の言葉を思い出す。


―― 誰かを守るために自分を犠牲にすることは正しい選択だと思わないことだ。


「アディントン伯爵令息。婚約を解消する時、お仕事をお手伝いすることはございませんとお伝えしたはずですが、伝わっていなかったようですので、もう一度はっきり申し上げます。今後、貴方のお仕事をお手伝いすることはできません」


「……は?」


 ヴィクターから笑みが消える。


「どういう意味だ?」


「申し上げたとおりです。ご自分のお仕事は貴方ご自身でなさってください。これから私は自分の時間を自分のために使いたいのです。貴方のお仕事をお手伝いに割く時間はございません」


 しばらくポカンとしていたヴィクターだが、やがて信じられないものを見るような目で口を開く。


「君は……本気でそんなことを言っているのか?」


「はい。本気です」


「今まであれだけ協力してくれていたじゃないか。急にそんなことを言われても困る」


「急ではございません。先日申し上げたはずですが、聞いていらっしゃらなかったのは貴方ですよ」


 今までヴィクターに対して、これほどはっきりと物申したことはない。そのせいか、彼はまた唖然としている。


 胸が痛まないわけではないが、私はもう彼の望む答えを返すのはやめると決めていた。


「……アリシア。君は以前と比べると変わってしまったな」


 やっとヴィクターが声を絞り出すようにそう言ったので、私は静かに微笑んだ。


「変わったのではなく、変わろうとしているのですよ」


 今までずっと思うように生きれなかった自分のために。


「本日はわざわざお越しいただきありがとうございました。お仕事が無事に進むことをお祈りしております」


 私は立ち上がり、丁寧にカーテシーをした。


 ヴィクターは何か言いたげだったけれど、結局、何も言わずに立ち上がり、応接室を出ていく。


 扉が閉まる音を聞いてから、ようやく息を吐いた。


「……断ることができた」


 たったそれだけのことなのに、心臓が高鳴っている。


 だが、後悔はなかった。


 私はじっと手を見る。


 これからはこの手で自分の人生を形作っていくことができるだろうか?


 まだ、答えは分からない。


「まずは一歩を出せたわ」


 私は小さく呟いた。


 そして、旅行記を読むために図書室へ戻ることにした。

お読みいただきありがとうございます。

続きを読みたい、面白いと思っていただけましたら、

↓の☆☆☆☆☆をポチポチとしていただけますと、

モチベが上がります(*´∀`*)

ぜひぜひよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。