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妹に婚約者を奪われたので、冷酷公爵様のもとで自由に生きます~と思ったら、なぜか溺愛されています~  作者: 雪野みゆ
第二章

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12.花を贈ろう

 話し合いが終わった後、アルベール様が屋敷の案内をしてくれることになった。


 両親はサロンに移動してくつろいでいるはずだ。


 最初に案内されたのは、二階の奥まったところにある大きな扉だった。


 アルベール様が扉を開けると、まず天井に届きそうなほどの本棚が目に入る。


「わあ!」


 私は思わず声を上げた。


 広々とした室内には、正面から壁際までずらりと本棚が並び、棚には本がぎっしりと詰まっていた。


「ここは図書室だ。歴史や地理、専門書や旅行記など様々な部類の本がある」


 私は本棚に目を向けた。


 旅行記が置いてある棚には、先日アルベール様に勧められたものがあった。


「この本……」


「ああ、この間私が勧めた旅行記か? 面白かったか?」


「はい。とても面白かったです。食文化の違いにも驚きましたが、我が国にはない習慣なども興味深かったです。特に作者のトラブル談などはおかしくて……」


 そこまで語りかけて、はっと口を閉じる。つい夢中になって延々と感想を話し続けてしまった。


「そうだろう。この作者の旅行記はどれも面白い。東の大陸の話は読んだか?」


 ところがアルベール様は呆れるどころか、話が続くように会話を振ってくれる。


「はい。全四巻のうちの三巻の途中なのですが……」


 それからしばらく図書室でアルベール様と最近読んだ本について語り合った。


◇◇◇


 図書室でひとしきり語り合った後、アルベール様が庭園を案内してくれるという。


 ここへ来る時に見たスノードロップの花が見たかった私は、素直にうれしかった。


 整然と季節の花が植えられた中に素朴に佇んでいる白い花。


「この花が好きなのか?」


 私がスノードロップをじっと見ていると、アルベール様にそう問われる。


「はい。好きな花を探していた時に最初にきれいだと思った花が、このスノードロップなのです」


「そうか。ちなみにスノードロップの花言葉は『逆境からの希望』だ」


『逆境からの希望』今の私にピッタリの花言葉だ。


 この花に惹かれたのは、偶然ではないのかもしれない。


「では、領地の屋敷にある庭園にもこの花を植えさせておこう。他に好きな花はあるか?」


「他に……ですか?」


 私は足を止め考えてみた。どの花も美しいとは思うが、どれが好きかと聞かれると分からない。


「申し訳ございません。今のところは特に思いつきません」


「謝ることはない。それでは毎日君に花を贈ることにしよう」


「え?」


「毎日違う花を一輪ずつ君に贈れば、どんな花が好きなのか見つけられるかもしれない」


 唐突なアルベール様の提案に私はポカンとしてしまう。


「ま、毎日ですか?」


「そうだ。気に入った花があれば教えてくれ」


「でもそんなに毎日花をいただくなんて……」


「構わない。君の好きなものを探す手伝いをしたいと言っただろう?」


 確かに求婚された時に聞いた覚えがある。


「それに君の好きなものを知っていくのは、私にとっても楽しみなことなのだ」


 アルベール様が真面目な顔で言うので、私はドキリとする。


「……分かりました。それでは、楽しみにしています」


「うん。明日から届けさせよう」


「えっ! 明日からですか?」


 私が驚くと、アルベール様は楽しそうに笑う。


「さて最初の花は何にしようか? 君がまだ知らない花を贈るのも良いかもしれぬな」


 本当に楽しそうだ。今にも鼻歌を歌いそうな感じである。


「できれば、花の名前を教えていただけますか? 実はそれほど詳しくないのです」


「分かった。花言葉なども添えよう」


「まあ! 花言葉ですか?」


 意外とロマンチストなのだろうか、と思う。


 アルベール様が私の手を取って、軽く握る。


「アリシア、花だけではない。好きな食べ物や景色、時間の過ごし方も君が知らないのであれば、一緒に探していけばいい」


 それは、アルベール様と一緒であればきっと楽しい。


「ありがとうございます、アルベール様。私、好きなものをたくさん見つけたいです」


「そうしてくれ。好きなものが見つかったら、まずは私に教えてくれ」


「はい。約束します」


 ふと気づいたのだが、私はアルベール様とこうして歩いている時間が、とても好きだと思った。


 少し恥ずかしいが、好きなものが見つかったので、アルベール様に伝えることにする。


「あの……アルベール様と過ごす時間も、私の好きなものの一つになりそうです」


 アルベール様は私の手を握ったまま、破顔した。


「それはうれしいな」


 冷酷だと言われるアルベール様だが、とても素敵な笑顔だ。


 欲張りな願いだが、この笑顔が見られるのは私だけがいいと思った。


 明日、私のもとにはどんな花が届くのだろうか?


 今から楽しみで仕方がない。

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