第一章8 『四天王との出会い』
「やっぱり滝澤先生のところの学生さんは面白い子が多いですね。特に大成君、今は少しくすぶっているようですが、この先化けるでしょうね。そして彼の持つアニマも覚醒が楽しみだ。」と昨日の制作発表での市長との会話を思い返しながら、今後の教育方針を考える滝澤先生。「そろそろ上には上がいるということを分からせる時かもしれないわね。」考えながら、21人の情報が事細かに記載されたクラス名簿を閉じた。
——制作発表が終わって初めての授業が始まった。まずは滝澤先生より、昨日はお疲れ様という労いの言葉があった直後、少し和らいだ表情から一変、いつも以上の厳しい表情に戻り、「今日からはクラスを二つに分けます。」と言い放たれた。クラス中の空気が一気に重くなり、おそらくみんな入学初日の洗礼式のことが脳裏に過っていたと思われる。
「安心して。今回はあくまで私の受け持つクラスを二つに分けるという意味よ。昨日の制作発表で宮城と久保川チームは自治体プロジェクトに参加することが正式に決まったわ。今後その二つのチームに属する、宮城、郡司、志水、中村、久保川、高見、工藤、大成の8名は学校での授業ではなく、自治体での業務を最優先として動いてもらう。もちろんこの間説明した通り、それがこの学校で授業を受けること以上にライセンス取得やプロのクリエーターとしての今後の活動への大きな一助となるわ。」
「で、残る13名だけれど、あなた達は言うなれば負け組です。せっかくの大きなチャンスをものにできなかった。だけど、あなた達のアニマを見て心の底から悔しいという想いだけは伝わってきました。そこであなた達には、プロのクリエーターになるために必要なライセンス取得のノウハウを、私が直々に叩き込みます。私はこのライセンスに関する本を何冊も出版しており、これまで数多くのライセンス取得者を輩出してきました。その私の実績から、あなた達を最高のクリエーターに育成します。だから今この瞬間だけの勝ち組8名を追い抜きなさい。」と、13名に対しては巻き返しのチャンスを与え、自治体プロジェクト参加組8名に対しては大きなリターンを提示しつつ、その状況に甘んじることのないようにと全体を鼓舞した。
「とはいいつつ、自治体プロジェクト参加組8名を学校として野放しにしておくわけにもいかないので、私の代わりに監督役4名を配置するわ。3年生の東郷、西條、南道、北斗よ。彼らは2年間私がみっちりと鍛えて、モノづくりの最高峰と言われる世界大会で、プロのクリエーターを抑えて、ベスト8まで勝ち上がった経歴の持ち主よ。自治体プロジェクト参加組8名は、彼らの言うことを私の言うことだと捉えて向こうでの作業に取り組むこと。」
東郷さん、西條さん、南道さん、北斗さんから簡単な自己紹介が始まったが、滝澤先生の次くらいにオーラのある人達で、とにかくアニマが立派だった。ユズはそれに気圧されてしまったせいか、あまり頭の中に言葉が入っていなかった。すると隣にいた友心が「かっこいいな!まるで四天王みたいだ」と話し、まさしくその通りだ、いつか僕たちもこんな風になりたいと友心とユズはひっそりと胸に誓い合った。
「カツカツカツ……コツ……コツ……」と一通り今後の方針を説明終えた滝澤先生が教室を出て職員室に戻っていくところだった。「滝澤先生!」と引き止めをするユズ。
「すみません、一つお願いしたいことがありまして…あの、僕も滝澤先生のライセンス取得講座に参加させていただけないでしょうか。」とお願いするユズに対して、「なぜ?」と問いかける滝澤先生。
「僕はまだ何者でもありません。今回自治体プロジェクトに参加できたのも、久保川君、高見君、工藤さんのサポートがあったからこそです。そんな僕がたまたま久保川チームにいただけで、優遇を受けていいはずがありません。もちろん自治体プロジェクトの方も責任を持ってやりとげます。どうかライセンス取得講座も参加させてください。」と懇願するユズ。
「あなたが選ぼうとしてるのは茨の道よ。どちらも非常にハードワークになるわ。自治体プロジェクトに選抜されたという実績があれば、私の講座を受けなくともライセンス取得への道がほぼ確約されている。それでもあなたは自ら自分を追い込むというの?」と厳しい眼差しで確認をする滝澤先生。
「今の僕にはこれがどれだけ茨の道になることなのか想像はできません。けれど、どちらもやらなければいけないことだと僕の心が叫んでいるんです。」と強い眼差しで滝澤先生を見つめるユズ。入学初日に滝澤先生のクラスに入れてほしいと言ったときの目と同じだ。
ようやくユズの強い気持ちが伝わったのか、「分かったわ。ただしやると決めたからにはやり抜きなさい。途中で投げ出すことは許さないわ。」と職員室に戻りかけた滝澤先生。
「そうそう、そういえば市長があなたのことを褒めていたわ。あなたのアニマのこともね。あなたのそのアニマには隠された力がある。でもそれに制御をかけているのはあなた自身。あなたがこの二つの活動を本気で取り組んだときに、きっとあなたのアニマは覚醒するわ。それまで足掻きなさい。」
——ユズは、いつものお気に入りの場所である、校舎の隣にある山のベンチに座っていて左肩を見つめていた。この高校に入学する前までは、なんで僕だけこんな不格好なアニマなんだろうとずっと歯がゆい想いをしてきた。だが、この高校に入学してからは、君は何度も僕を助けてくれた。入学初日の洗礼式で滝澤先生のクラスから外されそうになった時、初めてのグループワークで間違った方向性でペンが完成した時、そしてこの間のウェーブシリーズ制作で不安に押しつぶされそうになった時、君のおかげで勇気をもって発言することができた。
「アニマはあなた達の心を映しています」と入学初日に滝澤先生が言ったあの言葉は本当だったんだ。入学前の不格好な君も、入学後の頼もしい君も、僕の心に影響されていたんだね。「今までそんな簡単なことも分からずに君のことを引け目に感じていてごめん。もし君が本来の姿を取り戻した時に、ちゃんとこれまでのことを謝罪させてほしい。そして君なんかじゃなくて、君に合った名前をつけさせてほしい。」と心の中で念じると、灰色の小さなやつは笑った…気がした。
明日からは自治体プロジェクトに、滝澤先生のライセンス取得講座と大忙しの日々が始まるが、ユズの心はとても晴れやかだった。「これからは一緒に、二人で頑張ろう。」
その時、どこからともなく風が吹いた。灰色の小さなやつの毛並みが、その風にそっとなびいた。
第八話をお読みいただきありがとうございました。ここまでの物語では、クリエーター専門の高校に主人公であるユズが入学をし、とても厳しく放任主義だが実はちゃんと学生たちのことを見ている滝澤先生や親友の友心を初めとする個性豊かなクラスメイトと一緒にモノづくりをすることで、平凡なユズとアニマが一緒に成長していくシーンを描けたと思っています。ひとまず、ユズが一人のクリエーターとして歩んでいく土台作りができたと思いますので、この第八話をもって第一章として完結させていただきます。
第二章では完全にユズがクリエーターとして独り立ちするところを目標に書いていきたいと思っておりますので、ぜひ今後ともご贔屓にしていただければと思います。
ではでは、よろしければ感想/レビュー等よろしくお願いいたします。




