4-3 間話・知ると理解は別だった〜オズバルド視点
私がアズ殿の見様見真似で片付けを手伝ったことが評価されたのか、アズ殿がネスティー嬢の部屋を訪うにあたり、私が着いて行くことに何も言わなかった。
ベッドの上で身体を丸めて汗を掻き苦しそうに息をしながらネスティー嬢は眠っている。顔は真っ赤で辛そうだがアズ殿が汗を拭うと薄っすらと目を開いた。
「アズ……」
「はい、お嬢様。私はここです」
「アズ……」
ネスティー嬢はアズ殿の名を呼び、アズ殿の声を聞いたら安心したようにまた目を閉じた。
「ネスティー嬢は、薬を飲んだのだろうか」
「はい。きちんと飲ませました。眠っていることが効果の現れでしょう」
平坦な声音。でも私はアズ殿がネスティー嬢をどれだけ大切に思っているのか知っている。
「私はお嬢様に付き添いますので、お二人は下がって頂いても構いません」
そう言われてしまったがネスティー嬢の体調が気になって仕方ない。
「私もネスティー嬢のために何かしたいのだ」
ネスティー嬢を起こさないように静かない声で頼みつつ、小さなネスティー嬢の両手を持ち上げる。
早く元気になるよう願いを込めてゆっくりと両手を摩る。肌がカサついているのもネスティー嬢の生活が辛いものだった、と察せられる。
「では、少しだけ。もう少しだけ構いません」
溜め息を吐いたアズ殿に感謝の思いで頭を下げた時。
「オズ……ばるどさま?」
また薄っすらと目を開けて私を見るネスティー嬢。ぼんやりとした目を私に向けて来たが、それが可愛い。ちょっと子どもっぽい感じで私の名前を呼んで来るのもなんだかキュンと胸を掴まれた。
「ネスティー嬢、済まなかった。君の状態を何も考えずに」
私の言葉が届いたのか、それとも届かなかったのか。それは分からない。また目を閉じてしまったから。
「オズバルド様。取り敢えず今日はここまでにしておきませんか」
ヘルムに言われて頷く。
一旦帰宅し、父上と母上に改めてネスティー嬢の側に居ることの許可を得てこよう。
「また、来ます」
「いえ、来なくても別にいいです」
アズ殿に辛辣な言葉を投げかけられたが、そんなことでへこたれない。直ぐには来られないかもしれないが、ネスティー嬢の澄んだ目を見てしまったら離れ難い。だから、必ず会いに来る。
「オズバルド様、俺が送って行きますよ。あと、今回の件はきちんと公爵様に報告させて頂きます」
「いや、いい。父上と母上には私から報告する。ヘルムはネスティー嬢の護衛を命じられたのだろう? 其方に専念してくれ。一人で帰る。もし、それで私に何かあってもそれは私自身が引き起こした事態だ。だから気にしなくていい」
いくらか腕に覚えはあるが、精々二人か三人を倒せる程度だと思う。大勢がかかって来たらきっと私はやられてしまうだろう。ロイズデン公爵子息だと分かれば、どうなるか、私でも分からない。それでもネスティー嬢の護衛を頼まれているヘルムを連れて帰ることだけはしたくなかった。
それは私の甘えだし、ネスティー嬢に父上が護衛をつけなくてはならない、と思ったからこそヘルムを専属に付けたのに、私の護衛をさせるのは父上の意向に反する事でもあるから。
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