4-2 間話・知ると理解は別だった〜オズバルド視点
「ヘルム」
「はい」
私が漸く理解し始めたからか、ヘルムの声音に嘆きも怒りも取れた。
でも、私はそれに安堵してはいけないのだ。またやらかさないとは限らない。もちろん、この後からよく状況を見て考え相手の状況から物を見ることも忘れないようにするつもりだ。でも、私一人ではやらかさないとも限らない。だから安堵してはいけない。
「またやらかしたら遠慮なく言って欲しい。それと教えてくれてありがとう」
「いいえ」
「先ず、私はネスティー嬢が粗相をした食堂の片付けに行く」
この言葉には、ヘルムが驚いた顔をして私を見る。その驚きは、私自身が分かる。公爵家の子息として育てられた私が、そのような事をするのか、という事だろう。だが、だからこそやるのだ。
「私は、ネスティー嬢の婚約者という立場だけで、何でも許されると思った。別に彼女を所有物と思っているわけじゃない。だけど、婚約者だから何を言っても許されるような気になっていたのだろう」
「……はい」
「私の基準で考えて発言してネスティー嬢の立場や気持ちを考えて発言していなかった」
「はい」
「だから、先ずはネスティー嬢に一番近い人であるアズ殿に寄り添うべきだと思う」
ヘルムは更に驚いた顔になる。
なんで?
という声無き声が聞こえてきた、のは気のせいか。
「アズ殿に寄り添い、彼女の行動を見て同じ事をして考えてみれば、ネスティー嬢をどうしたら大切に出来るのか分かるような気がするからだ。そのためには使用人が行うようなことでもやってみる。アズ殿がやることを共にやってアズ殿の考えを知ることこそ、ネスティー嬢に寄り添うことになるだろうから」
私の宣言にヘルムが額に手を当てて何かを考えているように思えて首を傾げた。
「どうかしたか?」
「……いえ。別に。まぁやってみたらいいのではないでしょうか」
「そうか! ありがとう! でも、一人だと少し不安なのでついてきてもらっていいだろうか」
十五歳にもなって何を言っているのか、と思われるかもしれない。でも、先程のアズ殿の睨みはちょっと、いやかなり怖かったのだ。一人だと逃げ出してしまいそうで、それでは何のための決意か分からない。だから逃げ出してしまいそうな気持ちを奮い立たせるためにも、ヘルムにも一緒に食堂へ戻って欲しかった。
ヘルムと食堂へ戻れば既にアズ殿がテキパキと片付けを始めていた。慌てて近寄れば此方をまた睨み付けつつ、何の用かと尋ねてくる。
「手伝わせて欲しい」
「は?」
意味が分からない、という表情に私はヘルムから叱られたこと。そして気づいたことを話す。
「その上でアズ殿に寄り添えば、ネスティー嬢への対応も何か分かるのではないか、と」
アズ殿と行動を共にし、アズ殿の考えを知ることでネスティー嬢が何を望んでいるのか分かるのではないか、と思っていると話す。アズ殿は胡乱な目を私に向けて聞いていたが、何故かヘルムに視線を向けていた。ヘルムが肩を竦めたのを見てアズ殿は苦々しそうな目を私に向けてから、布を渡してきた。
「これは雑巾です。これで綺麗に拭いていきます」
アズ殿は、私に何をどうすれば良いのか説明し、実際に一緒に行った。綺麗に拭き取れたと思ったら、今度は洗剤を床に撒き、水も撒いて先程拭き取った雑巾とは別の雑巾でその場を磨き始めた。
「お嬢様はおそらく食べ過ぎですが、医者に診てもらって、万が一病気が原因だった場合、綺麗にしておかないと、他の皆も病気になってしまいます。だから綺麗にしておきます」
との説明には感染を少なくするために綺麗にしているのか、と納得した。念入りに綺麗にした後、水拭きを仕上げに終えて、先に拭き取った雑巾は袋に入れて棄てるのだ、という。これも病気対策の一環らしい。成る程、勉強になった。
この後はネスティー嬢の元に行き、ネスティー嬢の様子を窺いながら一晩を過ごすという。
婚約者と言えど夜に女性の部屋に入るのは……とも思うが私一人ではないし、私はアズ殿と行動を共にしてネスティー嬢を思う彼女の心を知って、私なりのネスティー嬢に対する寄り添い方を模索しているのでアズ殿とヘルムとネスティー嬢に、大目に見てもらうとしよう。
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