5-1 伯爵家追放
ヘルムさんが公爵様からの案を教えてくれたあの日から三日後。
アズ宛にアズのお母様からの手紙が届く。
その手紙に目を通したアズは午後からラテンタール家を出てお母様の元に向かう許可をラテンタール伯爵と義母に願い出た。
手紙に目を通した二人は許可を出す。
アズのお母様の手紙には、最近体調が優れず、アズの顔が見たい、というもの。
その手紙には何の不審も無いからラテンタール伯爵も義母も許可を出した。
その日は少し顔を出して様子を見てラテンタール家に戻って来たけれど、この日を境に度々アズのお母様から手紙が届くようになる。
五日後だったり七日後だったり三日後だったり。
段々とラテンタール伯爵も義母もアズに許可を出すのが面倒になったのか、アズがお母様のお見舞いに行くことに関して勝手に行くように、と言ったらしい。
……実はこれが計画の第一段階。
先ずはアズが私から離れるのに自然な理由として、こういう事にした。
この段階でラテンタール伯爵でも義母でも手紙を訝しむようならば計画を変更する必要があったけれど、やはり疑うことはなかったらしい。
その上、あの二人の性格からして、一々許可を得ようとするアズを煩わしく思うことも予測出来ていた。だからそのうち、許可は得なくてもいい、とまで言い出すと思っていたが……順調過ぎる程、此処までは順調だ。
なんだかんだで公爵様からの案によって計画を立ててから既に二十日以上は経過していた。
「順調ね」
「はい、お嬢様。まさかこんなにも簡単にいくとは思ってもいなかったのですが」
アズは私の専属侍女。
アズがお母様のお見舞いと称して外に出ている間、私の元には誰も来ない。だから昼や夜のご飯が無いということもある。
クリスとフォールは突然、アズのお母様の体調が悪くなったことに訝しんでいるらしく、クリスはラテンタール伯爵の元を離れられないからフォールが偶にアズの後を付いて行っているみたいだけど、アズは見舞いのお菓子などを買う以外は真っ直ぐに宰相補佐様経由で住まわせてもらっている小さな家へ行っている。
そこがアズのお母様が現在暮らす家だから。
フォールはそれを見届けて帰って来るらしい。
何故、知っているのかって言えば、ヘルムさんが手紙で教えてくれるから。
その手紙の宛名はアズ宛。差出人は宰相補佐様の名前。
アズのお母様から来る手紙は必ずアズのお母様のものだけど、アズは宰相補佐様への報告書などを送っているし、指示も受けていることがあるので宰相補佐様の名前でヘルムさんからの手紙を受け取っている。
この事については、公爵様が宰相補佐様の許可を得ているから問題無いらしい。
「そうね。
さて。あと三回くらいアズのお母様からの手紙が来た後、最後にアズが行ったらアズのお母様には病が悪化してアズが伯爵家に戻って来られない、という状況を作りましょう」
所謂泊まりがけの看病、という体裁。
これをやっぱり何度か繰り返して、アズの居ない日を徐々に増やす。
ここまでが第一段階の計画。
第二段階は、アズが泊まりがけでお母様の看病をしている頃、私も病を発症する、というもの。
おそらくアズ経由でアズのお母様の病が移った……という事にする。
もちろん、アズも病に感染したけれど、大したことはないまま治った……という設定。
でも私は碌に食事も取れず、発育が悪いどころか肉があまり無い骨と皮に近い身体だから、私は悪化してしまう……という設定。
そして、此処が重要なポイント。
「上手く、クリスさんとフォールさんを騙せますかね」
アズと計画の第二段階の道筋を確認していると、ポツリとアズが零した。
それなのよねぇ……。
「お嬢様の病が悪化したことを、私がラテンタール家に帰って来ない機会が増えて心配したフォールさんかクリスさんが発見するんですよね?
そこまでは有り得そうだし、実際、私が居ないとご飯が抜かれてしまうことを知っているお二人だから、お嬢様の様子を見に来そうですよね?」
「頻繁に見に来ると思う。その時に、私も病に感染したけれど医者を招んでもらえない事は分かっているから、何とか頑張って治してみる、と二人を説得する。
同時に移ると困るから近寄らないで、と言い含めておく。でも病が悪化して私は起き上がれなくなってしまう」
此処までは上手くいくはず。
「その先ですよね。悪化したお嬢様を心配して、クリスさんもフォールさんもお嬢様に近寄るはずです。でも私の母も私も病に罹ってないのですからお嬢様も当然発症しない。
それをどうやって発症したように見せかけるかと言えば」
「この計画を立てた時にヘルムさんにお願いした通り、病気になりそうな薬を飲むこと」
「それなんです、お嬢様。そんな薬ってあるんですか?」
アズは珍しく困惑した顔を見せた。
気持ちは分かる。
薬とは病を治すもの、という前提がある。
それが逆に病を発症する薬が存在する、と言われても何を言っているのか……と私が正気なのか知りたいのだろう。
「アズ。私のお母様が病気に罹った時のこと、覚えてる?」
「はい、もちろん」
お母様の病は女性が発症し易いと言われている病だった。
感染するようなものではないから、侍女がお母様の世話をすることを嫌がらなくて良かったけれど。
「実はね、お母様の葬儀でお母様を診てくれたお医者様が言っていたの。お母様が罹った病に私も感染した、と」
「そんな! 移らない病だったはずでは⁉︎」
「お医者様が、お母様が罹った病の素があって、その素が体内に入ると病に罹る、と。お医者様はその病の素を体内に入れたそうよ。自分で効果を試して良く効く薬を薬師に作ってもらう、と」
アズは声を上げないように、だろう。自分の口を両手で塞いだ。
「つまりね、病に罹る薬というか、素というのが、他にもあるらしくて、それを飲むことで病を発生しようと思うの」
「では、お嬢様は本当に病に罹る、と?」
半信半疑だっただろうアズが顔色を真っ青に変えて尋ねてくるので頷いた。
「そんな、それではお嬢様の身に危険があるじゃないですか!」
「大丈夫。治す薬がある物をお願いしたから」
ヘルムさんにそれを頼んで、クリスとフォールに、私が本当に病に感染していることを印象付けると共に二人を近寄らせないため。
そして、敢えて二人に
「ロイスデン公爵様にお願いして医者を招んでもらいたい」
と、お願いする。
すると二人若しくはどちらかがロイスデン公爵様の元に行って、医者を手配してもらうように掛け合うはず。
となれば、公爵様直々に寄越してくれたお医者様が、空気の良い所に移動すれば治る、とかなんとか言って、私を家から出す計画になる。
「それでロイスデン公爵様直々に寄越して下さったお医者様に言われたことをラテンタール伯爵にクリスは報告。ラテンタール伯爵が速攻で私を追放する、と宣言する。そうして私は目出度く追放、と」
まぁこんなざっくりした計画で上手くいくか、不安でしかないけれど、此処までが順調なら上手くいきそうな気もしているので、今のところこの計画通りに進めよう。
お読み頂きまして、ありがとうございました。




