5-2 伯爵家追放
「でも、本当に上手くいくでしょうか」
アズの不安は私にもある。その度にお互い励まし合って来た。
「そこだよね。一応金には執着してるから、いくらロイスデン公爵家から遣わされたお医者さんの意見でも聞かないで治るまで此処に居ろ、とか言うかもね」
その可能性は充分にある。
まぁロイスデン公爵様経由のお医者さんへの報酬はロイスデン公爵様が出すだろう、とか考えているくらいには私に金を遣う気はないし、図々しい。
だから何を言われてもこの離れからラテンタール伯爵は出す事がないかもしれない。
つまり、追放される計画の頓挫。
「その場合は……」
「もう一度公爵様を頼って案を出してもらって、そこから計画を立て直すしかないかな」
この遣り取りも数回している。
アズも「そうですよね、そうなりますよね」 とまた頷く。
まぁこのラテンタール伯爵家に私設騎士団が無いことや、兵士や騎士を雇うという知恵が無いから、こんな計画が立てられているわけだけど。
普通の貴族家なら有り得ない警備体制。
尚、アズの家も没落する前はきちんと警備を敷いていたそう。……ですよね。
でも、警備体制がザルでも私は“わたし”だった時、この家から逃げようと考えたことは無かった。
“私”になってからも簡単に逃げられるとは思ってなかった。クリスとフォールが居るから、という事もあるけれど。体力的に無理だと思ってた。
筋肉無いからおそらく直ぐに疲労する。というか、疲労骨折を起こしそう。
だから簡単に逃げられない、と思ってた。
……公爵様からの提案を元にこんな簡単な計画を立てるまでは。
さておき。
「でも追放宣言されたとして、問題はその先だよね」
「お嬢様をお迎えする準備は出来てます。其方は心配しないでください」
今度は私の不安にアズが力強く言ってくれる。
空気の良い所での療養云々については、もちろんクリスとフォール、そして二人経由で知るだろう祖父への名目。
でも王都内に居たらクリスとフォールに見つかる可能性が高くなる。
いくら木の葉を隠すなら森の中……つまり、隠れるのなら人が多い所とはいえ、王都内は流石に危険過ぎる。
かと言って、祖父とお兄様が居る領地が空気の良い所かと言えば、そうでもない。
ラテンタール伯爵家の領地であるラテンタール伯爵領は王都から馬車で二泊三日の位置になるので王都に近い方だ。
尚、我が国の全ての公爵家所有の公爵領は王都から結構遠い位置にある。
これは、戦のあった時代の名残で、王家の血が濃い公爵家が国外の敵から守る、という役割を担うから。
他国では国境なので辺境伯や辺境侯が領主らしいが我が国の国境は全て公爵家が領主である。
つまりまぁ、所謂空気の良い所は公爵領の方が良いけれど、私がロイスデン公爵領を訪れることを却下した。
私がラテンタール家を出ればこの婚約は解消というか破棄というか、そんな扱いになるはず。それなのに元婚約者の領地で家出生活を送るって図々し過ぎない⁉︎
……実は計画を立てて直ぐの頃、こう言った時、ヘルムさんが居たので
「公爵様も奥様もオズバルド様も誰も気にしないし、迎え入れてくれそうだけど」
とか言われたのだけど。
それでも嫌だった。
私個人がロイスデン公爵家に何かを齎す事なんて無い。つまり見返りが無い存在が私だ。
価値として、オーデ侯爵家の血というものがあるけど、そんなの必要不可欠だとは思わないし。
私が提供出来るのは、私自身の労働力くらいだろうけど、全力疾走したら疲労骨折になるか、その前にぶっ倒れるか、というような私に労働力なんてものが有るとは思えない。
気持ちとしては労働力を提供したくても。
ーーそんなわけで。
「宰相補佐様にお伺い致しましたら、宰相様直々に領地へ来るよう命じられました、と連絡が来ましたので、こっそり宰相様の領地へ行ってだいぶ整いましたので」
「取り敢えずそういった準備をアズにお任せしていてごめんね。アズを頼りにしてます」
「お任せ下さい、お嬢様」
この計画に関して、スタートする前にヘルムさん経由でロイスデン公爵様に尋ねた。ーー王家にご報告されますか? と。
既に国王陛下に報告済み、との回答を得たことから、私の家出が随分と大きな事になっている……と戦慄する。
でも私が言うのもなんだけど。
王家……というかまぁ国王陛下だよね……が目を付けたという使用人についての調査の対象であるラテンタール家の令嬢が、家出をするなんて、何か疾しい事が有るとか考えられてもおかしくないわけで。
そう考えると、この計画をロイスデン公爵様に頼っていたのは良かった……ということだよね?
今頃になって、この計画の杜撰さに背筋がゾッとした。
そりゃそうだわ。怪しい使用人を知ってか知らずか、結果的には匿っているような家の令嬢が、家出をします、なんて怪しさ満点じゃないっ!
もし、コレ、公爵様が噛んでなかったとしたら……そしてアズが宰相補佐様という後ろ盾がなかったとしたら……
もしかして、もしかしなくても、怪しい動きをした、とかで私は捕らえられていた、かも……?
……いや、これ以上恐ろしい事を考えると身震いが止まらない気がする。
だけど、その可能性とか色々考えが足りてなかったのは確かだわ。うっかり社交界に出て行っても、私、もしかしたら人の悪意によって足元を掬われていたかもしれない。
……考えが足りな過ぎた。
それって、今は幸運なことに何もないけど、悪い方に事が運ぶかもしれない可能性に気付いてなかったということで。下手するとお兄様の足を引っ張っていた、かも、しれない?
「アズ」
「はい?」
「今、私は自分が如何に幸運なのか、噛み締めてる」
「えっ……どうしたんですか? 急に」
「だって、この計画。アズの後ろ盾が宰相補佐様ということとか、一応はオズバルド様が婚約者だからロイスデン公爵様のお力添えが頂けているからとか。そういう幸運が無ければ出来ない事だって気づいたの。下手するとお兄様の足を引っ張るどころか、大変なことになっていたんじゃないかって」
アズがギュッと抱きしめてくれる。
「まだお嬢様は十二歳です。確かに私の後ろ盾やロイスデン公爵様のお力添えがあるから幸運でしょう。
でも。抑々の話、お嬢様が生家を家出しよう、と思い付くような事態に追い込んでいるクズ達が居ることが間違いなのです」
アズ、気持ちは分かるけどクズ達って……本音が駄々漏れだよ?
お読み頂きまして、ありがとうございました。




