練習と初勝利
視点変更があります。
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が、境目に入ります。
↑
2016.2.10
視点変更は次話でした。
失礼しました。
2016.2.13
レイアウト修正
2016.3.10
重さは5キロです
↓
重さは同じです に変更しました。
(会話文4つ目、直径10センチ で始まる文章)
黒蜜、等と言っていたら食事を取っていないことに気付いた。色々あって、すっかり忘れていた。思念で話せるってことは、食事しながらでもできるな。
携帯食料とペットボトルを取りだしながら、声のない会話を続ける。
『武器ってことだけど、その形でどんなふうに使う?』
文庫版サイズの卵型の金属球、《黒蜜》の形は明らかに武器とは思えない。投げつけるとか?
『私はどんな形にでも変形します。全体の重さは変わりませんが、体積は変更できます』
『体積の変更?』
『直径10センチの球、直径20センチの球、どちらの球にもなれますが、どちらも重さは同じです』
なるほど、ある程度密度を変更できるわけか。密度なのか?
『その場合、固さはどうなる?』
『10センチの方が固いです』
密度で間違いないようだ。さらに質問を重ねる。
『例えば、20センチの球で中を空洞にして、表面を固くしたりは?』
『できます』
『空洞の中に水を入れて、疑似的に重くすることは?』
『そのような使用方法は、設計上組み込まれていませんでしたが、可能ではあります』
『水に濡れて錆びたりは?』
『しません』
それなら、先ほど拾った中古の水用魔石を使って、適宜重量調整ができそうだな。形が自由なら、魔石をはめ込むことができるだろうし。
ここでいったん、携帯食料を口に入れる。見た目はブロックタイプの、地球でもよく見かけるやつに近い。それと干し肉もある。味の方は、お世辞にもあまりおいしくない。あくまで携帯用。普通の食事が美味しいことを願う。
食事をしながら、質問を続ける。
『固い盾になるとしたら、大きさはどれくらい?』
『直径20センチぐらいでしょうか』
直径20センチほどの円に変形させてみる。次に腕に装備した籠手をみせながら質問をする。
『籠手になるとしたら?』
『その籠手より固くなります。後は、その籠手の表面を覆って、余った部分で手を守るグラブなども作れます』
既存の武器を補強するのもよさそうだ。
『剣になってもらってもいい?』
『はい』
随分と小ぶりの剣になる。食事も終えたので、剣を持ち軽く振ってみる。
『軽めで威力はあまりなさそうだけど、振りやすく刃も鋭いので状況次第だね。ただ、剣でこの大きさだと、斧は難しそうだ。柄は別に用意して、さらに水で重量アップ等が必要かな』
『はい。あとは鞭のような形にもなれます。意識で軌道を変えられますので、相手の裏をかくこともできます』
今度は、鞭に変形させ、何回か振ってみる。次に、振りながら流れに逆らう軌道をイメージしてみる。そうすると、不自然な方向に軌道を変える。面白い動きで確かに奇襲には良いかもしれないが、柔らかく曲線を描くような操作は難しくて、かなり練習が必要みたいだ。
最後に、《木杖》を強化するような形に変形させる。《木杖》は上側がアンモナイトのように丸まっているので、鈍器として使えるよう覆う。そして、下側には刃をつけてみる。鈍器として使ってみたり、刃側で切ったり突いたり。色々振りながらバランスを調整し、扱いやすくする。全体的に長くなったおかげで、兎戦の時のように地面近い部分も、腰をかがめる必要はなさそうだ。いざというときに、すぐイメージできるよう《ハンマースピア》とでも名付けて、頭に記憶しておこう。
一通り練習が終わり、頭をもう一度整理して、残る疑問を聞いてみる。
『そういえば、分割して使用はできる?』
『可能ですが、別々に形状をイメージするので扱いが難しくなります。精々3つぐらいまでが妥当かと思います』
『手が触れていない状態で、形の変更をしたり、動かすことはできる?』
『体の一部分が触れていないと、形状変更も動かすこともできません。念話は可能です』
との返答だった。こんなところかな。
せっかく鋭い刃ができたので、錆びた武器や壊れた木箱を解体し、鉄くずや焚き火用の木として【格納庫】に収集した。
体力も魔力も回復し、アイテムの収集も終わったので出発する。《黒蜜》は、歩きやすいよう、ベルトのように腰に巻いている。目指すは崖の上の道路だが、歩き始めてすぐ、【索敵】の範囲に赤点が入ってきた。どうやら後方から、魔物が迫ってきている。
『魔物が来たみたい』
《木杖》に《黒蜜》をセットしながら、念話をする。
『何体ですか』
『1体』
『わかりました』
姿を隠し【索敵】を見ていると、妙な動きに気付く。一定に動かずに、進んで止まって進んで止まってを繰り返している。テンポよくリズミカルで、周囲を警戒して止まっているという感じではないようだが。
『どうかしまいたか?』
俺の戸惑いに気付いたように、話しかけてくる。
『いや、変な進み方をしているから気になっただけ。よくわからないけど、後ろに回り込んで確認してみよう』
『はい』
木陰や藪を利用して、背後に出るよう迂回。その先に見えてきたものは、
『フロッグか』
大きさが膝まである緑色の蛙、かなり弱めの魔物だった。進み方が変だったのは、跳ねていたからか。
『練習にはよさそうだ』
『はい』
フロッグは弱いけど、こちらも初心者。油断しないよう気を引き締めて近づいていく。
兎と比べれば、動きは遅く体も大きいため攻撃しやすい。今回は武器も使いやすいし、魔法まではいらなそうだ。注意点は、向こうが逃げずに攻撃してくる事か。
ある程度近づいたところで、一気に駆け出す。気配を感じたか、フロッグが首だけ振り向いた。構わず、横なぎに刃を振りぬく。こちらの攻撃を避け、相手はそのまま前方にジャンプ。器用にも着地する時には、こちらを向いている。しかしこちらも、空振りした後もそのまま突っ込んでいた。間髪を入れず、喉元目がけて刃を突く。口を開けて攻撃をしようとしたため、刃は口を貫き首の後ろへ飛び出す。そのまま左へ振り飛ばす。
フロッグはそのまま飛んでいき、地面に倒れ黒い塵となる。あとには魔石が転がっていた。
『おつかれさまです』
『ありがとう』
魔石の転がる場所へ向かいながら答える。けがもなく、息も乱れずまずまずかな。
魔石を拾いあげ、指の間にはさみながら眺める。これが魔物の魔石か。初勝利をかみしめながら眺める。ここで生活していくためには、こんな戦いをしていくのか。戦いは素人だけど、フロッグは弱い魔物で勝てた。徐々に強くなっていこうと思いながら、魔石をしまった。
その後、2匹のフロッグと同時に戦闘となるが、特に問題なく倒し、崖の突き当たりまで来た。崖の高さは10メートルといったところだろう。登れそうなところもないので、魔法に頼ることにした。
「【浮遊】」
補助魔法初級で、空が飛べると言えば聞こえがいいが、ふわふわゆらゆらとけっして動きは早くない。戦闘向きではないだろうと、実際に使って思った。初めて飛んでいるというのに、なんかあまり感動がない。水に浮いてるって感じが近く、移動するのも水の中を歩くような抵抗感があって自由がきかない。中級や上級には【飛行】【天翔】などがあるが、それに期待しよう。
さすがにゆっくりとはいえ、10メートルはあっという間で、すぐに崖の上に到着した。【索敵】でわかっていたが、やっぱり人はいなかった。
崖の上の道路は、そこそこ整備されていた。馬車のすれ違いは難しそうだが、幅もそれなりにある。左右を見渡すが、どちらも山を回り込むような感じで先が見えず、現段階では人に会えそうもない。
後は、馬車は通れない歩行用の細い道が1つ、山の中に続いている。【索敵】の地図では、山の反対側に出られるようで、その先にも馬車の通れそうな道路がある。どうやら、ここにある道路とつながっているようだ。道路で左右どちらかに行くか、それとも山道を越えるか。迷ったが、山道の方がかなりショートカットできそうなのでそちらに進む事にした。
傾斜は大したことなく歩きやすかったが、木々に覆われ見通しが悪い。山の斜面なら周囲を見渡すことができるから、うまくすれば街等見つけられるのではと、期待していたのだが。何も見えないまま、反対側の道路へ到達してしまった。
「広いなぁ」
視界が広がり、急にまぶしくなり目を細める。こちらの道路も崖の上にあり、下には草原が広がっていた。右の方には湖も見える。しかし街などの、人が住んでいるようなところは確認できなかった。人もいなさそうだ。
道の傾斜から右方向が下りで、草原や湖まで行けそうだが、【浮遊】で直接崖を降りた方が速そうでもある。ただ、このまま進んだ場合、何もない草原で野宿することになりそうだ。草原の中に道路はあるので、進めばそのうち人里には出られるとは思うが、いつになるかはわからない。それとも、転送されたところへ一旦戻り、明日別の方角に進むべきか。何もないこの草原で野宿は危険そうだけど、ここまで来て戻るのもなぁ。だけど、屋根のある建物の方が安全だし。
色々悩んでいたその時、突如左手から魔物が出現。崖下なので襲われることはないが、ウルフの群れ12匹だった。
「【浮遊】で降りてなくってよかった」
と、一安心していたが、目の前を走り抜けていく動きが少し気になった。ただの移動中にしては、殺気立っているように見える。
「何かを追いかけている?」
様子を見るため、崖の上から追走する。
答えはすぐに判明した。彼らの向かう先に馬車を発見。【索敵】範囲に入り8人の人を確認。
「人だ!」
こんな状況でなければ喜ぶところだが、8人のうち戦闘できる者が何人いるだろうか。ウルフの数が多い、下手をすればせっかく出会えたのに殺られてしまう可能性だって…
「冗談じゃない。出会えたこのチャンス、逃すわけにはいかない。【浮遊】」
武器を手にしながら、崖下へ飛び降りた。




