装備調達
目が覚める。ルナが女子部屋に移り、また個室に戻った。あるべき状態に戻ったのだが、今度は部屋の配分バランスに悩んでいる。
女子部屋が5人になり、少し手狭になっている。部屋替えを検討したのだが、どの部屋に誰を入れても、不公平感が出てしまったり、不便になったり。シエナ達は、以前の暮らしと比べれば、広く快適で問題ないと言ってくれるが。今は解決策がないので、保留にしている。
着替えて階下に行くと、いつも通りシエナがいた。
「おはよう」
「おはようございます」
見た感じでは、シエナも来たばかりのようだ。
「まだ、朝食の準備始めてない?」
「はい、これからです」
「なら、先に髪の方を済ませようか」
【格納庫】から髪留めを取り出す。
「これ…」
「この前の『わがまま』を形にした物かな」
「ありがとうございます」
嬉しそうに受け取ると、そのまましばらく見つめてる。
待ちながら、今から結ぶ髪型について考える。
『うちには、大きな鏡が無いんだよな』
この前のように後ろで結ぶと、留めたところが本人には見えない。
『今日は初めてだし、見えるところに髪の先をもってこよう』
髪留めのために、前回と髪型を変えることにした。
「そろそろ、始めようか」
声をかけて、木箱に座らせる。後ろに回り、櫛で丁寧に髪をとかす。ここまでは、前回と同じ。その後、とかした髪を左肩にかけるようにして前へ垂らす。
「ケンヤさん?」
戸惑いながら、声をかけてくる。俺は、立ち位置をシエナの左前に移すと、髪を編み始める。
「今日は、先端を前にしようと思ってね」
それなら、シエナ本人でもできるのだが、そのまま続ける。髪留めを受け取って、三つ編みをサイド結びに仕上げた。
「これなら、髪留めが見えるかなと思ってね。最初くらい、見える位置にあっても良いかなと。前にあると、仕事の邪魔になりそう?」
もしそうなら、一度ほどいて後ろで結び直せばいいだけだ。
「いいえ、大丈夫です。ありがとうございます」
こちらを一度見て、その後は毛先をいじりながら、しばらく髪留めを見ていた。
ルナとスパイク、3人で〈ドーン武具店〉に向かう。変わった組み合わせになったが、おっとりマイペースのスパイクは、誰が相手でも変わらない。のん気に話をしながら、目的地に着く。
「いらっしゃい」
「「「おはようございます」」」
ドナさんが、いつものように迎えてくれる。スパイクは、仕事モードに変わったのか、少し締まった顔になると、早速店の奥へと向かって行った。
「スパイク。そのまま親方を呼んできて」
「はい」
指示を出すと、こちらを向くドナさん。
「その子、もしかして、新たに増えたっていう同居人?」
俺からは、ルナの事話していなかったのだが、もう知っているようだ。セス辺りが話したのだろうか。
「そうです」
「ルナ、です」
緊張しているのか、小声で短い自己紹介になっている。
「私はドナよ。よろしくね」
「よろしくお願いします」
視線を俺に戻すと、ドナさんが聞いてくる。
「今日は、アクセサリーの受け取りの他にも、何かありそうね」
「はい。実は…」
「この前は悪かったな。出かけていて、受け渡しに立ちあえなくて」
話の途中で、奥からドーンさんが来た。
「いいえ。調整の必要が全くないので、全然大丈夫です」
「そうか。とりあえず、それも含めて始めようか」
「はい」
俺は、いつもの部屋に入りながら、ルナに声をかける。
「防具とか見ながら、少し待っててくれるか」
「はい」
返事を聞くと、そのまま椅子に腰掛けた。
「まずは、受け渡しからだな」
「これが最後の依頼、《白鋼耳飾・鈴蘭樹華》」
鈴蘭を思わせる、釣鐘型の淡く光る白い花。囲むような花弁の中には、琥珀のような丸い宝石が嵌っている。そして、その花に添うように、銀色の葉が1枚。花1つに葉が1枚、それを1組として、左右1対分の耳飾りが、机の上に置かれた。
「綺麗に仕上がりましたね」
ティルダさんと訓練した時に見つけた花。それをモチーフにして作ってもらった。俺が身に着けている《葉》も同じだ。
「こういった細かい作業は、ドナの方が得意だからな。基礎部分だけ作って、後はドナに任せた。最後にチェックはしたが、問題なく機能している」
「これは、使う人に確かめてもらって、何かあったら持ってきて」
「わかりました」
そのまま、受け取り【格納庫】へしまう。あとで、簡単なラッピングでもしておこう。
その後は、《月白》と《葉》について、装備感や使用の感想を、ドーンさんから聞かれた。
「それで、あそこにいる子は、何をしに来てるんだ?」
一通り用件が済んだところで、防具を見ているルナについて、ドーンさんが聞いてくる。
「実は、冒険者になりたいと言っていて…」
簡単に、経緯と特徴を説明する。とりあえずは、冒険者としての適性を見るので、武器を新調するのは早い。ただ、狩りにいくのに、防具なしでは危険なので見に来たと。
「その話だと、素早さ重視だから、軽い革防具で良さそうだな」
「はい。脛当てと胸当てがあれば、とりあえずは良いです」
「わかった。一旦、ここに呼んでくれるか。少し武器を確認したい」
「ルナ。こっち来てくれる」
「はい」
ルナが、部屋に入ってくる。落ち着かないようで、少しおどおどしている。
「とりあえず、持っている武器をここに置いてくれ」
机に置かれたのは、《鉄短刀》1本、《青銅投剣》5本。それらを手に取って眺めつつ、ドーンさんは次の指示を出す。
「ドナ、その子と一緒に防具を見繕ってくれ。ついでに、その腕に付けている革籠手も見てやれ」
「はい」
2人が部屋を出ると、ドーンさんがこちらを向く
「手入れはされているようだし、このまま使えそうだな」
「そうですか」
「実際、どのくらいできそうなんだ?」
「わかりません。それを見に、これからゴブリン狩りに行こうと思ってます」
昨日見た、《青銅投剣》の事をついでに教える。
「ほぉー。2本同時に投げれるのか」
少し楽しげに笑うと、俺を置いて奥の工場に行ってしまった。暇になった俺は、《鉄短刀》を手に取り眺める。俺の持っている《鋼鉄短刀》より、少し小振りのようだ。
「あれ、親方は?」
ルナとドナさんが戻ってくる。
「ドナ、そっちが終わったなら、武器を持って2人をつれてきてくれ」
俺が答える前に、ドーンさんが奥から呼んできた。
「スパイク。奥に居るから、何かあったら呼んで」
「はい」
ドナさんは、店番をスパイクに任せると、店の奥へと入っていった。
奥で待っていたドーンさんの前には、5種類の《投剣》が用意されていた。壁にも、板が5枚立てかけてある。
「とりあえず、これらを投げてみてくれ」
「は、はい」
少し緊張した様子のルナだったが、《投剣》を手に構えた後は雰囲気が変わる。冷静に的を見つめ、神経を研ぎ澄ましている。
(タンッ)
次々に板に刺さる《投剣》は、1つも的を外れることはなかった。
それをもう一度行い、ドーンさんとルナは二言三言、言葉を交わす。
そこで、ドーンさんが《投剣》を何やら調節して、またルナが投げ、会話をする。
時に、新たに《投剣》を出してきながら、それを何回も繰り返していた。
「あれは、何をしているの?」
小声でドナさんに聞く。
ドナさんが言うには、バランス、大きさや重さ、形状を確認して、使い手の好みに合った《投剣》を調べているそうだ。
「今日は、様子見だから武器の新調はしないって言ったんだけど?」
「親方に、何か言わなかった?」
最後に言ったのは…
「…2本同時投げができる、とか」
「多分それね。1本でも、的に刺すには技術がいるからね。後は…」
セスとスパイクに作業を教える過程で、親方自身が何かを作る事になる。どうせ加工するなら、役に立つものを作るのだろうと。
その話を聞いたついでに、昨日手に入れた《青銅の欠片》《鉄の欠片》を、【格納庫】から出して渡す。どうせなら、多めに作ってもらおう。無くす可能性が多そうだからな。刺さったまま逃げられたり、避けられてどっかにいってしまう事あるだろうから。
そんな打算的な事を考えながら、真剣に相談している2人を眺めていた。
《白鋼耳飾・鈴蘭樹華》
長いので、ホワイトは省略しました。
・鈴蘭樹
2章『街の東…(訓練〔ティルダ〕)』に出てきた樹で、鈴蘭のような花を咲かせる〈ブランドン大陸〉固有の植物です。鈴蘭のように連ならず、一輪ずつ咲いている樹と思ってください。
普通に鈴蘭にすれば良かったのですが、樹の上に咲かせてしまったので、固有にしました。
・鈴蘭樹華
読んでの通り、鈴蘭樹の華(花)の形をしています。
リリーベル=鈴蘭ですが、樹とか華を英語で加えず単純にしました。




