ルナ初戦
〈ドーン武具店〉では、思っていたよりも時間がかかってしまったが、それでもまだ昼前。時間はたっぷりある。【索敵】を唱えて、周囲の状況を確認する。相変わらず、魔物の数は多い。これ全部、ゴブリンなんだろう。
ルナは、ゴブリンと戦った事が無い。まずは俺が相手をし、どんな感じなのか見てもらう事にする。一撃で倒しては意味が無いので、手加減をして、ある程度戦い方を見せてから倒した。単独行動をしているゴブリンを3匹倒したところで、ルナに声をかける。
「何となく、どんな動きをするかわかった?」
「はい」
見た感じでは、特におびえたりとかもなさそうで、平常心を保っている。
「俺はLv4の時に、初めて魔物を倒した。今のルナはLv5だから、慌てず冷静に戦えば、大丈夫だと思うよ」
ルナが、俺の言葉に頷く。
「最初の予定どおり、ここからはルナがゴブリンの気配を感じながら、行先を決めて。戦い方も、話し合った通りでね」
「わかりました」
「それじゃ、【防御】」
ルナの攻撃力と回避能力を知るために、【攻撃】と【俊足】は付与しないでおく。【防御】は、ゴブリンとの力量差が分かるまで、念のため使う事にしている。
ルナが、気配を探り歩き出す。【索敵】で確認すると、1番近くで単独行動をしている魔物へと向かっていた。たくさんいて危険そうな場合は止めることになっているが、問題ないようだ。
1分ほど進んだところで、ルナが腰の《青銅投剣》へ手を伸ばす。前方を見ると、ゴブリンがこちらに背を向けて歩いていた。
木立沿いに身を隠しながら忍び寄るルナ。気づかれずに5メートルの位置まで近づいた。
『接近の仕方は、俺よりも全然うまいな。レベルやスキルとか関係ない、技術なんだろうなぁ』
少し後ろで、感心しながら見守る。
構えを見せたと思ったら、狙いを定めるような溜めもなく、すぐに投擲する。
(サクッ)
背後から、心臓の辺りに《青銅投剣》が刺さる。
投擲と同時に、その場から飛び出し、《鉄短刀》でゴブリンの首筋を斬るルナ。見事な動きだった。
『多分、最初の一撃で決まってたんだろうけどな』
倒せない可能性もあるから、判断的には間違ってはいない。
俺は魔石を回収するルナに近寄る。
「全然、問題なさそうだね。俺の初戦と比べると、安定して全く危な気無かったよ」
「はい」
「次は、接近戦にしてみよう」
あの、素早い動きなら、《青銅投剣》が無くても問題なくいけるだろう。
ルナが、確認の為こちらを見てくる。
すでに5匹を倒し、全く問題ないのだが、今度の敵は2匹一緒だった。
「ルナはどう倒そうと思ってる?」
「《青銅投剣》で傷を負わせてから、接近戦で攻撃しようかと」
「それでいいと思うよ」
先ほどまでの状況から、2匹一緒に接近戦でも大丈夫だと分かっているので、そのままルナにまかせる。
今度は《青銅投剣》を2本持ち、少し溜めて狙いを定めている。遅いとはいえ、歩いている2匹を狙うから当然だろう。
(サクサクッ)
「ぐがっ」
2本同時にゴブリンに刺さる。1匹は心臓に刺さりそのまま倒れた。もう1匹は肩に刺さっているが、うめき声をあげるものの倒れはしない。近づいてくるルナに気付き、無事な方の手を使い、棍棒で殴り掛かってきた。
軽いステップで、右にかわすルナ。左手に《鉄短刀》を持ちかえると、そのままゴブリンの脇腹を裂き、背後へとすり抜ける。肩と脇腹、2つの傷を受けダメージを蓄積したゴブリンは、黒い霧となって消えていく。
「もう、練習なんて必要無さそうだね」
これなら、俺が見守らずに、2人でどんどん狩っても大丈夫そうだ。さっきのように動けるなら…
「そういえば、さっき左手で《鉄短刀》使わなかった?」
「はい。使いました」
ルナが、どうとでもない事のように返事をしてくる。
「もしかして、どっちでも戦えるの?」
「はい」
「両手に持って戦う事もできる?」
短刀で二刀流ができるのだろうか。ちょっとかっこいい。
「練習したことはありません」
そこまではした事無いようだ。でも、やったらできるかもしれないよな。【格納庫】から《鋼鉄短刀》を取り出して渡す。
両手に持って、色々と試しているルナを眺める。どちらの手でも扱えるのと、両手同時に扱うのは別の様で、ぎこちなさがある。本人も、思った通りに出来ないのだろう。首をかしげている。しばらくすると、鞘におさめて返してくる。
「それはあげるから。そのまま、ルナが持っていて」
「でも、できそうにないですし」
「両手で攻撃できなくても、片方を防御にするとか。それに、今はできなくても、両手に持っていたら、そのうち慣れてくるかもよ」
始めて両手に持って、すぐにできるとは思ってない。今後、できるようになったらいいなくらいだ。俺が持っていても、使う事無いし。
それでも、ルナは返そうとしてくる。
「防具も揃えてもらって、さらに鋼鉄製の武器をもらうわけにはいきません」
「それ、拾い物だから気にしなくていいよ。どうせ余っているから、予備の武器として持ってて」
無理矢理押しとどめ、なんとか持たせた。
その後は、ルナに【攻撃】や【俊足】を使って、強化される感覚にも慣れてもらう。
元々素早さがあるので、【俊足】をかけると、気配を感じさせない効果とも相まって、ゴブリン数匹を瞬殺できるようになった。サクサクと狩りをして、帰る時にはレベルが7まで上がっていた。
「こんにちは、ガルトさん。先日はありがとうございました」
ゴブリン狩りの帰り、南門で挨拶する。
「ケンヤ殿か。あれからどうなったのか、気にして…」
会話の途中で、俺の後ろにいたルナに気付いたようだ。ルナが頭を下げる。
俺は、そのまま簡単に事情を説明して、先ほどまでルナと一緒にゴブリンと戦っていた事を話す。
「冒険者になるとは…」
「最初は止めたんですけど、以前から考えていたようで。それに、働き口を探さないといけない中、本人がやりたいというなら、まずは挑戦させてから判断かなと思いまして」
「そうか。あれだけいると、生活費もそれなりにかかるだろうからな」
「はい」
「後、何人分の仕事探しているんだ」
「2人です。男で12歳と13歳。何かありそうでしたら教えてください」
「…そうだな。確認しておくよ」
「ありがとうございます」
考える仕草を見せるガルトさんに、ルナと2人でもう一度頭を下げると、ギルドに向かって移動をする事にした。
「また、新しい子が登場したわね」
とは、お姉さんの言葉。ディアナさん、今日はいないようだ。
「はい。冒険者登録をお願いします」
「何かの用事に、付き添ってきた来たわけじゃないの?」
「違いますよ」
そう返事をして、ルナにカードを出させる。
「これは、少し予想外の展開ね。仕事が決まってなかったのは、男の子じゃなかったかしら?」
「そうですけど…そういえば、1人増えた話はしてなかったですね」
カードを受け取る手が止まる。珍しいリアクションだ。
「確認だけど、今は何人暮らし?」
「1人増えて、11人ですけど」
「後何人女の子入居予定?」
「予定はありません、って何で女の子限定何ですか」
「何となく」
「とりあえず、手続きしてもらえません?困ってるようなので」
ルナが、戸惑ってこちらを見ている。
「そうね。手続きしながらでも聞けるし」
「特に話すようなことは無いですよ」
そう答えて、じっと瞳を見つめる。借金を立て替えた話なんて、こんなところでするわけにはいかない。
「そうなの?それは残念」
俺の変化を察してくれたようで、さらりと流してくれた。
「その代わり、ゴブリンの話なら、2か所ほど追加で調べてきましたよ」
地図を出しながら言う。
「手続きと並行して、そっちも確認した方がいいわね」
ルナの手続きは、別の事務員に引き継がれ、こちらは報告に入る。今日の結果も、昨日と同じで、南東方面を示していた事を報告する。
「そういえば、今日は無理かもって言ってなかった?」
「ルナの初狩りだったから、力量を測るためにする気は無かったんですけど。実力に問題が無かったので、そのまま調査してきました」
魔石を取り出しながら言う。
「そうなの。こちらとしては助かるわ。それにしても、今日も結構あるわね。ご苦労様」
「それはもう、人質取られてますから。頑張りますよ」
笑って言う。人質は冗談だけど、ここで俺が頑張れば、シエナ達の立場も良くなる。
「そうね。とても大事にしているみたいだし」
「共同生活してますからね。家族みたいなもんです」
「家族、ね」
「?」
なんだろう。視線が何か笑ってるような感じがする。
「シエナから聞いたわよ」
「何をです?」
「朝、髪を結んであげてるんだって」
「そのことですか」
知らない間に、何か変なことしたかと思った。いや、していたけれど…
「髪留めも作ってあげたみたいだし」
「みんなをまとめるのに、今まで苦労していたみたいですから。もう少し子供らしくしても、良いのになと思って」
「2つしか変わらないでしょ」
「そうでしたね。忘れてました」
中身は違う上に、最近はセルマやソニアを子供のように扱っているから、すっかり自分の見た目を忘れていた。
「ところで、シエナが自分から話したんですか?」
誤魔化すために、少し話題の方向を変える。
「いいえ。雰囲気から、何かありそうだなと」
「それで、尋問したと」
「そんなことしないわよ。ちょっと誘導しただけ」
「駄目ですよ。ディアナさんがいないからって、シエナを標的にしちゃ」
「無理矢理聞くようなことはしてないわよ。むしろ、うれしげに話してくれたんだから」
真面目な会話が、段々とくだらない話に変わっていく。気づくとルナの手続きもとっくに終わっていたので、適当なところで切りあげて、帰ることにした。
2016.3.25
用事があって、1週間ほど更新ができないと思います。
書きあげる時間がとれれば、更新したいと思いますので、よろしくお願いします。




