調査中
南門を通る時、先日のお礼を言うためにガルトさんを探すが見当たらない。どうやら、今日はお休みのようだ。また明日寄ればいいので、そのままギルドへ向かった。
「お疲れ様。今日も結構倒したわね」
「ゴブリンソルジャーも居たようね」
カウンターに魔石を置くと、暇なのか2人で一緒に対応してくれる。
「一向に減りませんね。これ、いつまで続くんですか?」
「「わからないわね」」
揃って返事をしてくる。
「どうせ揃えるなら、もっといい返事無いんですか?」
「無理言わないでよ」
「目ぼしい情報ないからね。こっちも見当つかないのよ。ところで、ソルジャーは強かった?」
「今日の目的は、鍛錬じゃなかったから、正面切っての戦闘をしてなくて。後ろから不意打ちにしていたので、違いはわかりませんでした。《青銅の欠片》の代わりに《鉄の欠片》が落ちていたので、そうだったのかなと思ったくらいです。」
「目的?そんな事考えながら、ゴブリン退治を?」
ディアナさんが、不思議そうにしている。
「金にならないゴブリンだからこそ、有効に使わないと」
「面白い事考えるのね。で、今日の目的は何だったの?」
お姉さんが聞いてくるので、地図を出して見せる。
「ゴブリンが、どこから来てるのか考えていたんです。調査方法なんて知らないから、素人感覚ですけどね」
笑いながら言う俺に、お姉さんの目が真剣になった。
「この矢印、どうやってわかったの?」
「ただの推測、あまり当てになりませんが…」
俺のとった方法を簡単に説明する。ついでに、3枚のメモ紙も渡した。
「このメモ、【索敵】内のゴブリン全部の動き?」
「まさか。全部調べるほどの余裕はないですよ。動きの早い魔物だけを選んでます」
「その選択理由は?」
「周囲を警戒したり、何かを探している時は、止まったりゆっくり移動しますよね。拠点があれば、周囲を囲むように、そういった動きがみられるかと思ったのですが、今回探した範囲にはありませんでした。散開していて、無秩序だったので、それは放っておきました」
「なるほどね」
これがあれば、一番楽だったのだが。
「後は、目的がある時は、普通まっすぐにその方向へ進みますし、一定の速度が出ます。逆に、目的が無ければ、方向が定まらず、速度もそこまで速くないでしょう。なので、動きの速い個体から順に調べてます。人の行動パターンが、魔族にどれだけ当てはまるかわかりませんけど」
「確かに、一理あるわね」
「ついでに、魔物の行動基準で優先度が高いのは、人を襲う事でしょう。今回、範囲内に人はいませんでした。なら、魔物が来た方向、もしくは向かった先には、何があるのかなと」
「拠点、もしくは大量発生の理由があると?」
「可能性ですけどね。闇雲に探すよりはいいかなと」
「この地図と紙、少し借りてもいい?」
「構いませんよ」
お姉さんが、カウンターの奥に行く。
「ディアナさん、静かですね」
途中から、会話に全く入ってこなかった。
「下手に口挟まない方が良いと思って」
「そうですか?思い込みもあるし、意見言ってもらった方が、良かったと思いますけど」
「すでに、ギルド内で意見は出しあって、考察済み。手が打てない現状、色々な発想が必要よ」
そんな会話をしていると、意外に早くお姉さんが戻ってきて、地図を返してくれる。
「この方法、明日以降も継続してくれる?」
「明日以降ですか?」
明日はルナを連れて行く予定だし、明後日は皆で出かける約束しているしな。
「何か予定でも?」
「今週は、約束を入れていて何とも。上手くすれば、明日はできるかもしれませんが。来週なら大丈夫です」
「それで構わないわ。他に出来る人がいないから」
「【索敵】使える人がいないと?」
「今はね。普段なら、ここにも居るんだけど」
冒険者だけでなく、ギルドも人手不足みたいだった。
魔石の代金を受け取ると、帰宅する前に〈ブラウン〉に向かった。ギルドからそれなりに近いし、明日からステラが働く。ちょっと挨拶をしておこうと思った。
「いらっしゃいませ。あっ、ケンヤさん」
入り口近くにいたレベッカさんが迎えてくれる。
「こんにちは。席はどこでも?」
「好きなところで良いですよ」
できればジョージさんと話したいので、奥の席へ向かう。
「いらっしゃい、ケンヤさん。食事もするの?」
「いや、夜ご飯近いから、コーヒーだけ」
「そっか。それは残念」
注文を取りに来たショーナさんに返事をすると、よくわからない答えが返ってきた。残念ってなんだろう。
数日ぶりの〈ブラウン〉だが、いつもより若干空いているような気がする。ひそひそ話している人も多く、雰囲気にいつもの明るさがない。
妙な違和感を感じていると、ジョージさんがコーヒーを運んできた。
「こんにちは」
「こんにちは。何かありました?」
挨拶もそこそこに、小声で聞いてみる。
「実は、近所で泥棒騒ぎがありまして」
「泥棒ですか?」
詳しく聞いてみると、昨日の夜から今日の朝にかけて、3件隣のお店に泥棒が入ったとの事。結構な額だったと、噂が流れているらしい。
「数日前に起こっていたら、ケンヤ君が気づけたかもしれませんね」
「そうですね。【索敵】中に人の動きがあれば、すぐわかりましたからね。3件隣…右側の方ですか?」
「そうです」
確か、夜中の11事頃に帰宅する集団が勤めていたところか。
「それなら、浮浪者が見ていたのでは?」
2件隣の向かい辺りに、毎晩居たのを思い出す。あそこに居たら、気づけるだろう。
「それが、昨日は見かけていないんです」
「そうなんですか」
目撃情報が、全くないようだ。この世界の事件捜査って、どのようにしているのだろう。科学なんて無縁な世界だからな。
「おかげで、ここ一帯のお店が対策や警戒で忙しくなっています」
「それで、この雰囲気と」
俺が店内を眺める。
「はい。うちも、近所のお客が減ってしまって困っています」
そうすると、料理が余っているって事か。〈ブラウン〉では、前日から準備しているからな。それで、ショーナさんが残念と言ったのか。
「だったら、持ちかえりで料理売ってもらえますか」
「持ちかえりですか?」
明後日は、皆で出かける日にしているし、どうせなら夜ご飯を楽にして、1日遊べるようにしてしまおう。【格納庫】に入れておけば、保存も問題ない。
ジョージさんに理由を説明して、4品3人前ずつお願いする。皆で分け合った方が、色々と楽しめるだろう。ついでに、別に数品頼んでおく。この前のガルトさんのように、急にお客が来ても良いように、持っておくことにした。
持ちかえりのサービスは本来ないので、準備ができた料理は、調理場で【格納庫】に入れる。それが済むと、当初の目的である、ステラの事をお願いしてから帰宅した。
家に帰ると、庭にルナがいた。
「あまり無茶するなよ。病み上がりなんだから」
「はい」
投擲の練習をしていたようで、立てかけている板に、《青銅投剣》が刺さっている。明日の参考までに、そのまま見物させてもらう事にした。
(タタン)
同時に2本投げれるようだ。的へ吸い込まれるように飛んでいき、手のひら2つ分ほどの間を空けて、縦に並んで刺さっていた。命中率も良いようだ。動いている魔物にどの程度有効かはわからないが、陰から不意打ちを狙えば、確実に当てられるのではと思う。猫科なら足音を消して、気配なく接近できそうだよな。武器が小さいので、致命傷は難しいと思うが、牽制や動きを鈍らせることはできそうだ。
「投擲は、軽業師として覚えたの?」
「これは、軽業師になる前から練習してました」
話を聞けば、見世物でなく実戦を前提とした技術らしい。素人の俺には違いが分からないが。
気になるのは、なぜそんな技術をルナが習得していたのだろうか。ナイフを使った接近戦も、練習したことがあるらしい。冒険者になりたかったから?
瑠奈さんのイメージと、段々離れていく。こうなってくると、関係ないのかと思わざるをえないが、違うなら違うで、別に問題があるわけでもない。冒険者として戦えるなら、一緒に組んでやっていけばいい。無理そうだったら、街で仕事を見つける。それだけの事だ。
「そろそろ家に入るか。明日もあるしな」
「はい」
暗くなりかけてきたので、2人で家の中に入ることにした。
ダガーについて
ダガーは諸刃の短剣で、投げるだけの武器ではありませんが、ナイフと投げナイフの差を出すため、この話では投げる物をダガーにしています。
また、《短剣》で漢字を使ってしまったので、《投剣》の漢字を当てています。




