新装備
「今日は、親方出かけているから、私から渡すわね」
そう言って、銀色の腕輪を出すドナさん。
「これが依頼された、《銀腕輪・葉》。アクセサリーでありながら、《銀杖》に匹敵する効力を持っているわ」
手に持って眺める。艶消しされ鈍く光る腕輪には、葉の模様が浮彫りにされている。その葉の陰には、小さな花が隠れるように咲いていた。
側面下方には、オレンジ色の細いラインが2筋入っている。素材で渡した《琥珀翅》のようだ。
「《琥珀翅》の効果は、魔力の質上昇。空間魔法、補助魔法持ちに適した効果よ」
「俺向けの素材ですね…というか、作る前に聞くべきでした」
「あの時は、色々説明が多かったから、特に言わなかったわね。良い素材でなければ、確認取っていたんだけど」
「なるほど。この浮彫りは、全部ドナさんが?」
「そうよ。ケンヤがつけるから、花はあまり目立たないようにしたけど、良かったわよね」
「はい。花だらけより、葉が多い方が俺に合っていると思います。この植物自体、あまり花が目立たない感じでしたし」
模様の元となる物は指定したけど、デザインは元々お任せ。最初から文句を言うつもりはない。文句どころか、俺が細かく決めるより、よっぽどいい物になったと思う。
右腕に装備して、感触を確かめてみる。武器と違い直接振るう物では無いので、多少違和感があっても問題ない。そう思っていたが、そんな心配は無用だった。
「どう?」
「金属の塊を、腕に装着しているとは思えないですね。しっくりと体に馴染んでいます」
「良かった。魔法の効果も試してみて」
「そうですね。【索敵】」
いつもの感覚で試してみる。効果は抜群だった。
「《木杖》の時と比べて、大体1.6倍も範囲が広がっています」
「それなら、正常に機能してそうね。あとは、念のため武器を使ってみて。利き腕に装備してるから、槍を振った時の感覚に、違いがあるかもしれないわ」
大丈夫だとは思ったが、言われるままに《黒蜜》と《月白》を、《銀短槍》に変形させる。ゴブリンとの戦闘を思い出し、色々試してみるのだが、イメージに差異は無く、とくに問題ない。そもそも、そこまで極めているわけでもないので、多少のずれなんか認識できるわけなかったのだが。
「全く平気です。心配いりません」
「そう、それなら良かった」
安心したように、ドナさんはカップのお茶を飲む…ってそれは、俺の飲みかけなんだけど。気づいてないのか、気にしないのか。
「そういえば、スパイクとセスはどうですか?」
忘れないうちに聞いておく。
「親方も気に入ったみたいよ。仕事はこれからだから、何ともいえないけど。でも、体力面に問題はなさそうだから、平気じゃないかな」
「ドーンさんによろしく言っておいてください」
前回に続いて、今回も会えなかったので伝言を頼む。
「わかった、言っておくわ」
そう言うと、近づいてきて小声で話しかけてくる。スパイクに聞かれたくないのだろうか。
「工場の方も、少しやらせてみるみたいよ」
「そうなんですか?」
その話は意外だったので驚く。
「試しにみたいだけどね。将来的には、2人とも私より体力上回りそうでしょ。武器を作らせてみたいんだと思う」
ドナさんは、繊細な細工系が得意みたいだからな。
「それなら、これ練習に使えますか?」
俺は【格納庫】から《青銅の欠片》を出す。ゴブリンから集めたのが大分たまっている。昨日もそうだが、トレヴァーさんとの訓練の時も拾っていたからな。
「練習用には良いかもね。でも、もらってもいいの?」
「大したものじゃないし、2人が使うなら俺としても協力したい」
「教えても、駄目かもしれないわよ?」
「挑戦できるだけでも十分」
例えドーンさんの御眼鏡に適わなくても、それなりの技術として、身に付くかもしれないし。
持っている《青銅の欠片》を、全部渡しておく。
「ギルドから頼まれているから、ゴブリン狩りは当面する予定なので、また持ってきますね」
「そんなに大量になくても、溶かして使いまわしできるから大丈夫よ。まぁ、持ってきてもらえば、2人の為に有効に使わせてもらうわ」
2人の為というのが聞こえたのだろう。スパイクがこちらを見ている。
「スパイク。これを奥の工場に持って行って」
ドナさんが、誤魔化すように指示を出していた。
スパイクが、《青銅の欠片》を運びに奥に行くと、ドナさんがこちらを向く。
「ところで、そろそろ帰っちゃうわよね?」
「買い物があるので、そのつもりですが。何かありますか?」
言い方が変なので気になった。頼み事でもあるのだろうか。
「帰るなら、そろそろ時間だから、一緒に帰ったらどうかなと思って」
「それもそうですね。なら時間まで、もう少しここで過ごします」
「いいわよ、少しくらい早く帰っても」
「急ぎの用事もないですし。邪魔でなければ、ドナさんの作業でも見させてもらいます」
カウンターに置いてある《耳飾》の方を向く。
「見ていても、楽しい物じゃないけど。ご自由にどうぞ」
気が散らないよう、少し離れて見ることにする。戻ってきた、スパイクも同じように見学していた。
慣れた手つきで加工を行っている。その真剣な表情に、
「かっこいいなぁ」
思わず小声でつぶやいてしまった。
見学していると、あっという間に時間になってしまい、スパイクと帰る準備をする。
「女性に、かっこいいという形容詞もね」
少し照れたようなドナさん。
「仕事してる姿なんだから、いいんじゃないですか?」
「まぁ、そうよね」
「今みたいに、照れているドナさんは可愛いですよ」
びっくりしたように、こちらを見てる。
「それじゃ、明後日また来ますね」
そんなドナさんを放っておいて、スパイクと外に出た。
スパイクが、何か言いたそうな表情をしている。
「普段は、ドナさんにあんなこと言わないぞ」
「そうなんですか?」
「可愛いっていうのは嘘じゃないけどな。まぁ、今回のは、いたずらのお返しだな」
「いたずら?」
「あの、酸っぱい食べ物の事」
「あぁ」
納得したようだった。そして、少し眉間にしわを寄せて言ってくる。
「あれ、僕も食べました」
「それは、災難だったな」
「はい」
犠牲者は俺だけじゃなかったようだ。
「セスは?」
「まだ、食べてないです」
「なら、この事は言わないでおこう」
「はい」
これで、セスも俺達と同様の洗礼を受ける事だろう。悪巧みをする共犯者として、お互い忍び笑いをするのだった。
〈ドーン武具店〉を出た後は、お茶を買いに行く。ドナさんの紹介があるので、安心して買う事ができる。
お店の方は、ハーブティー、日本茶どちらも取り揃えてあった。どちらかというと、庶民向けのお店のようだ。整理はきちんとされているのだが、香りが色々と混じり合って雑多な印象を与える。
「茶葉10gで2、3杯飲めますよ」
と、教えてくれる店主。人のよさそうな、ちょっと小太りな中年男性だ。
いつも1日あたり1.5Lくらい水分取っていたと思うが、それで換算すると…1日60gくらい茶葉が必要で、そうすると……年間20kg超えるのか。まぁ、水分を全てお茶でとるのは贅沢か。食後くらいにしておくとして、今考えた計算を簡単な目安にして、どのくらい買うか考える。
店主との折衝を繰り返す。まとめ買いでどれくらい割引になるか、キロ単位で確認しながら、数度の交渉の上3割引きまでもっていった。
買物が終わった後、美味しい淹れ方などを教わってから、店を後にした。
「けっこう、値段下がりましたね」
帰り道、北通りを歩きながら、スパイクが感心したように言ってくる。
「そうだな。結構な量、買う事にはなったけどな」
もともと値下がりしていたのを3割引きだからな。通常価格の半値近くまで下がったんじゃないかな。
そんな会話をしていると、露店からいい匂いがしてくる。
(ぐぅー)
スパイクのお腹が、狙ったようなタイミングで鳴った。
「そこで適当に何か買うか。ご飯前だから少しだけどな」
「いいの、ケンヤ兄」
「思いのほか、安く買えたからな。皆には内緒だぞ」
そう言って、近くの露店で買い食いをする。うれしそうなスパイクを見て、今日1日で大分距離が縮まったんじゃないかなと感じられた。
その後、閉店間近のお店に寄り、皆へのお土産として、安売りのリンゴを数個買って帰った。
《銀腕輪・葉》
浮彫と葉を掛けています。『レ』にあたる部分を、何か表現できないかと悩んでいたのですが、見つからず断念しました。




