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予定変更

 翌朝、目を覚ますと、寝た時と同じ体勢のままで、体が少し痛かった。まぁ、寝返りなんてしたら、ステラを押し…あまり考えるのはやめよう。

 ステラの方はどうしているのだろう。背中越しに様子を伺うと、いつの間にかこちらを向いているのが分かった。首筋に、かすかに息がかかるのを感じる。気づくまでは何ともなかったが、一度意識してしまうとこそばゆい。

 完全に眠気が無くなってしまったので、早々に起きることにする。ステラを起こさないように、静かに布団から出る。立ち上がって伸びをしていると、背後で身動きする気配を感じる。そちらに視線を向けると、ルナさんと目が合った。近くまで歩み寄り、小声で挨拶をする。

「おはよう」

「おはようございます」

「体調の方はどう?」

「良くなりました」

 そう答えるわりには、多少まだ赤いように感じる。

「ちょっと失礼するよ」

 額に手を当て、確認をする。

「まだ、少し熱っぽいみたいだな」

「このくらいなら…」

「中途半端で長引かせるより、完全に治してもらった方が、気を使わないで済むから」

 平気です、と言いそうなルナさんを、途中で遮る。

「今日は1日大人しくしている事」

「…はい」

 布団の中に居るように命じると、階下に下りてシエナの手伝いをする事にした。


 今日の予定を考える。武器の受け取り、ゴブリン狩りの2つ。本来ならこれだけだっただったのだが、昨日魔石を持っていけなかったので、ギルドに行かなければならない。狩ってから2日以上経つと、討伐時期が分からなくなり、割増し対象から外れてしまうからな。

 それに、ルナの相手。少し話をしておきたいし、病気が悪化しないとも限らない。午後になればシエナが仕事から戻るから、そしたらステラと2人任せて大丈夫だろう。

 午前中はルナの相手をして、午後はギルドと武器の受け取り。魔物狩りは、お休みにする事にした。思わぬ休日にはなったけど、やる事はあって忙しそうだなと思う。

 まずは2階の自室で、ルナと一緒に過ごす。改めて見るが、〈フォレスト〉にいた、瑠奈さんに良く似ている。艶のある黒髪で、ふわりとしたボブカット。琥珀色の瞳も同じだし、性格が大人しそうなところも同様だ。

 違いは、人ではなく猫人族で、可愛い猫耳と尻尾があるところと、年齢が幼いってところだろう。俺も年齢が下がっているから、相対的な差は変わって無さそうだが。

 借金の理由等の個人的な事情は、会ったばかりで聞くには早いかと思う。当たり障りのない、無難な話をする。まずは年齢を聞いてみると、12歳でステラ、シムと同じだった。他の子達を呼び捨てなのに、同じ年頃のルナだけを敬称づけで呼ぶのも変なので、呼び捨てにさせてもらう事になった。

 ルナの方から話を聞き終わると、今度はここの同居人たちの説明をする。いきなり全員と会うのも大変だし、元気になってから顔合せという事にして、同年代がたくさんいる事だけ伝えておく。気にせず気軽に暮らしてくれれば良いと説明し、その後、預かってきた荷物を渡した。【格納庫ガレージ】の魔法を知らなかったらしく、非常に驚いていた。

 話が一通り済むと、そのまま布団の中でゆっくりさせる。俺は何をしようか迷ったが、日中なら少しくらい作業しても構わないだろうと、シエナに頼まれた髪留めを作る事にした。

「何を作っているのですか?」

「髪留めが欲しいと言われてね。素人だから、そんな凝った物は作れないけどね」

 そう言って、作業中の物を見せる。ステラの時は、髪を分けていたので、小さ目なのを2つ作った。シエナは1つにまとめるようなので、大きめに作っている。昨日の朝、結んであげたので、必要な大きさは大体わかっている。作るのは1つだし、大事なリボンを使わせてしまったお礼でもあるので、少しだけ装飾を施す。

 ウェーブリボンの要領で、左右に均等な輪を作るよう折りたたむ。革は厚めで固いから、リボンの様に複雑にはできないが、単純な物なら可能だ。飾りができたので、本体に合わせて完成。

「こんなところだろう」

 ルナが珍しそうに見ている。こちらの世界には、ラッピングなんてなさそうだしな。こういう形は、あまり見かけないのかもしれない。

 できあがった髪留めを【格納庫】にしまう。シエナは今日帰ってくると、次の勤務は明後日だったはず。髪を結ぶときにでも渡そうと思った。

 その後は、様子見に来たステラとソニアを交えて、4人でまったり過ごした。


 シエナとソールが帰宅すると、入れ替わるように出かける。

 まずは、魔石を渡すためにギルドへ。

「今日は、狩りに行かないのね」

 ディアナさんが、魔石を受け取りながら聞いてくる。中途半端な昼の時間、こんな時間にギルドに来れば、さすがに気づくか。

「色々と用事が重なって、忙しくて」

 特に説明はしないでおく。そのうち知る事になるとは思うけど、無理に話さなくてもいいだろう。それよりも、昨日と今日のシエナ達の様子を聞く。2人とも問題なく働いているとの返事をもらう。

「理解力も高いし、真面目ね。まだ2日だけど、評判も上々よ。素直な子達で助かるわ、誰かさんと違ってね」

 にっこり笑って言ってくる。

「そりゃそうですよ。ディアナさんの怖さは、有る事無い事吹き込んでおきましたから。多分、何でも言う事聞きますよ」

 嫌味に対して、こちらも反撃をする。

「何をしゃべったの!?っていうか、嘘は駄目でしょ」

 すごく慌てている。隣のお姉さんは、こちらの意図に気付いたようで笑っている。

「冗談ですよ。このくらいで騙されないで下さい」

「…」

 無言で睨んでくるディアナさん。その視線を受け流して、隣のお姉さんへ話しかける。

「誰かさんは素直じゃないらしいですから、本気で相手しちゃ駄目ですよね」

「そうね。自分で言っておいて、こうもあっさり騙されるようでは、まだまだね」

 俺の言葉に同意してくる。

「ところで、ゴブリンの方はどんな感じだった?」

 しゃべらないディアナさんの代わりに、お姉さんが俺の相手になる。

「昨日は大変でしたよ…」

 数が多くて、囲まれないよう、逃げ回りながら戦った事を伝える。

「そこまで、増えてるのね。そろそろ、武器の扱いが巧い個体が出て来るかもしれない。気を付けた方がいいかも」

「Eランクのゴブリンソルジャーですか?」

「そう。見た目はそんなに変わらないから、ゴブリンと勘違いして、攻撃を見誤るの」

「わかりました。気を付けます。なんか、原因究明どころじゃないですね」

「そうね。無茶はしないように」

 注意事項の確認をしてから、ギルドを後にした。


「いらっしゃいませ」

〈ドーン武具店〉に着くと、スパイクが出迎えてくれた。

「真面目に働いてるか?」

「はい」

 スパイクは、俺と同じくらい身長があるので、4つ年下には見えない。何も知らずに傍から見ると、年上面している俺は奇妙に見える事だろう。

「取りに来たわね」

 ドナさんが、カウンター上での作業を止める。どうやら、耳飾イヤリング作成中のようだ。

「それは、2日後の物ですよね」

「そうね。今日の分はもう出来ているから」

「それ、見ても構わないですか?」

 耳飾の状態が気になり聞く。

「良いわよ。まだ完成には時間かかるけどね」

 カウンターの上を覗く。部品ごとに、大まかな形は整っているようだ。残りは、細かい仕上げと組み立てといったところだろう。

 机の隅に、皿に載った黄色い羊羹の様な物を見つける。

「それは、ワックスですか?」

 作業にでも使うのだろうか。

「見た目どおり食べ物よ。疲れ目に良いおやつ。細かい作業で、目がチカチカするからね」

 深読みしすぎたようだ。よく見れば、カウンター脇にカップも置いてあるか。

「食べてみる?」

 ドナさんが聞いてくる。口に、いたずらっぽい笑みを浮かべながら。

「良いんですか?」

 その笑みに多少嫌な予感もするが、好奇心の方が強かった。ドナさんが、小さく切り分け差し出してくる。

「感触はゼリーに近い…!%×●?#▽…ッ、コホッ」

 口に含んだ感想は、途中で中断される。咳き込み、涙が出て来た。鼻の付け根を摘まんで、その刺激に耐える。あまりの酸っぱさに、声が出せなかった。レモンの数十倍の効果があるだろう。

 そんな俺を見て、笑いながらドナさんがカップを出してくる。

 受け取り中身を一気に飲み干す。お茶のような感じに見えたが、味は良くわからなかった。しばらく目をつぶって耐えた後、ドナさんに視線を向ける。

「強烈ですね。目に良いというよりは、覚めるってところですか?」

「普通の人はそうらしいわ。私はこの味が好きだし、平気だけどね。疲れ目に良いというのは、本当らしいわよ」

「これが平気って…ドワーフ特有の何かですか?」

「親方は食べれないわね」

 種族でも遺伝でもないという事か。これが平気とは、どんな味覚なのだろう。ドナさんの料理を食べる機会があったら、気を付けることにしよう。

 そんな失礼な事を考えられているとは露知らず、ドナさんはお茶を追加してくれる。今度は、落ち着いて飲める。先ほどとは違い、淹れたてで熱いので、ゆっくり飲む。

「これって…」

「ほうじ茶よ」

 この世界に、和系のお茶があったとは。喫茶店で飲むハーブティーやコーヒーもいいけれど、自分で淹れるなら手軽にほうじ茶だよな。色々と聞いてみれば、こちらの世界では主流ではないそうだ。ただ安価で、手に入れるのも容易いらしい。

「もしかして興味ある?」

「はい」

「それなら、いい話があるわよ」

「何ですか」

「今、輸送業がうまくいってないらしくてね」

「輸送業ですか?」

 輸送業とお茶の関係って何だろうか?ドナさんが説明してくれる。

 最近、あちこちで魔物の増加が噂になって、危険度の上昇から輸送業者が尻込みしているそうだ。護衛をする冒険者が、ウルフ討伐で減ってしまったのも一因らしい。エクレストンは、様々な作物の一大生産地。優先順位の高い物が輸送されているため、ほうじ茶の様な物は輸送されず、在庫が増えて倉庫を圧迫、値下がりしているそうだ。

「【格納庫】は重量で、消費MPが変わるのよね」

「そうですが」

「お茶のようにかさばる物でも、スペース関係ないから保管しやすいでしょ」

 なるほど。鉄10kgとお茶10kgでは、体積が全然違うからな。

「それに、時間停止してるから腐らないですね」

「そう。だから買うなら、今のうちにまとめ買いが良いかもね」

 確かに、自分にとっては都合が良い。お店の場所をドナさんに確認。

「早速行ってきます」

「ストップ、ストップ!」

 買いに行くため、席を立つ俺を呼び止める。

「今日、何しに来たの?」

「スパイクの様子を見に…いや、腕輪ブレスレットの受け取りでしたね」

 大事な用事を忘れた俺に、ドナさんは呆れ顔だった。

補足 ゴブリンの魔石売りに関して

割増し対象から外れてしまう事については、少し前になりますが、2章『冒険者ギルド』の話に書いてあります。念のため。

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