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会話

 今は、夜中の1時で、ここは俺の部屋。俺の目の前で、ルナさんが眠っている。薬が効いたのか、いくらか穏やかな表情に変わっている。


 借金の立て替え後、ガルトさんの案内で、ルナさんを医者に診てもらった。意識が朦朧としたままなので心配だったが、ただの風邪と判明する。多少高熱なので、そこだけ注意すれば大丈夫だろうと、薬をもらう。

 ガルトさんとは、そこで別れるつもりだったが、最後まで送ろうと言われてしまった。ルナさんを背負っていると両手が使えない。何かあると面倒なので、その言葉に甘えることにした。ただ、家まで来るとなると、我が家について少し状況を説明しておかねばなるまい。歩きながら簡単に話しをしておいた。話を聞いて、実際にステラ達を見たガルトさんは驚いていた。

 本来なら、お礼に家で食事でも…となるだろう。しかし我が家は、もてなしをできる状態ではない。今度、改めてお礼でもと思い、今日のところは帰ってもらった。病人もいた事だし、ガルトさんも家に上がるつもりは無かったようで、そのまま帰っていった。

 その後は、家の事をシエナにまかせて、ルナさんはステラと2人で世話をした。


 この部屋には、様子を見守る俺の他に、何かあった時の為に、ステラも待機している。ただ、2人とも起きている必要はないので、彼女は普通に寝ているが。

 俺自身も見守ってるとはいえ、安静に寝ている状態だとやる事がない。病気とはいえこのくらいなら、寝てしまっても大丈夫だろう。けれど、いつでも状況説明ができるよう、念のため起きている。目が覚めたら、知らない場所で、知らない男性が同じ部屋で寝ている。こんな状況が起こったら、普通はパニックになるだろうから。

 夜間警備の時は、髪留めを作って暇つぶしもできたが、そばで人が寝ている状況では、さすがにそれもできない。しょうがないので、ステラ達の仕事内容や収入の確認でもして、今後の事を考えることにする。

〈ブラウン〉で働くステラ。週4回勤務で10時から17時までが勤務時間だ。休憩もあるから実働6時間ってところで、1日75Gもらう事になっている。時給換算すれば12.5Gか。1ヶ月で20日勤務するから、1,500Gの収入になる。皿洗いが中心だが、ウェイトレスとして働けるようになれば、給料を上げてくれると言っていたっけ。料理も覚えてもらえると、うれしいところだ。稼ぐお金、手に付く技能ともに申し分ない、実にベストな職場だ。

 次に、ギルドで働くのはシエナとソール。週3回勤務で、8時半から12時半の4時間勤務。2人合わせて、1日80Gだから1人当たりの時給は10G。1ヶ月15日勤務で1,200Gになる。仕事の内容は、朝の掃除と始業の準備。その後は、細かい雑用をするらしい。シエナはしっかりしているから、特に問題なくやっていけるだろう。午後の時間が空いているのも、家事を仕切るシエナ向きといえる。

〈ドーン武具店〉で働くスパイクとセス。初日は2人で行ったが、今後は1人ずつ交代で働く。10時から16時、休憩を引けば5時間程度で、週5回の勤務。1日55Gで、時給換算すれば11G。1ヶ月で25日勤務するから1,375Gになる。力仕事が中心と言っていた。あそこの店の2人、力はあるのだがが、ドワーフだけに小柄だ。体格のいい2人なら、高いところにも手が届くし、色々都合が良いだろう。店番をするとなると、金勘定が必要だが、あの2人どこまでできるのだろうか。まぁ、そこらへんはドナさんに任せておこう。

 最後は〈素材屋〉で、セルマとソニア。2日に1回程度で、1人ずつお手伝い。9時から15時で、休憩入れれば5時間程度。1日50Gだから時給は10Gか。1ヶ月で15日、750Gの稼ぎになる。収入は少なめだけど、元々2人はすぐに働けると思ってなかった。収入ができて、勉強にもなるしうれしい誤算だ。

 7人分、いや実際は5人分ってところか。スパイクとセス、セルマとソニアは交代で勤務だからな。まぁ、半分に仕事を与えるという目標は、達成したといえるだろう。

 合計で1ヶ月、4,825Gか。今の食事を維持すると、昨日の計算では、ステラ達9人で1ヶ月で約7,000Gだったから、まだ足りない。やはり、サイラスとシムにも見つけないといけないか。


 そんな感じで、1時間ほど考えていると、ルナさんが唐突に目を覚ました。

「…ここは?」

 ゆっくりと、起き上がってくる。

 俺は、灯魔石を弱めに使い、少しだけ周囲を明るくする。

「気が付いたようだね。ここは俺の家だから、安心して良いよ」

 何から話すべきか迷う。様子を見ながら少しずつしていくのが良いだろうか。

「とりあえず、俺の名前は、ケンヤ」

「その…ルナです。私はどうしてここに?」

 名乗るのに、少し間があった。躊躇ったようだ。状況がわからないし、不安になるのもしょうがないだろう。

「路地裏で倒れたのを助けて、連れてきたってところかな」

「倒れて……!私、帰らなきゃ!」

 倒れる前の記憶が戻ったようだ。あわてて立ち上がろうとするので、肩に手を置き抑える。

「静かに。夜中で、皆寝ているから」

 下手に説明するより、寝静まっている状況を伝えた方が効果あるだろう。

 案の定、すぐに静かにしてくれる。

「ごめんなさい。でも…」

「順に説明をするから。とりあえず、座長さんとも話はついているから急ぐことは無い」

「座長とですか?」

「あぁ。それより、喉渇いていない?」

「そういえば、少し」

「水しかないけど」

 そう言って、コップに水を入れて渡す。

「ありがとうございます」

 ゆっくりと、飲み干していく。

「とりあえず、まだ熱があるから、布団で寝てくれるかな。その状態でも、話はできるから」

「はい」

 素直に従って、布団に横になってくれた。

 毛布をかけ直すと、昨日起こった事について、順を追って1つ1つ話していく。路地裏で倒れていた事から、病院にいった事まで。事実であることを示すために、返金の終わった借用書も見せた。

「成行きとはいえ、勝手に色々と判断して悪かった。ただ、病気で気を失っている人を蹴る、そんな奴の所にいるよりは良いかと思ってね」

「助けてくれて、ありがとうございます」

 起き上がりそうな気配があったので、軽く肩に手を当て首を振る。

「そうすると、これから私は、ケンヤさんにお金を返せばいいんですね」

「正直、何も考えてなかったんだよね。借金の方は、俺が勝手にしたことだし」

 そう言って、借用書を破る。ちょっとやる事が大げさだが、借金については気にしないでいいと示してみせる。

「何を!?」

 目の前で、借用書が裂かれるのを見て驚いている。

「とりあえず、病気が快復するまでは、大人しく布団で寝ている事。考えるのは、元気になってからという事で」

「でも」

「病人は寝るのが仕事。寝て、さっさと病気を治す」

「…はい」

 大人しく瞼を閉じる。さほど経たないうちに寝息が聞こえてきた。

『これなら、俺も寝て構わないだろう』

 説明も終わって、状態もある程度安定している。何かするとしても、朝になってからだろう。

 少しだけルナさんから離れると、床に直接寝転がる。俺の布団はルナさんが使っている。【格納庫ガレージ】から使えそうな物を探していると、声をかけられた。

「床だと冷たくないですか?」

 顔を上げると、ステラがこちらを見ていた。

「悪い。少しうるさかったか?」

「いえ、眠りが浅かっただけです」

 そう言うと、起き上がりこちらに来た。俺も、もう一度床に座りなおす。

 隣に腰掛けながら、聞いてくる。

「体調、どんな感じでしたか?」

「薬が効いたのか、少し良くなってたみたい」

「良かった」

「後は、元気になってからだね」

「はい」

 皆と同じくらいの年齢に見える。仲良くやっていけるといいのだが。

(くちゅん)

 布団から出てきたから、少し寒いのだろう。

「明日も色々やることあるし、布団に入って早く寝た方が良いね」

「ケンヤさんはどうするんですか?」

「もう起きてなくても良さそうだから、適当に寝るよ」

「その、床は冷たいから…」

 袖を引っ張ってくる。言いたいことは何となくわかるが。

「さすがに、2人で寝るには狭いと思うよ」

「仰向けは無理でも、背中合わせに横に…」

 声が尻すぼみになっている。かなり、恥ずかしいのだろう。

「そうだね。それならなんとかなるか」

 無理に言わせているようで可哀そうだし、俺も冷たい床では寝たくない。さっさと決断して、好意に甘える事にする。

 立ち上がると手を掴んで、しゃがんでいるステラを引きあげる。

 そのまま布団まで歩み、2人で布団の上に転がる。

『屋外用の毛布は、あまり清潔じゃないよな』

 一瞬迷ったが、一緒の毛布にくるまる事にする。

「おやすみ」

「おやすみなさい」

 合わせた背中に、温もりを感じながら、ゆっくりと瞼を閉じた。

本日(2016.3.19)タイトルに副題を加えました。

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