お風呂
2016.3.22
シエナの名前訂正
『広いな』
風呂場を眺めながら思う。さすが元転生者の家、風呂に手抜きは無い。脱衣所、洗い場、湯船、すべてがゆったりサイズだ。湯船だけで畳2畳分はあるだろう。1人で入るには無駄に広いといっていい。温泉が引かれているので、気にすることなく使い放題だが、日本で水道代とか考えたら、すごいことになるんじゃないか?
とりあえず、食事は贅沢できなくても、風呂は何も気にする必要が無いのがうれしい。のんびりと入ることにしよう。
まずは、頭からお湯をかぶり、髪を洗う事にする。この世界には、シャンプーやトリートメントのような物は無い。基本、全て石鹸になる。ただ、質が良いので普通に使う分には、髪が傷むことは無いそうだ。
丁寧に洗って、頭からお湯をかぶっていた時だった。
「失礼します」
「!!」
タイミング悪く、視界が見えない状態で、誰かが入ってきた。水音でよく聞こえなかったが、高めの声だったと思う。
「誰?」
「背中流しに来ました」
思わず振り向いてしまう俺の前に居たのは、セルマとソニアの2人。
セルマは平然としているが、ソニアはその後ろに隠れている。はずかしいならなぜ入ってきたと、突っ込みを入れたくなるのを抑える。1人で来られていたら、余計にまずかっただろう。
それとも、こちらの世界では混浴は当たり前なのだろうか?いや。共同浴場は男女別だったよな。仲間内は別なのか?昨日は男女混合で入っていたのだろうか?
「昨日はどんな順番で風呂を使ったの?」
念のために聞いてみれば、2人ずつで順番入ったとの事。シエナとソールは兄弟で、後は男女別だったようだ。
「このままバラバラに入ると時間かかるから、一緒に入ろうと思った」
セルマはあっけらかんとして言う。この子らは10歳と11歳。小学校高学年なら、異性の親と一緒に入る子もいるって、ネットで見た事あったな。親子じゃないが、そういう事にしておこう。もう入ってきていることだし。
「わかった」
「それじゃ、背中流すね」
そのまま、2人に任せる。丁寧に背中をこすってくるのが気持ちいい。ただし、前は自分で洗うので断った。
洗い終わり、湯船に向かう。
「背中流してくれないの?」
どこまでも無邪気なセルマ。
「2人で洗いっこしたら?」
「うん」
セルマが何か言う前に、ソニアが返事をしてくれた。
浴槽を覗くと、お湯は無色透明で、底まで見える。効能は忘れたが、そこまで高くないと、アリシアさんが言っていたっけ。それでも、毎日入れることを考えれば、そこそこで十分。
「ふぅー」
心地よさに、思わずもれるため息。わずかにぬるいと思うくらいの温度で、これは長風呂になりそうだ。
湯船につかりながら、楽しそうにしている2人を眺める。未発達の体というか、今までの食生活が影響しているのだろう。痩せているし小柄で、年齢以上に子供に見える。
『これからは、もう少し楽な生活ができるようにしてあげたいな』
そんな風に思い、あながち親子という感覚も間違っていないように感じてきた。
体を洗って、2人も湯船に入ってくる。俺はもともと長風呂派なので、そのまま入ったままだ。2人を両脇に並べ話をしているのだが、近くで色々とお互い丸見えになっている。親子だなんてさっき思ったからだろう。全然気にならなくなっていた。若干、ソニアが恥ずかしそうにしているのが可愛かった。
俺が湯船から出ると2人もついて来て、結局3人同時に上がって、風呂場を後にする。
「上がったよ」
セルマが共有部屋に入っていく。その後ろに続いて、俺とソニア。部屋にいる人達から、様々な意味合いの視線がこちらに注ぐ。無頓着なセルマはいいとして、ソニアにはちょっときついかな。
「ソニア、髪拭くからこっちにおいで」
木箱に座って呼ぶ。そのまま、足の間に座らせると、髪の毛を丁寧に拭く。
「スパイク、セス、ソール。お風呂入ってきて」
シエナが声をかける。やはり、家の中では、シエナが長のようだ。3人がいなくなると、シエナとステラが寄ってくる。
「気づいた時には、2人が風呂場に入ってきてたので、追い返すわけにもいかなくてね」
「すいません。目を放した私が悪かったと思います」
先に、こちらから口を開くと、シエナが答えてきた。
「入りに行くと思ってた?」
俺の問いに、首を横にふる。
「まぁ、普通は思わないよな。俺も無警戒だったし。シエナが気にする事じゃない。ついでにセルマも、俺が単独で入るより一緒に入った方が、時間短縮できると思っただけみたいだし。ソニアは巻き込まれただけだろうな」
全然気にしていないと、笑って言う。
「今後についてですが…」
「シエナの判断に従うよ。とりあえず俺の見解としては、どちらでも良いと思っている」
「どちらでも?」
「シエナやステラは、今の感じから思うに、そういう事に対して意識してるよね」
2人は頷く。
「だから2人は一緒に入らない方が良いと思う。けど、セルマはそういう意識は無いみたい。多分家族と一緒に入るっていうのかな。俺から見れば、親子で入ってるような気にさせられたよ。だから、そう思えるうちは、問題ないかなって感じた」
「親子ですか?」
「そうだね。ソニアは、どう感じているのだろう。判断に迷うところだな。俺とセルマが2人の状況は、さすがに良くないと思うから、ソニアが嫌なら辞めた方がいいだろうね」
考え込むシエナ。
「セルマ、お風呂どうだった?」
「話しながらで、楽しかったよ」
「ソニアは?」
シエナの問いに、なぜかこちらを向く。
「思った事を言えばいいんだよ?」
俺が言うと、シエナの方を向いて話す。
「また入りたい」
小さいけど、はっきりと聞こえた。
「…わかりました。このままでいきましょう」
「シエナ!」
ステラが驚いている。
「駄目って言おうと思っていたけど、親子って言われたら…」
「それは、そうだけど…」
そういえば、子供だけで暮らしてたんだっけ。
「それに、ソニアがこんなに早く懐いているのを見ると…」
「…」
「…」
そのまま、黙り込み考え始める2人。
結局、今日と同じ組み合わせで、今後も風呂を使うことになり、3、3、2、2の4回に分けて入ることになった。
今後のお風呂の使用についての話がまとまると、思い思いの時間をすごす。俺のそばにはセルマとソニア。ステラは少しむくれて向こう座り、シエナは俺の服を直してくれている。
器用と言われるだけの事はあり、手際がとてもいい。もしかして、ソールもこんな感じなのだろうか。裁縫しているソールを思い浮かべ、その微笑ましい光景に思わず頬がゆるむ。
「どうかしましたか?」
手を止めて、シエナがこちらを向いてくる。
「手際がいいなと思って」
「ソールの服を良く直していましたから」
そうなると、ソールはしないのか。先ほど思い浮かべた光景が、うっすらと消えていく。
俺の見ている前で、あっという間に補修は完了した。
「できました」
手渡される服を見る。補修で布を当てたというよりは、当てた布自体が服の一部として仕上がっている。穴に対して、大きめに布を使い、見た目を考慮したようだ。
「デザインに配慮してくれたんだね。縫い目も綺麗だし。ありがとう」
「はい」
「そういえば、この布はどこから?」
「服の繕いはよくするので、端切れは持っています。あっ、端切れと言っても、ちゃんとした綺麗な布です」
あわてて付け加えてくる。確かに、端切れにしては質が良い。
「戦闘で痛む事が多いから、そこまで気を使わなくても平気だよ」
「はい。でも、どうせ直すなら綺麗にしたいですから」
そんな会話をしていると、シエナとステラのお風呂の時間になり、2人が部屋から居なくなった。
『これ、本当に端切れなのか?』
質もそうなのだが、少しあわてていたのが、何か気になる。
「ソール」
近くにいたので声をかける。
「この布、見た事ないか?」
服を見せながら、確認をする。いつも身近にいる、弟のソールに聞くのが良いだろう。
「姉ちゃんのリボンに色が似ている」
「それって、大事にしていたとか?」
ソールは頷く。
「そっか。俺が聞いたことは、シエナに内緒な」
そんなに気を使わなくてもいいのに。皆がいない時に、一度話をした方がいいだろう。
皆が風呂から上がり、そろそろ寝ようという段階。座った俺に寄り添う形で、すでに寝ている子が2人。いや、1人だな。
「セルマ、お前起きてるだろう」
狸寝入りを見破って声をかけると、パチッと目を開けるセルマ。
「ばれちゃった」
「瞼が動いてたぞ。それに、何かおとなしすぎた」
「普通、寝てたら動かないよ?」
「イメージ的に、大口開いてそう」
「そんなことないもん」
口をとがらせる。冗談だよと宥めてから、左側で完全に寝ているソニアを見る。
「起こすのも可哀そうだし、このまま運ぶか」
抱きかかえると、2階へ運ぶ。【浮遊】で静かに運んであげようかとも思ったが、そんなことしたら、絶対セルマにもせがまれるだろう。考えるだけで、実行するのは止めておいた。
シエナが先に布団を敷いておいてくれたので、そのまま静かに寝かせた…のだが、そのまま抱えて起き上がる。
「ケンヤさん?」
「服の胸元を握られてる…」
最近、似たような事あったな。ステラに視線を向けると、目をそらされた。
シエナが指を外そうと試みてるが、小さな手だけに加減が難しいようだ。
「このままで良いんじゃないの」
セルマの一言に、シエナがため息を吐く。
「もう、今日はそうしましょう」
「諦めるの早いね」
意外な言葉に、思わず聞き返す。
「お風呂にまで入って、今さらだと思います」
「…確かに」
頷かざるを得なかった。俺の部屋に連れて行くか、ここにするかと少し話したが、結局このままここで寝ることになった。
ソニアが左胸に頭をのせ、その向こうにシエナが。右はセルマで、その隣にステラ。
「「おやすみ」」
「「おやすみなさい」」
とくに、何かしゃべることもなく、そのまま静かに眠りに入る。
『こんな風に囲まれて寝るのも悪くないな』
そんな事を考えながら、俺も眠りにつくのだった。
数行で終わるお風呂のはずが、興味本位で乱入させてみたら、半話に膨れ上がってしまいました…




