同居生活
2016.3.22
シエナの名前訂正
「ただいま」
「「「おかえりなさい」」」
家のあちこちから返事が返ってくる。何か、家に帰ってきたって感じで良いなぁ。今まで宿や〈ブラウン〉では、『戻りました』だったからな。
玄関で迎えてくれたのは、元気なセルマと、その背後に半分隠れているソニア。それと、木箱に座った〈素材屋〉のおばあさんだった。
「お邪魔してるよ」
「はい」
子供達だけだから、面倒でも見てくれていたのだろうか?それとも、何か用事があるのだろうか?疑問は、俺が問いかける前に、おばあさんの口から直接話される。
「この子ら2人、時々うちの手伝いに貸してくれるかい?」
「セルマとソニアですか?」
「そうじゃ」
話を聞いて見ると、〈素材屋〉の扱う物は雑多で数が多い。片付けや整理に、何かと手がかかるらしい。それで、ここに居る子達に色々な物を見せて、その反応を試したらしい。その結果、セルマは直感が鋭く、ソニアは覚えが良く目利きもそれなり。手伝いに使えそうと判断したとの事。
「何か急用があっても、ここならすぐ呼び出せ便利じゃし。そっちも、多少の稼ぎは欲しいだろう」
「それはもう、願ってもない話です」
この2人は、あまり知らないとこに出すには不安だった。まだ小さいし、当面家事専門にしようと思っていたのだが、〈素材屋〉なら安心してお願いできる。
「2人はそれでいい?」
「うん」
セルマが返事をして、ソニアは頷いている。2人の意思を確認したところで、俺は近くに置いてあった木箱を持ってきた。おばあさんの前に座って、軽く打ち合わせをするためだ。
すると、セルマは木箱に膝立ちし、俺に後ろからのしかかってくる。早く懐いてくれるのはうれしいが、それにしても全く物怖じしない子だ。残されたソニアは、おろおろ迷っている。
「ここっ」
セルマが、ソニアに指示を出したのは、俺の膝の上だった。物怖じしないというより、遠慮という物を知らないみたいだ。指示されたソニアは、困った顔をしている。
どうしようか迷ったが、ソニアは大人しくてセルマと逆の性格。多少強引でも、こちらから近づいてあげた方が良いだろう。今回は、セルマの案に乗ることにする。
「おいで」
膝を叩いて呼ぶ。遠慮がちに、寄りかかるように浅く座るソニアを、引き寄せ深く座らせる。どんな表情をしているかはわからないが、徐々に慣れさせればいいだろう。
「仕事内容についてですが…」
おばあさんと、手伝いの内容や条件について話を始めた。
おばあさんが帰って周りを見ると、いつのまにかステラ、シエナ、ソールが集まっていた。俺は木箱に座ったまま、話し始める。
「どこから聞いていたかは知らないけど、とりあえずセルマとソニアは、向かいの〈素材屋〉さんで働くことが決まった」
3人は頷く。
「ソールは、シエナとギルドへ行くことは聞いているか?」
「うん」
「そうか。2人でなら心配ないと思うから、これから頑張ってくれ」
「わかった」
後は、何か伝えることあったかなと考えていると、ステラの機嫌が少し悪そうなのに気づき、視線を向ける。
「いつまで、そのまま座ってるんですか?」
気づくと、ソニアを軽く抱え込んでいた。
「もしかして嫌だった?」
ソニアに聞くと、体を横に傾けこちらを向き、ゆっくり首を振る。いきなり膝上の荒療治が効いたのか、もう普通にできるようだ。
そのままの体勢で、頭を軽く撫でながら、会話を再開する。
「何か聞いておくような事はあった?」
「掃除と片付けは、だいたい終わりました。後は…」
シエナが代表して話してくれる。あった方が良い物や、無くてもいいがあると便利な物など。一通り聞いた後にお金を渡して、自分達の判断で購入させることにした。決して、面倒で丸投げにしたわけではない。
「そういえば、ご飯の準備は?」
試しに取ってきた食材もあるので聞いて見る。
「これから作ります」
シエナを中心に、ここに居るメンバーで作るらしい。
「これって使えると思う?」
セルマとソニアにどいてもらうと、さやえんどうやジャガイモを取り出す。【鑑定】は便利で、腐ってるものや毒物はある程度わかるので、味以外は問題ないはず。
「なんか大きさが変ですね」
「街の外に自生していた物だからね。使えそう?」
「平気だと思います」
シエナはそう答えると、年下3人に台所へ持っていくよう指示した。
「ところで、それはどうしたんですか?」
シエナの指先が、俺の左腕を指している。よく見ると、服に穴が開いていた。どうやら蟻酸がかかっていたらしい。そういえば、蟻酸が飛んできたとき、後方で溶ける音がした割に、匂いをすぐに感じていたな。あれは、俺の服が溶けていたのか。
「戦闘で、少し溶けたようだな」
「食事の後に貸してください。直しますので」
シエナはそう言うと、台所へと向かった。
「ステラは料理しないの?」
「危ないことしているんですか?」
この場に残っているので聞くと、心配そうな顔で聞いてくる。
「冒険者って、魔物と戦うのが基本だからね。このくらいは普通だよ」
「だけど」
「まぁ、俺が未熟なのもあるけど、大丈夫。危険なことにならないよう、対策はしているから」
そう言って、頭を撫でる。
「本当に?」
「痛いのは嫌いだしね」
考えてみたら、大怪我らしきものは一度も負った事ないかなら。もしそうなったら、戦闘続行できるのだろうか。やっぱり、パーティーは組んだ方が良いのかな。
「あの…」
考え込んでいたため、必要以上に頭を撫でまわしていたようだ。
「あ、ごめん」
あわてて手を放す。
「料理してきます」
少しうれしそうに、台所へと行ってしまった。
『最初の不機嫌そうなのは何だったんだろう?』
機嫌が直ったなら問題ないかと、そのまま男子部屋へと向かった。
4人全員揃っていたので、さっきのように必要な事などを聞こうと思ったのだが、
「シエナから話は聞きましたか?」
サイラムから、そんな言葉が返ってきた。
「さっき、玄関で聞いたけど」
「なら、大丈夫です」
何が大丈夫なんだろうと思って聞いてみると、室内でのことに関しては、シエナが仕切っているそうだ。それは、ここに来る前からだったそうで、4人とも任せているそうだ。
「シエナって、家事が得意なのか?」
「それもありますが…」
どうも歯切れが悪い。少しずつ聞いてみると、どうやら怒ると怖いらしい。ただ、よくよく聞いてみると、男女で同じ部屋にいたので、そこら辺を円滑に暮らしていくためのようだ。身だしなみとか、掃除の事とかの感覚の違いや、着替えの時の事とか、女性陣の年上として、色々気を配っていただけなのだろう。
「とりあえず、この部屋に関しては自由に使っていい。ただ、あまり汚くしたり、散らかしたりはするなよ。その場合は、シエナに介入してもらう事になるからな」
俺の言葉に、前半はうれしそうな顔をしたが、シエナの名前が出ると、あわてて頷いていた。
ご飯まで、まだ時間がありそうなので、もう1つ話をしておくことにする。
「スパイクとセス。2人には、明日から働いてもらう事になる」
2人に向けて言うと、いきなりの事に驚いている。
「力仕事になるだろうから、2人が適任と思ってな。俺がお世話になっている武器屋さんだから、ちゃんとしていて心配はいらない。お願いして良いか?」
「「はい」」
「良い返事だ。明日2人とも連れて行くから。その後は、多分交代で行ってもらう事になる。向こうの言う事を聞いて、頑張ってくれ」
そう言ってから、〈ドーン武具店〉の事や、ドーンさん、ドナさんの事を話す。2人とも、新しい事が出来そうなので興味津々だ。
「普通にいけば、年齢的にサイラスとシムに仕事をまわすところなんだけどな」
「力仕事なら、2人の方が良いと思います」
シムが冷静に答えてくる。
「また、探してくるから、慌てず待っててくれ。もちろん、自分でやりたい事とかあったら、挑戦してみてくれてもいいし」
俺の言葉に、戸惑った表情を見せる。スラムにいて、街中の事はあまり知らないから、仕事なんて言われても、何ができるか思い浮かばないのだろう。
「どんな仕事が良いなんてわからないだろうから、焦る必要はない。当面は、家でやれる事もあるからな」
2人に、皮剥ぎやその他の雑用をまかせればいいだろう。
その後は、サイラス達の得意な事を聞いたり、ここに居ないステラ達のことを聞いてみたりと、雑談を中心にして時間をつぶして、ご飯までの時間を過ごした。
『やっぱり、こうなるよな』
連日〈ブラウン〉の手の込んだ料理を食べ続けて、すっかり舌が肥えてしまい、それが当たり前のようになっていた。
茹でたジャガイモ、数種の野菜と肉を炒めたもの。味付けは薄めで、おそらく塩のみだろう。飲み物は水、かなり素朴な食事風景だ。これでも、ステラ達にとっては贅沢な食事であろう。美味しそうに食べている。
『金はあるけど、無駄に贅沢を覚えさせるのも良くない。彼らの稼ぎに合った食事にしないといけないしな』
当面は、この食事に付き合うのも良いだろう。ただ、多少の調味料は購入した方が良さそうだ。
この世界の食材、野菜は匂いが強めで、繊維があるのか少し固い。肉も少し臭みがある。多分、品種改良などが進んでいないのだろう。自然に近いままの食材のようだ。素朴な料理のおかげで、気づくことができた。
『日本産の野菜が【格納庫】にあったよな』
余裕が出てきたら、栽培してみるのも面白そうだ。上手くすれば売れるかもしれない。
『あとは、お茶が欲しい』
家で飲むならほうじ茶が落ち着くが、紅茶、ハーブティー何でもいい。できればノンカフェインが良いが、そんな概念この世界には無いだろうな。ただの水、これだけは避けたい。
そんな風に考えながら食べていると、シエナとステラがこちらに視線を向けている。
「お口に合いませんか?」
シエナが心配そうに聞いてくる。
「いや、これが普通なんだよね。〈ブラウン〉の食事を1週間食べてたから忘れていたよ」
苦笑しながら、ステラに言う。
「それは、わかります」
「これはこれで美味しいよ」
シエナに笑いかける。あまり色々話すと、言い訳っぽくなりそうだ。ここは、俺の感覚を理解してくれたステラに任せた方が、うまく落ち着くだろう。そのまま、食事を続けることにした。




