久々の魔物狩り
「これが、完成形なんですね」
「そうだ。この前確かめてもらった《銀苦無》に、《人魚鱗・藍》を、強化素材として加えた」
「名前は《銀苦無・月白》よ」
素材を加えた影響か、おとといと色味が少し変わっていた。前回より光沢が抑えられ、青味かかった銀というより白に近い色だった。光が薄れた分落ち着いた感じで、自分好みになっている。刃付けも施されて、その部分は他よりも輝いていた。
「感触を確かめてくれ」
ドーンさんに言われ、《指貫手袋》を手にはめると、縦に振りおろしたり、横に払ったり、突きを出したりと確かめていく。その後は《黒蜜》と合わせ、長さが1メートル程の《銀短槍》にして、バランスを確認しながら、色々と試していく。
「苦無としての使い方は、全然なっちゃいないな。誰かに、短刀の使い方でも手ほどき受けた方がいい」
「すいません。せっかく良い物作ってもらっても、使い手が未熟だと、宝の持ち腐れですよね」
「まぁ、短槍の方は良い線いっていると思うぞ。トレヴァーに教わっただけの事はあるな」
「そうですか?」
「確か、そっちがメインだったよな。そのくらい扱えるなら、問題ないだろう」
確かに、苦無としての使い方は予備ではあるが、それでもきちんと使えるに越したことはないだろう。このまま自己流を続けるのでなく、誰か探して教わらないとな。
「そういや、子供達を引きとって、家を買ったんだってな」
一通り確認が終わると、ドーンさんが話題を変えてきた。
「あ、はい。引き取ったというよりは、成行きで共同購入した感じです」
「共同購入って、そんなに金持ってないだろ、相手の方は」
ドーンさんは、遠慮なく言ってくる。
「そこは、自分の仕事の手伝いをさせましたから、それなりに稼がせました」
「まぁ、お前がそれでいいなら、構わないだろうが」
タイミング的に、ここで手伝いの話をした方が良いだろう。ドナさんでなく、経営者のドーンさんに直接すべきと思い話し始める。
「家は買えたんですが、子供の数が多くて。これからの生活費を、どう稼がせるかが問題です。このお店で、子供にもできる雑用はありませんか?」
「子供に出来る雑用か…基本的にうちは体力が必要だからな。子供に務まるかどうか」
「一応、牛人族と虎人族の男の子ならいますが」
「ほぅ。獣人族の中でも、体力的に高い奴らだな」
「多少痩せてはいますが、これから食べさせれば体力もつくでしょう」
「そうだな。雑用を増やす予定だったしいいだろう。ただ、1人で良いんだがな」
「交代で仕事に来させるのは駄目ですか?お互い同じ事をするとなると、多少の競争心が芽生えて、やる気につながると思います」
本音は競争心でなく、一旦仕事を覚えれば、他も探せるかもしれないという理由であるが。
「交代でか。確かにそれなら問題ないな。競争心というのも面白い。それでいいだろう」
「ありがとうございます」
「その2人、明日連れてこれるか?」
「はい。大丈夫です」
そのまま、簡単に条件を決めてもらう。
「それじゃ、俺は《銀腕輪》の調整に戻る。何かあればドナに言ってくれ」
「はい。ありがとうございました」
ドーンさんが奥に戻り、それまで黙っていたドナさんが話しかけてくる。
「とりあえず、良かったわね」
「はい。この前、雑用の件を教えてくれておかげで、話を切りだし易かったです。ありがとうございます」
「役に立てたなら良かったわ。元々、ケンヤの依頼があったから、設備投資ができたというのもあるしね」
「頼んでおいて何ですが、こんな簡単に決めて良かったんですか?ここの仕事なら、やってみたいと思う人いそうだと思いますが」
鍛冶志望の人とかいるんじゃないかと、今さらながら心配になる。
「親方は、そういう面倒なことは嫌いなのよね。それに、もし使い物にならないと思ったら、遠慮なくやめさせると思うわよ」
「そうですか。もしそうなったら、気にせずにして下さい」
「わかったわ」
「それと、色々と迷惑をかけると思いますが、よろしくお願いします」
俺はドナさんに頭を下げる。
「請け負った限りは、責任持つから安心して」
笑いながら、ドナさんは答えてくれた。
西門から、アール平原の旧穀倉地帯に進む。本来なら、南門からゴブリン狩りに行くところだが、今日は少し時間が遅い。それと、食材探しにはこちらの方が適している。ご飯代節約という理由もあって西にした。
魔物狩りに関しては、マンティスが複数だと危険度が高いので、【索敵】を使い単体行動している魔物に狙いを定めた。
音を立てずに、魔物へとこっそり近づいていくが、気配に敏感な魔物なのだろうか?気づかれてしまったようだ。こちらに向かって進んでくる。《銀短槍》を構えて、相手の出現に備える。
跳び出してきたのは、Eランクのエッジラビット。耳の先っぽが、刃になっている兎だ。この世界で初めて戦ったのは、獣の兎。魔物でこそなかったが、的が小さく攻撃が当てられなかった。嫌な気持ちが心をよぎる。
現れた時の勢いそのままにこちらへ走ってきて、鋭く尖った耳先で切り付けてくる。左に大きめにかわし、そのまま反転して、エッジラビットの向かった後方へ振り返る。的が小さいので、無理に攻撃して体勢を崩すことはさけた。
『以前より遅い?』
レベルが大分上がっている為か、以前と違い目も体も動きに追いつけそうだ。正確に振れるよう、《銀短槍》を短めに持ち直す。
(タンッ)
軽い音とともに、再び跳び出してくる。攻撃の特性上、正面からでなく、横を駆け抜けるように切り付けてくる。再び左に、ただし今度は相手の攻撃が届かない僅かな程度、そして少し前方へと避ける。そのまま右足を引き体を横に向かせ、脇を跳び抜けようとしたエッジラビットへ、《銀短槍》を振り下ろす。
(シュッ)
軽い音とともに、エッジラビットの体は2つに裂ける。そのまま黒い煙となって霧散した。
攻撃が簡単に決まった事もさることながら、
『斬れ味すごいな…』
何の抵抗もなく斬れたことに驚く。《黒蜜》本体の刃より斬れ味が劣ると言われていたけど、全然問題なかったようだ。
その後の戦闘でも、特に苦戦する事も無く、魔物を倒していった。
『やっぱりあったか』
旧穀倉地帯と呼ばれる地域。話を聞けば、穀物だけでなく、色々な物を育てていたという。もしかしたらと思っていたのだが、
『さやえんどう、か』
若干大ぶりに見えるが、【鑑定】スキルが教えてくれるので、間違いはないだろう。手入れされず、荒れ地になっているので、あまり状態が良いとは言えないが、食べるのには問題なさそうだ。【格納庫】に収納していく。
『ここら辺は、畑だったと考えれば、他にもまだあるかもな』
表に見えてるものだけとは限らない。適当に引っこ抜いたり、土を掘り返す。10分ほど繰り返していると、大小不揃いのジャガイモを発見。これも、収穫していく。
もう2、3探したかったが、魔物が近づいてくる。せっかくの畑を、戦いで荒らすのももったいないので、何もないただの荒れ地へとおびき出す。
現れたのはラージアント…いや頭が2つある奇形種、Dランクのツインアントだった。ラージアントよりもさらに1回り大きい。普通のアントと比べたら、1.5倍はある。
『Dならマンティス並みか。強さは問題ないと思うけど、見た目がいただけないなぁ』
大きな蟻というだけで、若干寒気がするのだが、それに頭が2つ。あまり長く見ていたい物じゃなかった。
『さっさと片付けますか』
体の殻は固そうだが、今の俺の武器なら問題ないだろう。アントは、戦闘時立ち上がって、顎での咬みつき攻撃をしてくる。頭が2つあっても、お互いが邪魔で一緒に攻撃するのは難しいだろう。そう考えて、前方から《銀短槍》を構えて近づく。
(ぐりんっ)
1つの頭が、不自然に上を向く。そしてガクガクっと小刻みに動いている。
『何かの溜めの動作か?』
もう1つの頭が、こちらを威嚇して、接近を拒む。よくわからないが、胸がざわつく。
「【俊足】」
溜めが終わる前に、さっさとけりをつけた方が良さそうだと思い、唱えると同時に跳び出そうとする。
同じタイミグで、上を向いていた蟻の頭がこちらへと向く。カッと開いた顎の間から、液体が飛び出してきた。
(ブシュッ)
ギリギリのタイミングでかわす。
(ジュッ)
後方で何かが溶けるような音と、嫌なにおいが漂ってくる。
『蟻酸ってやつか?』
【俊足】状態でなかったら、避けきれなかっただろう。マンティスと同ランクなどと侮って、慢心していたようだ。
『また、仕掛けてくる前に倒す!』
一気に接近し、ツインアントに横殴りの一撃を与える。少し焦った為か、刃の向きが悪く、斬ることができなかった。多少よろめくが、耐えられてしまう。溜めの時間を作らせないよう、続けて頭へ突きを入れるが、これは当たらない。大きさの割に動きが俊敏だ。頭が2つあるから、こちらの動きが良く見えるのだろうか。
『点と線だっけ』
突きより、横に振る攻撃の方が、当たり易いんだったよな。ただ、あの顎は固いから、横に振っても止められる可能性がありそうだ。
それなら別の場所を狙うまでと、しゃがみこみながら、足元への水平斬りを試みる。跳びはね、それは避けられる。当たれば良かったが、避けられるのも予想のうち。跳ねた方角へこちらも続く。
足が浮いた状態なら、避けようとしても身を捩る程度。しっかり体の芯を狙い横に振りぬく。今度は刃の向きにも注意した。
両断とはいかなかったが、深く斬ることに成功。ツインアントは着地と同時に、体を支えられず地面に転がる。その隙を逃さず、頭を斬り飛ばした。
「同じランクでも、相性によって大分変わるな。初めての魔物には、特に注意が必要か」
魔石を拾いながら、言葉が漏れる。
補助魔法で、ステータスが強化されてしまうせいか、レベル以上に強い気になってしまっている。油断大抵と自分に言い聞かせ、気を引き締めた。
「とりあえず、時間もまだあるし、もう少し食材を調達してから帰りますか」
野生の畑に戻って、野菜の採取を再開するのだった。
●月白
和色の1つです。
色は、月の光を思わせる薄い青味を含んだ白色。
最初の予定では、《銀苦無》に強化素材を加えるつもりはありませんでした。名前を付けるときに、色々と検索していたらこの文字を見つけ、急遽青色の素材を加えることに。
●この話から、武器の「切る」を「斬る」に変更しました。
切るでも、用法的に間違いではないですが、斬るの方が戦闘には合うかなと思いまして。
武器でない物(爪等の体の一部)は「切る」にしています。




