表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/57

購入に向けて

 レジーさんが帰った後、〈素材屋〉の1室で、また雑談をする。

「家の事はよくわかりませんが、65,000Gは値引きに成功したと言えますか?」

 おばあさんに率直に聞いて見る。

「普通にいけば、68,000Gってところじゃな。わりかし、成功ではないか。普通の人ならばな」

「普通の人、ですか?」

 どういう意味だろう。

「お前さんは、あの蔵を危険な物と思ってないだろう?」

「確証はありませんけど、可能性的には低いと思います」

「あの蔵が安全だった場合、最初の8万G。あれが最安値じゃな。それも、蔵の中身が空だった場合。蔵の中身があること前提での取引なら10万Gはするじゃろう」

「そうなんですか?」

「危険度が低いこと前提で話し合いをしていれば、そのぐらいになるわけじゃ。お前さんの立場から見れば、最初の8万Gが最安値。つまり最低でも15,000Gも標準から値引きに成功したわけじゃな」

「ちなみに、あの蔵で問題がでて、周囲に被害が出た場合はどうなりますか?」

「魔法的に封印があったとなると、封印した者の責任じゃから、手出しをしてなければ、罪を問われることはないはずじゃな。変化の予兆があれば、詰所に報告はすべきだがな」

「今までの話からすると、成功したと思っていいんですね」

 おばあさんは頷く。

「それで、誰が済むの?」

 ドナさんが質問してくる。

「相談しだいで購入だけど、住むとしたら子供だね」

「ケンヤの?!」

「俺に子供はいませんって。知り合いです」

 あれが俺の子供なら、2、3歳の時に子ができたことになる。

「まぁ、そうよね」

 ドナさんが安心している。

「俺ももちろん住みますよ」

「…相手は女の子?」

「男も女もいます」

 ジト目で見てくるのを、受け流す。

「もし、そうなったらご近所さんになるので、その時はよろしくお願いします」

 そう、おばあさんに挨拶をして、帰ることにした。


〈ブラウン〉に戻り、布団の中で少し考え事をする。

 捜索で捕まえた犬2匹は、合計で6万Gになるはす。その金額をスラム内に持ち込ませると、絶対トラブルになるから、家を買う費用に充てた方が良いだろう。勝手に使うのも悪いと思うが、罪償いで俺からの仕事依頼になっている。そこらへんは、自由にさせてもらおう。

 彼らをスラムから出すのに、何か問題はあるのだろうか。それについては、まぁ後でステラに確認するとして、当面の食費をどうするかだよな。宿代が必要無いから、当面は食費分を稼ぐくらいでいいのだが、どんなものがあるだろう。

 そんなことを考えているうちに、だんだん瞼が重くなり、眠りに落ちていった。


 目が覚めると、左腕が少し重い。横を見ると、腕の上にステラが頭をのせて寝ていた。あどけない寝顔を、こちらに向けている。手伝いで疲れたのだろうか。

 夜ご飯まで、まだ時間はある。このまま寝せていると、体が冷えるだろう。床に膝をついているしな。

 そっと、頭の下から腕を抜いて、ベッドから下りる。体を抱えると、布団の上にゆっくり寝かせる。今まで、十分食べられなかったからだろう。体が随分と軽い。

『やっぱり軽いな…って、あれ?』

 腕に引っ掛かりを感じ袖を見ると、ステラが無意識に掴んでいた。しょうがないので、今度は俺が床に座りながら、寄り添って眺めることにした。

 ステラは数分もすると目を覚ました。半分寝ぼけているようだが、俺と視線が合う。

「おはよう」

「おはようございます…って、私いつの間に寝ていたんですか」

「いつだろうね」

 目覚めた時にはすでに寝てたので、俺にもわからない。布団の上に座り、まだ少しボーっとしている。

「布団の上……っ!すいません。私、いつの間に布団で」

 やっと、目が覚めたようで、布団の上で寝ていたことに気付いたようだ。

「布団で寝ていたのは、数分だけだよ。床の上は冷えるからね。それより、左手」

 服の袖をつかんだまま、少しずつ後ろに引っ張っている。このまま引かれると、彼女を押し倒してしまう事になる。

「!」

 俺の袖を掴んでいることに気付くと、慌てて手を放し顔を赤くした。

 そんな彼女を見ながら、隣に座り話しかける。

「ご飯まで時間あるから、少し教えてもらっていいかな?」

 俺は、銀貨1枚を何に使うのか、スラムでの暮らしはどうだったのか尋ねる。

 銀貨については、泊まる部屋の使用量だと言う。部屋は8人から10人で使い、1ヶ月に1回、年齢に合わせた金額を払うとの事。その金額は、4月になると更新される。今までの稼ぎがギリギリだったため、4月になって値上がり分が払えなくなったらしい。9人合わせた金額が、約銀貨1枚。

 払えなくなると、当然部屋を追い出されてしまう。そうすると、外で寝泊まりすることになるが、生活に苦しい大人は容赦しない。こき使われるだけならまだしも、奴隷として売られたり、娼婦にさせられる。どんなに食事が苦しくても、夜部屋で過ごせるだけで、世界が全然違うらしい。

 お金を稼ぐのは、街全体のごみの収集と、分別作業での素材売り。食事は、その稼いだお金で買うか、残飯を食べていたらしい。そういった収集場所や素材売りも、良い場所、良い物は大人が持っていき、余った場所で細々とやるしかないという。

 予想はしていたが、やはり相当厳しい生活を強いられていたみたいだ。

「泊まっている部屋を出ていくのに、何か必要な手続きやお金ってある?」

「部屋を出ていくんですか?」

 そんなことできないって顔をしている。

「外で寝泊まりしろって言ってるんじゃないよ。もし、他に住む場所が確保できたらって話」

「それなら、1ヶ月分のお金を渡すと、自由に出て行っていい事になってます」

「1ヶ月の金額は?」

「みんな合わせて927G」

「今のままじゃ、稼げないんだよね」

 俺の問いに頷く。

 それなら、あの家に住むしかないだろう。

「明日、家を見に行くからついて来てくれる?」

「!!」

 唐突な話に、びっくりして声もでないようだ。

「あんまり広くないけどね」

「その、お金は?」

「みんなに働いてもらった分と俺のお金でね。俺も住むから」

「でも、私達の働き分なんて、そんな足しに…」

「大丈夫。俺がやろうとしていたことを、代わりにしてもらっていたから。それなりの金額になる仕事をまかせたんだよ」

 信じられないって顔をしている。

「俺の事、信じられない?」

 ぶんぶんと首を振る。

「それじゃ、明日見に行く。良いね」

「はい」

 話はこれで終わったけど、まだご飯には早い。

 ついでなので、こないだ感じた違和感について、聞いてみる事にする。

「前に、なぜ人質に立候補したのか聞いたの覚えてる?」

「はい」

「あの時、ソールが可哀そうだからって言っていたけど、本当にそれだけ?」

「ソールは一番年下で、自分で考えず年上の言うとおりにしてしまいます。だから、彼が悪いことをしたのは、年上組の1人である私にも責任があると思ったからです。他の男子を止められなかったから。だから、あの時の言葉は私の本音です。でも」

 そこで、一度言葉を切る。

「でも、もう1つ理由はありました。ケンヤさんに興味が湧いたからです」

「俺に?」

「はい。ケンヤさんが『どうだろう?余裕があるのか、考え方が甘いだけなのか』って言ったのを聞いた時、どんな風に生きているのか気になって、見てみたいと思って」

「あんな言葉に?」

「はい」

 あの時、俺は優しいと言われた。だが俺にとっては、色々な意味で彼らより強かった事から来る余裕だと思ったし、緩い環境で育った甘さから来るものだと思った。それは、優しさだとは思わなかった。ステラは、それを見極めたかったのだろうか。

「それで、まだ1日しか見てないだろうけど、なんかわかった?」

「やっぱり、優しいと思います」

「優しい、か。俺から見れば、自分の事より、仲間の事ばっか考えているステラの方が、よっぽど優しいと思うんだけどな」

 そう言って、ステラの頭を撫でる。ステラは、そのまま俺にされるに任せて、少しだけ寄り添ってきた。


 何もすることなく、そのまままったりと過ごしていると、ドアを叩く音が聞こえる。ステラは、さっと身を放した。

「どうぞ」

「そろそろご飯です」

 ドアを開けて、ショーナさんが入ってくる。こちらを見ると、首をかしげている。

「どうかしました?」

「何かありました?」

 俺の問いに、問いが返ってくる。何かあったかと思って周りを見ると、ステラが赤くなっていた。ショーナさんがこっちをじっと見ている。何だろう、この感じ。ジョージさんの気持ちが少しわかったような気がした。

 先ほどまでの事を考える。何を答えればいいだろうか。

「ステラが俺の事、優しいって言った」

「うん」

「それで、俺がステラの方がよっぽど優しいって言った」

「うん」

「以上です」

「…それだけ?」

「はい」

「何ですか、それ」

「気になるんだったら、後で本人に聞いてみたらどうですか?」

「…それも、そうですね」

 後は寝る時にでも、2人で話をしてくれればいいかなと思う。別に何かしたわけじゃないし。

 そんなことを考えていると、ショーナさんがこちらに近づいてくる。何をする気なのか見ていると、俺とステラの中間ぐらいで立ち止まり、そのままこちらに倒れ込んできた。2人して押し倒され、ベッドの上に3人並んで転がる。

「何の話していたのかわからないけど、2人とも同じくらい優しいと思う」

 そう言って、俺らを抱きしめてきた。

「そういうショーナさんもね」

 温かい気持ちに包まれながら、しばらくそのまま寝転んでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ