南西エリア
目が覚めると、もう午後だった。
昨日、ギルドから帰った後、2時間ほど仮眠をとって、夜間の警備を行った。浮浪者と明け方に浮浪者の下へ1人、初日と同じ人はこれくらいで、他はただの通行人ってところだろうか。特に問題もなく終わった。その後は朝食をとり、睡眠不足だったこともあり、爆睡。午後になっていたというわけだ。
『今日は、西通りの裏手付近を探してみるか』
北西エリアは、昨日騒がしくしたのでやめておく。アリシアさんの説明では、西通りの門に近いエリアは、安宿と軽食を出す店が多いって話だったからな。食べ物があるなら、捜索の余地はあるだろう。
『後は、南西エリアのスラムに、あまり近づきすぎないようにすればいいかな』
ディアナさんの言葉を思い出しながら、捜索を開始する。
北西エリアと比べれば少ないものの、それなりに獣はいた。どちらかというと、こちらは犬の方が多いようだ。しかし、捜索対象に出会う事はなかった。
そんな感じで、西通りの南側を少し入ったところで捜索していた時だった。
「何か探し物」
声をかけられ振り向くと、10歳前後と思われる少年が声をかけてくる。身形はあまり良くなく痩せている。
「犬や猫を数匹探している」
「何でもいいの」
「いや、こいつらを探しているんだが」
試しに3匹分の写真を見せてみる。
「これに似たのなら、見たことあるかな」
そのうちの1匹を指して言ってくる。
「それは、どこら辺で?」
「説明しづらいから、案内するよ」
そう言って、少年は歩き出した。
『さて、これはどういう結果に結びつくかな?』
少年が声をかけてくる前に、もう1人誰か居たのを【索敵】で確認していた。先に、この場から放れていったようだが、仲間でも呼びに行ったのだろうか。
わざわざ、危険に突っ込む事もないとは思うのだが、本当に見つけられるなら、それはそれで楽できる。スラム内は良くわからないし、住んでる人が案内してくれるなら、探しやすい。
それに、俺は一見すると武器を持たない丸腰に見える。正直、強そうにも見えないだろう。そんな相手に、そこまで手の込んだ事はしてこないと予測する。
南西エリアに入らないと決めたばかりなのに、もう流されて入っている。自分の意志の弱さに苦笑した。
『いや、これは臨機応変というやつだ』
内心で言い訳をしながら、少年の後についていった。
しばらくの間、案内に従って狭い路地を進んでいく。用心の為【索敵】範囲を広げながら周囲の監視を強化した。少しすると、のろのろ動く人たちと違い、明確な意思を持って移動している5人組が確認。もしかして、これは俺狙いだろうか。そうなると、予想よりも人数が多い。
俺は足を止めて、作戦を変更する。
「あとどれくらい?」
一応確認してみる。
「すぐそこだよ」
そう言って、笑っている。
「それを見たのって、いつごろ?」
「えっと、今朝、かな」
会話をしながら、5人の行動を確認して、接触のタイミングを計算する。
「行かないの?」
少年が聞いてくる。
『【俊足】』
考えるふりをしながら、魔法を小声で唱えた。
「何か言った?」
俺のつぶやきに、怪訝な顔をしている。
そんな少年を見て、少し試してみることにする。
「今朝、ね。それなら、もう居ないだろうから、引き返すことにするね」
帰ると言ったら、彼はどんな行動をとるだろうか。
「それは、困るかな」
どこに持っていたのか、錆びたナイフを出してきたが、わずかに手が震えている。こういった事には慣れていないようだ。念のため、こちらも後ろ手に隠しながら、《黒蜜》を《短棒》にして準備した。
「一応聞くけど、望みは何かな?」
「持っているお金全部」
それを聞いて、正直少し安心した。捕まえて何かをさせようとか、そういった面倒事ではないみたいだ。お金の要求、そんな単純な事なら、単なる行きずりの犯行。そう考えると、5人の増員も、大したことはなさそうだ。もともと路地は狭いし、いっぺんにかかってこれないしな。
俺が黙っているのを見て、怖気づいたとでも勘違いしたのだろうか。余裕が少しできたのか、話しかけてくる。
「黙ってついてくれば、命までは取らないよ。でも、抵抗したら痛い目みるよ」
「それはどうかな?」
そういうと、一気に間を詰めて、《短棒》でナイフを弾いた。驚いて尻餅をつく少年の背後に回ると、首を強く押さえつけ動けなくする。片手がふさがっているので、《黒蜜》で少年の手を一旦固定してから、縄を取り出して縛った。
「さて、これからどうしようか」
再度《短棒》に戻しながらつぶやく。【索敵】で見るかぎり、5人組はもう少し先の路地で待機していた。待伏せをするつもりなのだろう。少年に確認してみる。
「この先で、待ち伏せしているな?」
「なんで、知ってるの」
驚いたように、こちらを見てくる。こういった悪事に慣れていないのか、反応が正直だった。これなら、色々と情報を引き出せるかもしれない。
「この先の路地に、5人隠れているだろ」
「5人?4人だよ」
はて、そうするともう1人は誰だろう。それにしても、人数を訂正してくるなんて、馬鹿正直すぎる。
「こういった事は、よくしているのか?」
「今日が、初めてだよ…」
子供で、初犯の未遂か。悪い事とはわかっているのだが、詰所に突き出すのも少し躊躇われる。どうしたものかと悩んでいると、
「何してるんですか!」
思わぬ方角から、声をかけられた。5人組ばかり気にしていて、他の人の動きに注意していなかった。
「強盗未遂犯の捕縛かな」
声をした方を見ると、3人の少女がこちらを見ていた。
「ステラちゃん!」
「ソール!」
どうやら、知り合いらしい。
「その子を放して」
こちらを睨みつけてくる少女たち。
「それはできないかな。さっきも言ったけど、未遂とはいえ強盗だからね」
落ちてるナイフを指さして言う。それを聞いて、青ざめる少女たち。
「本当に、そんなことしたの…」
「ついでに言うと、この先で5人待伏せしているよ」
「だから4人だって」
「このように、人数の違いはあるけど、この子も認めている」
「そんな…」
ステラという子はうなだれ、他の2人はおろおろしている。
そんなに悪い子たちには見えないので、そのまま少し話を聞いてみることにした。
この子たちのグループは、10から13歳の少年5人と少女4人。お金が必要だが、銀貨1枚分足りなくて困っていたとの事。少年たちは盗みをしようと考えたが、少女たちはそれに反対だったようだ。ここでも確認したが、盗みの類は今までしてきたこと無いらしい。それと、待伏せの5人目については、今捕まえているソールの実の姉だろうとの事。反対意見だったとはいえ、弟がおとり役になっているから参加したのでは、とステラは言った。
そんな会話をしていると、5人のうち2人がこちらに移動し始めた。いつまで経っても来ないから、様子でも見に来るのだろう。
「もう少しすると、2人ここに来るよ」
俺の言葉に、驚く4人。
「なんでわかるんですか?」
「そういった力を持っているからね。だから、俺に変な事をしようとしても無駄だし、そんなことしたら容赦しないからね」
答えを曖昧にして、何でもできるように見せかける。そうして、抵抗しないように釘を刺した。
4人が素直にうなずくのを見ながら、数メートル先の曲がり角に目を向ける。
「ソール!」
「姉ちゃん!」
隠れて様子を伺ってくると思ったのだが、弟が縛られているのを見て、堪え切れずに飛び出してきたようだ。
「ストップ!」
このまま近づいたら、縄をほどこうとするのは目に見えているので、鋭く声をかけ威圧する。飛び出した少女は、びっくりして足を止めた。
「悪いけど、それ以上は近づかないこと。近づいたり、何か変なことしたら、容赦しない。それから、そこに隠れている奴も出てきな。逃げたら、ここに居る子達がどうなっても知らないよ」
俺の言葉に、隠れていた少年が出てきて、少女の隣に並んだ。どちらも、おとなしそうな子で、こういった荒事には向いてなさそうに見える。
相手は6人。このまま話を進めるには、少しばかりこちらとの人数差が大きいか。何かあって、襲ってくるようなことになれば面倒だ。もっとも俺は大丈夫で、相手に怪我をさせてしまいそうという心配なのだが。そこで、一番落ち着いていそうなステラって子に、小声で話しかける。
『穏便に話を済ませたいから、人質役をやってもらえる?』
俺の小声に反応して、彼女は頷いた。
『ありがとう。武器を出すけど、怪我はさせないから。怖いかもしれないけど、我慢してね』
そう言って、護身用ナイフを取り出して、ステラを片手で捕まえる。
それを見て、他の子達に動揺が走る。
「大人しくしていてくれれば、この子には何もしない」
少しだけ、後ろに下がり距離を取ってから、話を始める。
「君らの事情は知らないが、俺からお金を取ろうとして待ち伏せしたのは事実。だから、今回の計画をした子と実際に手を出したソール、2人を詰所に引き渡す」
俺の話に、みんな真っ青になっている。少年が動こうとするのが見えたので、ナイフを見せる。
「動くなと言ったはずだ」
「でも」
「まだ話は終わっていない。それを聞いてから考えろ」
語尾を強めて、威圧してから、話を再開する。
「聞いた話だと、今回が初めてらしいな。だから、1回くらいなら見逃してもいいと思ってもいる。ただしその場合は、これからいう仕事をしてもらう。人を襲おうとした罰だと思ってくれればいい」
そう言って、ナイフを一旦納めると【写真】を取り出して、近くの少女に渡す。
「そこに書かれている動物を、捕まえてもらいたい。それをすれば、詰所に引き渡しはしない。それと、その間1人を人質として預かる。どうする?」
彼らも生きるのがギリギリなのだろう。体つきを見れば、食べるのに困っているのが分かる。それに、今回は初めてだし、俺も被害を被っていない。俺がちょっと目をつむれば、無かった事に出来なくもない。
ただし、罪は罪。見逃す代わりに、仕事をさせる。スラムについては、彼らの方が詳しい。俺より捜索に向いているから、雇うみたいな形かな。まぁ、もし捕まえられたなら、報奨金は還元してやればいい。現金をそのまま渡すと、罰っぽくないし、多額過ぎてトラブルを起こしそうなので、どういう形にするかはその時になったら考えるつもりだが。
人質は、真面目に働いてもらうためと、罰という認識を持たせるためかな。
俺の話に、彼らは話し合いを始めた。どうするとは聞いたけど、仕事を受けるしか方法は無い。今さら抵抗するなら別ではあるが。
「武器を突きつけて悪かった。少なくとも、ステラ自身は何も悪い事してなかったのにな」
彼女の手を放して、なんとなく頭をなでる。お詫びみたいなもんか。
「話し合いに、参加してきな」
そう言って、彼女を前に押しやる。
数歩前に進んでから、彼女はこちらに振り向く。
「解放して良いんですか?逃げるかもしれませんよ」
「俺から逃げるのは無理だよ。だいたい、捕まえていたのだって、人数頼みに暴れられて、怪我させてしまうのが嫌だっただけ。逃走防止が目的じゃないし」
「優しいんですね」
「どうだろう?余裕があるのか、考え方が甘いだけなのか」
俺の答えを聞いて、少し考えているようだ。
「それより、話し合いに参加しなくていいのか」
「1つ聞いて良いですか」
「何?」
「人質は誰にするんですか?」
少し考える。1番の問題は〈ブラウン〉に連れて行くことなんだよな。多分、女の子の方が都合良いと思う。
「ソールのお姉さんかな」
ソールにとっては、罰になるだろうから、人質の意味合いとしても無難だ。
「それ、私じゃ駄目ですか?」
予想外の提案に驚く。
「どうして?」
「…私たちの中では、ソールが一番年下だから。お姉さんが居なくなるのは、可哀そうかなと」
返事に、少し違和感があったが、嘘をついているようにも聞こえない。
「ステラがそれでいいなら構わない」
「ありがとうございます」
そう言うと、彼女も話し合いに加わっていった。
昨日、ブックマークが2桁になりました。
ありがとうございます。




