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ビギナーズラック

 ギルドで《マタタビ木片》の売っているお店を教えてもらい、5枚入りを購入してから街の北西部へ。とりあえずは、防壁に近い北側から順に北西地域を回ることにした。

「【索敵サーチ】」

 いつもの魔法を、少し広範囲に唱える。それから、意識を中型の獣へと集中した。

【索敵】は周囲にいる人、獣、魔物の位置を教えてくれる。ただ、街中だと、人や獣はとても多く、そのままだと乱雑で使いにくい。今回は、人の位置は必要ないので、獣に意識を集中し、人の存在をなるべく【索敵】内に写さないようにした。

 次に、獣とは言っても、街中では鼠や小鳥などの小動物が多い。今回追うのは、犬や猫なので、それらの小動物系も【索敵】から外す。これは、どうやら生き物のエネルギー量を意識すれば良いみたいだ。

 生き物のエネルギー量は、大きさにある程度比例するらしい。大きなものは見つけやすく、小さなものは見つけにくい。今回のような小さな物を意識から外すのは簡単だった。

『【索敵】はかなり使っていたからな。感覚的に使いこなせるようになってきた。これも、魔力の質と関係あるのだろうか?』

 魔法の事なので、ティルダさんが戻ってきたら聞いてみようと思った。そういえば、今はどこら辺を旅しているのだろうか。数日前の、大変だったが楽しい馬車の旅を、しばらく思い出していた。


 捕まえるのは、かなり難しいとの事だったので、気負わずのんびりと探し始める。獣の位置を辿りながら、1時間といったところだろうか。

『まさか、こんなに早く見つかるとはな』

 あまりにもあっさりと、依頼のあった犬を発見。特徴も合っているし、首輪もついていた。さらに、少し弱っているのか逃げることもない。餌を取り出すと、嬉しそうに寄ってくる。完全に人馴れした、元ペットという感じだった。

 籠に入れるには、ちょっと大きいし、持ち運ぶのは大変そうなので、首輪に紐を付けて引いていく。抵抗することもなく、あっさりとついてくる。あまりのあっけなさに拍子抜けしながらも、ギルドへと向かった。

 ギルドの扉を開けると、目を丸くする2人。

「ビギナーズラックっていうやつですかね」

 俺は笑いながら言うと、お姉さんが一言。

「そんなに、耳に触りたかったの?」

 驚いてはいても、冗談を言う余裕はあるようだった。


 大人しく付き従う犬を、ディアナさんに渡す。2人で、特徴を確認しているが、問題はなさそうだ。

「まず、間違いないでしょうね」

 ディアナさんが言ってくる。

「犬自身の特徴や首輪など、相違点は何もないわね。とりあえずは、依頼者に確認してから、報酬の受け渡しになるけど」

 と言ってくるのは、お姉さん。

「それは、構いません。いつごろ確認に来ればいいですか?」

「この時間なら、今日中に確認できるから、明日以降ならいつでも平気ね」

「それまでは、ディアナの耳もお預けよ」

「残念です」

「それって、本気で言っているの?」

「冗談ですよ、半分くらいは」

「半分は本気なのね」

 苦笑しているお姉さんと、額に手をやるディアナさん。

「その滑らかそうな耳、触り心地が良さそうじゃないですか?」

「否定はしないけどね」

「はぁー」

 そんな軽口を叩きながら、手続きを進めていった。


「それじゃ、2匹目探しに行ってきます」

 気楽な雰囲気を出しながら、カウンターを後にする。

 ドアを開ける直前、思い出したように、お姉さんが言ってくる。

「ちなみに、味付けの濃い調理した肉より、生肉の方が寄ってくるかも」

 俺は、歩きながら振り返り、その話にのった。

「それは、どっちの話ですか?」

「私は、生肉なんて食べません!」

 ディアナさんの大きな声が、閉まる寸前のドアの中から響いてきた。


『そうそう、うまく見つからないよな』

 時間はそろそろ午後3時。これ以上続けていると、睡眠時間が足りなくなる。

『あと3匹、【索敵】内に居るのを確認したら止めよう』

 次の曲がり角を右に曲がれば、すぐのところに2匹と、その先に1匹。それだけ見てから帰ろうと思い、角を曲がる。

『手前の2匹は、白黒のぶちと茶系。これは違うな。奥にいるのは…ここからじゃよく見えないが三毛かな』

 三毛は、確か1晩高い奴だったけど、まさかな。特徴は星のマークが右わき腹にあるとか書いてあったか。

 近づきながらお腹のあたりをよく眺めるが

『三毛ではあるけど、左わき腹しか見えん』

 とりあえず、捕まえてから確認すればいいかと思い、寄っていく。

(ワン)

 唐突な吠え声とともに、【索敵】内に新たに犬が入ってくる。出現場所は、三毛の向かう道の先。走ってこちらに向かっているようだ。三毛はくるりと向きを変え、反対側の道の壁を超えて、行ってしまう。

「なっ、マ、【目印マーク】」

 目の前を走り抜ける一瞬、三毛の脇腹に星の形を確かに見た。見失わないように、慌てて魔法の印をつけた。

「【探索サーチ】」

 ついでに、捜索範囲も拡大した。

 本当は、壁を乗り越えて追いかけたいところだが、猫の入ったところは、人が大勢いる敷地だった。少なければ、10万Gのために飛び込むことも考えなくはないが、数十人居るところに、壁を超えていく度胸は無い。

 細い路地を見つけ走り出す。三毛の速さはそこまでないが、こちらは遠回り。

「【俊足ファースト】」

 素早さも上げた。急げるところで、距離を稼がないと。人通りのない道なので、遠慮なくスピードを出す。そのまま、普通の通りまで一気に駆け抜けると、その後は、安全なスピードで移動する。

 これなら、斜めに突っ切っている三毛の、先回りに間に合うと喜んだのもつかの間、気まぐれな方向転換で、敷地の反対側へ向かう。

『確かに【索敵】は、有利に進められるけど、これはこれで腹立たしいな』

 見えているのに、捕まえられないもどかしさ。これで逃せば、見つけられないよりも性質が悪い。急いで、反対方面へ向かう。

 敷地内を出る三毛にわずかに及ばず、逃げられる。それでも居場所はわかっている。次の敷地は、空き倉庫か何からしい。人の気配は無いのだが、入る隙間も無かった。《マタタビ木片》を使ってみるかと思ったが、臭いが届くかわからないし、倉庫内に生物の反応が多数。

『これが全部猫だったら、間違いなく争いに巻き込まれるよな』

 あきらめて、倉庫の屋根で一休みをする。10分ほど休憩していたが、三毛が再び歩き出すので追いかける。

 その後も、そんな感じで追っているのだが、猫の気まぐればかりはどうしようもなく、あっちへふらふら、こっちへふらふら。捕まえるどころか、近くに寄る事すら出来なかった

 追い始めてから、1時間。やっとチャンスは巡ってきた。

 無人の敷地で出入りは自由。なおかつ、移動を阻害するような狭い隙間などもない。大きな小屋と、まばらに生えた木。三毛の後を追って、敷地内に入る。

『3匹か』

 三毛の他に、2匹猫がいる。もちろん捜索対象外だった。

 どうしようか迷ったが、木片は5枚。3枚使っても問題はあるまい。

『とりあえず1枚』

【格納庫】から取り出してすぐ、3匹は反応する。あっという間に寄ってきた。

 足下に置くと、すぐに3匹は取り合いを始める。隙をついて、三毛を捕まえる。

(にゃー)

 暴れだす三毛に、もう1枚の木片を取り出す。

(ゴロゴロ)

 現金な物で、あっという間に大人しくなった。あとの2匹は、まだ取り合いを続けているのだが、最初ほどの勢いはない。動きが鈍く、じゃれあっているようにしか見えなくなってきた。

 三毛の喉を撫でながら、脇腹を確認。ちゃんと星型の模様があった。

『これで10万Gが手に入る!』

 籠にボロ布を詰めて、万が一暴れても猫が傷つかないようにしておきながら、三毛を入れて扉を閉める。さらに念を入れ、《黒蜜》を使って籠を囲んで、例え籠が壊れても、出られないようにしておく。

『ここまですれば大丈夫だろう』

 準備万端に整えると、籠を背負いながら、ギルドに向かって歩き出した。

『完璧な、魔法構成だな。刻印魔法の【写真】があれば、詳細情報も気軽に持ち運べるし、【目印】で見失う可能性がかなり低くなる。空間魔法の【索敵】ほど探すのに有利な魔法は無いし、補助魔法の【俊足】があれば、追いかけるのも楽になる』

 大金が入るうれしさに頬が緩む。しかし、緩んだのは頬だけではなく、警戒心も同時だったようだ。

 周囲を取り囲む脅威に気付かないまま、ギルドに向かって歩いていた。

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